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< 第1回朝日杯将棋オープン戦 観戦記第14局 >
本戦1回戦 先手 ▲ 木村一基 八段   対  後手 △ 羽生善治 二冠

高勝率者同士の対決

対局日:2008年01月07日

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 最後の朝日オープン選手権者の羽生善治二冠が本戦トーナメントに登場。対するは平成の高勝率男、遅れてきた大物の呼び声高い木村一基八段。500以上の対局数で、勝率7割を超えているのは羽生と木村のみ。つまり、現在の将棋界で最も勝ち慣れている2人の対戦ということになる。

■羽生の一手損角換わりに

 田嶋尉三段の振り駒は、と金が3枚。木村先番で始まった本局は、羽生の後手番一手損角換わり早繰り銀に、木村が腰掛け銀で対抗する形となった。第1図は7筋の取り込みを入れてから△7三銀と後退したところ。ここが序盤のキーポイントだった。

 木村は相手の攻めに乗って進出した二枚銀で、上部に厚い陣形を築く展開が理想。手得をそのまま得に出来れば、わかりやすく優位に立つことができる。羽生は手の進みの遅さ、すなわち低いままの陣形を生かし、素早く攻める流れに持ち込みたい。具体的には△8六歩▲同歩△同飛から形を乱し、先手の手得が厚みではなく隙(すき)になるような順が理想だ。第1図は互いの理想と理想がぶつかり合った局面といえる。

 が、どちらとも理想を実現することはできない。ここで木村が放った▲7七角を見て、羽生は「そうかぁ」とつぶやいた。うまくやっていたのは木村だったのだ。

■自陣角で木村優勢

 ▲7七角は△8六歩の筋を消しながら、斜めのラインで後手陣をにらんでいる。手持ちの角を使うのはもったいないのだが、本譜のように自分だけ攻める展開になれば、手得は得、手損は損というわかりやすい図式が成立する。羽生は感想戦で「囲いにいった手が良くなかったですか?」と▲7七角に対し△7二飛を示したものの、▲8五銀△7四銀▲同銀△同飛▲5五角で「やっぱり自信ないですね」。

 木村は7七角の利きを生かして攻め立て、羽生はひたすら自陣を整備して第2図。図の▲3四歩で、木村の作戦勝ちが明確な有利に変わった。次の▲3三歩成△同桂▲3四歩の攻めが厳しく、適当な受けもない。羽生はもう一度「そうかぁ」とつぶやき、局後には「じっと歩で困りました」と非勢を認めた。木村も優勢を自覚していた。

 しかしそこは羽生。ここから△7五歩▲6七銀左△5四歩と手を渡し、苦しいながらも相手にプレッシャーを掛けていくのが巧みな勝負術だった。桂を与えると△7六桂の王手が入るため、実は見た目ほどの差はついていないのかもしれない。相手にそう思わせることができるのも強者の特権。この信用は実績の積み重ねでしか得られない。

■急転直下の逆転

 木村有利のまましばらく進んだ第3図。ここでの指し手が勝敗を分けた。△3六角の飛車取りには、自然に▲3七飛と逃げておけば優位を維持できたのだ。以下△4七桂なら▲4八玉△4六銀▲3三歩成△5七歩成▲3八玉で一手勝ち。先手玉は思いのほか捕まらない。

 羽生は感想戦で△4八歩▲同金△4七歩の順を示したが、▲同金△5七歩成のときに「ここで行く手があるか。うん、行きますね」と木村。参考図の▲3三銀の打ち込みが利くのだ。参考図は先手玉に詰みは無く、後手玉は▲3二銀成△同飛▲2二金△同飛▲同角成△4一玉▲3一飛△5二玉のところで、▲5三歩とたたく筋があって詰む。第3図で相手の攻めを呼び込み、後で5筋に歩を使えるようにする高等テクニックだ。

 実戦は第3図から▲3三銀△2七角成▲3二銀成△同飛▲2二金△同飛▲同角成△4一玉(第4図)と進み、ついに逆転した。先手は飛車を取られ、さらに飛車を取った馬が金に当たっているのでは、いくらなんでもに条件が悪すぎる。

 第4図の先手玉は△4七桂以下の詰めろ。後手玉は5筋に歩が利かないため先述の詰み手順が成立しない。また、攻防に▲4七飛と打つのは△4五桂がうまい返し技。▲2七飛で馬は取れるものの、△5七歩成で一手一手の寄りとなる。

■最後は即詰み

 第4図から木村は▲7六銀と桂を外したが、すかさず△4九馬が鋭い。▲同玉に△4七飛と攻防に飛車を据え、▲4八角と高い合駒を強要した。▲4八歩合なら△5八銀▲同玉△5七飛成▲6九玉△5八金以下詰み。▲4八金合でも△3八銀▲5九玉△4八飛成▲6九玉△5八金▲7九玉△6八金打以下詰む。

 ここまで利かせてから△5二玉(第5図)がまた憎い。▲4四桂と打たせることで2二馬の利きを遮断し、▲8五銀に頃合いよしと△3八銀。以下は即詰みに討ち取った。

 終始木村ペースで進んだ本局は、気付いたらという感じで羽生に勝利が転がり込んだ。木村にも第3図で勝ち筋があったのだが、序中盤の進展を見ると、あそこまでギリギリの順しか勝ちが無かったのは不思議だ。

 指し手のマジックではなく、流れのマジック。そんな印象すら受ける一局だった。

(後藤元気)
(2008年02月20日 更新)

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