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< 第1回朝日杯将棋オープン戦 観戦記第16局 >
本戦2回戦 先手 ▲ 丸山忠久 九段   対  後手 △ 杉本昌隆 七段

ベスト4をかけての一戦

対局日:2007年12月17日

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■午前と午後の間

 1回戦を勝ち上がった丸山と杉本がベスト4入りを賭けて戦う。朝日杯は基本的に一日2局で、午前と午後に分けて小さいトーナメントをやるシステム。午前の対局が長引いたときのため2局目は15時開始に設定されているのだが、1局目の感想戦を終えて優雅にランチとしゃれこんでも余裕があるため、将棋会館内を所在なさげに歩き回る棋士の姿をよく見かける。一局勝った嬉しさと、午後の対局への緊張感。開始に近づくにつれ、少しずつ後者の色合いが強まっていく。

■パンドラの箱

 杉本の四間飛車穴熊を、丸山が居飛車穴熊で迎え撃った本局。定跡形のうえ持ち時間40分という短さが加味され、両者とも指し手が非常に早い。あまりの早さに記録係の筆記が間に合わなくなったが、それに気が付いた杉本がペースダウン。鵜木学三段の手元を確認してから着手する気遣いを見せていた。

 第1図は定跡形の仕掛けから一直線で攻め合いに突入したところ。この戦型を指す棋士なら誰しも考えたことがある局面のはず。あまりにも激しく、すぐに詰むや詰まざるやの変化に突入するため、公式戦で指されるのは結論が出たときとさえ言われているパンドラの箱なのだ。丸山の指し手は変わらず止まらず。箱の鍵を見つけたのだろうか。

 ちなみに△6七角の打ち込みに▲同銀は、△同歩成からシンプルに飛車を成り込まれて先手不利。ただでさえ相穴熊では金銀の価値が高騰するのに、角との二枚換えでは勘定が合わない。

■そして未開の地へ

 第2図は後手の杉本が穴熊らしい食いつきを見せたところ。駒割は飛車損だが、それ以上に玉の堅さと6七のと金が大きいという判断だ。 実は杉本は▲9六歩△9四歩の交換が入っていない形を公式戦で指している。そのときは△7八銀以下▲6八歩△7九銀不成▲同銀△7八金と進み、以下150手近い熱戦の末に杉本が勝った。

 本局の進展は、杉本はもちろんのこと研究熱心な丸山もその将棋をベースにしているのだろう。時間の使い方を見ても、丸山が秘策を用意していると見て間違いないはず。果たせるかな、第2図から▲6九金打と変化。類似局を離れて未開の地へ足を踏み入れた。

■ソフトの是非

 杉本の攻め、丸山の受けが続く。△5七角に▲6八飛打(第3図)は丸山らしい強防。一度凌いでしまえば飛車得が生きる展開になると見た。逆に杉本は、手付かずの穴熊を頼りに攻め続けたい。

 局後に杉本が「さすがにこれは詰みですよね?」と確認した変化は、第3図から△5八金▲6一飛成△同金▲同飛成△7九角成(参考図)の順。これで後手玉に詰みが無ければ一直線で杉本勝ちだ。

 丸山は「ほぼ詰みだと思っていましたけど」と返したが、いざ詰まそうとして手が止まった。参考図から▲8一竜△同玉で、先手の持ち駒は角金金金銀銀桂に歩が三枚。杉本が「参考図の変化で万が一詰まないほうに賭けても仕方ない」と判断したのも無理はない格好なのだが、簡単な並べ詰みに見える参考図が一筋縄ではいかないのだ。

 朝日杯は盤側で中継されるため、もちろん記者の手元にはパソコンがある。10分ほど「ああでもない、こうでもない」と口頭で変化を言い合い、またダメ、これも詰まないと呟いては途方に暮れている両雄を見て、記者はこの変化は詰まないのだと確信した。でもまあ念のためとソフトを起動させてみると・・・数秒で「詰みました」の表示。

 さて困った。ソフトが詰みと言うのだから、おそらく詰んでいるのだろう。しかし両対局者が熱心に検討している最中に、言い出すのは憚られる。感想戦も勉強の場とすれば、ソフトを持ち出して詰みを指摘するのはいらんお世話だし、逆にこういった一本道の変化の結論を追求するならば言ったほうがいい。

 だんだんと罪の意識に苛まれてきた。とはいえこれで黙っていたら、わかっていてニヤニヤしていたのかと怒られる可能性も出てくる。記者も別の意味で途方に暮れながら、心の底から丸山と杉本を応援した。が、もう10分待っても両者は首をひねるばかり。

 この状況に耐え切れなくなった記者は、とうとう丸山に「ソフトに掛けてみたのですが」と切り出してみた。怒られるのは覚悟の上だ。

 丸山は「そうなの?じゃあ早く言ってよ。そのほうが早く終わるから(笑)」。杉本も笑ってくれている。案ずるより何とやらだった。肩の力が抜けた。参考図からの詰み手順は、▲8一竜△同玉▲7二銀△同玉▲6四桂の筋。先に銀を捨てるのがミソで、▲5四角から合い駒をせしめようとすると詰まなくなるようだ。実戦はここから丸山が優位を築いたため、この一直線の変化が先手勝ちならば第1図は先手有利である可能性が高い。丸山と杉本が詰みの有無にこだわったのは、そういった理由があってのことだった。感想戦にソフトを参加させることの是非は、今後の議論を待ちたい。

■丸山ベスト4へ

 第4図の▲8八銀打が手堅い好手。これで先手の穴熊が引き締まった。第5図は杉本の執念を感じさせる金銀五枚の穴熊だが、如何せん戦力不足。▲6五桂から着実にはがした丸山が勝ち切り、ベスト4一番乗りを決めた。

(後藤元気)
(2008年03月06日 更新)

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