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< 第1回朝日杯将棋オープン戦 観戦記第17局 >
本戦2回戦 先手 ▲ 佐藤康光 二冠   対  後手 △ 行方尚史 八段

「鬼ブロック」抜けるか

対局日:2007年12月23日

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棋譜

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 第1図は佐藤が5七銀を4六に出たところ。この時点で6六の地点の利きは、先手が銀と金で2枚。後手が飛車、角、歩で3枚。▲4六銀は自ら均衡を破る、いかにも佐藤らしいアグレッシブな一手といえる。

■行くか、引くか

 ▲4六銀を前にして、行方は考え込んでいた。やっぱりそう来たか。こんなことなら一手前の△3一玉では、先に角を引いておくべきだったか。力をためるべき局面だとは思っていたけど、どうもため方がよくなかったか。ふとチェスクロックに目をやると、リードしていたはずの残り時間が逆転している。行くべきか、それとも引くべきか。

 ここで△4四角と引けば無難だろう。▲6五歩には△6六歩▲同銀△6五銀として攻めが続きそうだ。しかし△6六歩がはっきりダメでなければ、そう指したい。やって来いと言われて行かないのは、ちょっと精神衛生上良くないんじゃないか。行くべきか、引くべきか。「行けっ」とでも言うかのように、行方は第1図から△6六歩と踏み込んだ。ここまでの消費時間は佐藤32分、行方35分。△6六歩には▲5五銀、▲6六同銀、▲6六同金と三つの応手がある。まず▲5五銀は、△6七歩成▲5四銀△7八と▲同玉△6七金で後手良し。角銀と金2枚の交換だが、先手は取られる駒の位置が悪すぎる。

 次に▲6六同銀。これには思い切って△6六同飛と踏み込む手が成立しそうだ。以下▲同金は△同角▲6四飛のときに、△3九角成▲6一飛成△6一金も、△5一金▲6六飛△6五銀もある。

 △6六同飛のときに▲5五銀と角を取られる順は気になるが、△6七飛成▲同金△5五銀で、次の△6六歩が厳しく玉形の差も大きい。いずれの変化も後手がやれるだろう。本譜、佐藤の選択は▲6六同金。行方はこの手をほとんど考えていなかった。

 ▲6六同金(第2図)には△3三角と引いて、次に△8五桂と跳ねる手が残る。角を引かないで△6六角と切り込むのは▲同銀△同飛に▲7七角とされて、これは逆に後手が苦しい。また、第2図で△6六同飛とするのは、今度は▲5五銀でひどいことになりそうだ。そこで△6八飛成と飛び込んでも、▲同飛が6一の金に当たって大惨事。やはり△3三角と引くのがいいだろう。これは結構うまくいっているのではないか。

■受け止める

 実戦は第2図から△3三角▲6七歩。行方はこの▲6七歩を軽視していた。こう指されてみると攻めの継続が難しく、逆に5四銀が押さえ込まれる可能性まで出てきた。記録係の森村三段が、しきりにチェスクロックを確認している。そして「行方先生、これより1分将棋でお願いします」。

 秒を読まれた行方の選択は△5五歩。自身の駒の伸びは無くなるものの、次に△6五歩で金を取る狙いを見せている。が、佐藤はすかさず▲7五歩。金を助けながら桂頭を狙う、一石二鳥の好手だ。ここからは佐藤ペースで進行していく。

  第3図の▲3六歩は、いかにも玄人筋の指し方。次に▲3五歩や▲3七桂など遅いが着実な手を見せ、「何か動いてこないと事態はどんどん悪化しますよ」とプレッシャーをかけている。

 行方は忙しい。はっきりと聞き取れる大きさで「いやいや、まいった…」とつぶやいて頭に手をやる。そして第3図から△6五歩▲7六金△5六歩と決戦の順に踏み込んだ。この局面から双方秒読みに突入。佐藤は上着を脱いで体を前後させはじめた。いつもの戦闘態勢だ。形勢は依然として佐藤十分。

 2筋突破を狙う▲1五桂に、行方が△1四銀と受けたのが第4図。行方はここに銀を打つようでは苦しいと認識していた。

 第4図から▲5四歩と突き出したのも急所の一着。これに△4二銀と逃げるのは、▲5五銀打から飛車を取られて後手勝てない。

 行方は秒に追われ、もだえながら、局面が崩れないようにバランスを保とうとする。形勢は相手に分があるが、決め損なえばチャンスは生まれる。決め手がありそうな局面だが、まだ自分は負ける手が見えていないのだから簡単ではないはず。

■勝負の角打ち

 秒読みのなか、佐藤も決め手を見つけられないでいた。行方の△3九角(第5図)は終盤特有の開き直った一手。飛車が縦に逃げてしまうと、0手で急所に角を設置されたことになり先手大きな損。選択肢は二つ。この瞬間に攻め切るか、飛車を横に逃げて3九角を取りきるか。57秒を読まれたところで佐藤の手が伸び、スッと▲3八飛。これが敗着となった。

 第5図からの正着は▲4二銀成と踏み込んでいく順。以下△同金▲5三歩成△2八角成▲4二と△同玉▲5四歩(参考図)で、難しいながらも先手が一手勝っていた。途中▲5三歩成に△同金は▲2三桂成△2八角成▲3三成桂で寄り筋。先手玉は飛車と銀を渡してもまだ詰まない形だ。

 苦しい展開を勝ち切った行方は、感想戦終了後に「僕が抜けるなんて誰も思ってなかったでしょう」とおどけてみせていた。確かに佐藤二冠、深浦王位、郷田九段と並ぶ鬼ブロックの中で行方の実績が肩を並べているとはいえないが、合わせて三冠を破った本ブロックでの2連勝は紛れもない事実。胸を張って準決勝を戦ってもらいたい。

(後藤元気)
(2008年03月13日 更新)

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