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< 第1回朝日杯将棋オープン戦 観戦記第20局 >
準決勝第1局 先手 ▲ 阿久津主税 六段   対  後手 △ 行方尚史 八段

ニュースター候補の争い

対局日:2008年02月09日

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棋譜

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 2月9日の有楽町マリオン朝日ホール。この舞台に立つことが出来たのは、羽生善治、丸山忠久、行方尚史、阿久津主税の4人だ。条件は地位も知名度も関係なく、あと2勝。ファンが見守る中で、優勝賞金1000万円獲りの戦いが繰り広げられた。

 準決勝は実績、知名度十分の羽生二冠−丸山九段戦と、ニュースター候補の争いとなる行方尚史八段−阿久津六段戦。本欄は行方−阿久津戦の模様をお届けする。

 なお第1図〜5図までの図面は、両対局者に選んでもらったもの。記者は別々に聞いたのだが、結果として挙げられた局面はほぼ同一だった。

 第1図は行方が2五の歩をパクリと取ったところ。一歩得にはなるが、戻れない駒が前に進むと目標になるやすく「桂の高跳び、歩の餌食」の格言もある。思い切った決断だ。

 「ゆっくりしていると▲3七桂から駒組みを進められてまずい。本当はこちらから先攻できるかなとも思っていたんですが、図の少し前に▲2六角と上がられて、そうもいかないことに気が付きました。△2五桂は勝負手です」(行方八段)。

 「局面が動いたのは△2五桂のところですか。まあ正直言うと、ちょっとありがたいとは思いましたけど(笑)」(阿久津六段)。

 後手は5三銀を6四に上がれば攻撃形が完成するものの、4筋が薄くなるため指しにくい。とはいえ△6四銀と上がらなければ4二の角を使いようがない。△2五桂は、デメリットを承知のうえで角を左に活用する順を見せる意味もある。

 第2図の▲4五銀は、銀を入手しての▲8三銀などを見せて自然に映ったが、阿久津はこの手を2番目に悔やんだ。

 「ここは▲4五銀ではなく▲3七桂が良かった。2五桂は歩で取りに行きたいところだけに指しにくいけれど、△同桂成▲同角の展開は先手が指せていたと思う」(阿久津六段)

 「▲3七桂なら少し苦しかった。本譜は銀打ちがあったので・・・」(行方八段)

 実戦は▲4五銀以下、△同銀▲同飛△4四歩▲4八飛△2七銀(第3図)と進み、後手も戦える格好になった。

 図の△2七銀が、行方が「銀打ちがあったので」と語った一手。▲4七銀と打たれて次の▲2八歩が受からないように映るが、「その順は△8五桂▲8六銀△4五歩で自信ない」と阿久津。▲2八歩と打っても、△4六歩▲同銀△3六銀成で生還されてしまうのだ。とは言っても次に△3六銀成とされては角が助からない。どうも△2七銀と打たれてみると、先手も忙しくなっているようだ。

 第3図からは▲4五歩△同歩▲8三銀の進展。「うーん・・・うん、この将棋は△2七銀と▲8三銀。この銀2枚の対比という見方が正しいですね」(行方八段)

 第4図は△8五桂の活用に▲6八銀と逃げたところ。第2図の▲4五銀は阿久津が2番目に悔やんだ手だったが、最も悔やんだのはこの▲6八銀。ここから阿久津に勝機は無かった。

 「▲6八銀はひどかった。敗着ですね。何はなくとも▲7四銀成と活用しておくべき。以下△7七桂成は▲同桂と応じて、▲6三成銀から▲6五桂と駒を使うことができました。▲7四銀成なら、まだこちらが指せていたと思います。」(阿久津六段)。

 「△8五桂に▲7四銀成と銀を使われていたら、まだこちらが苦しい将棋でした。」(行方八段)。

 △8五桂と▲6八銀の交換が入ったことで先手玉は狭くなり、寄せ合いにおける大きな脅威となった。阿久津がこの桂を取りきるまでに▲8六歩〜▲8五歩と2手掛かるため、8三銀を活用する順番がなかなか回ってこないのだ。銀桂交換を甘受して8三銀を活用することが、本局における最大の急所。阿久津の銀は遅れた。行方の銀は数手後に△3六銀不成と活用することができ、▲4五桂など上部からの攻めを消した。行方が語った「銀の対比」とは、このあたりを指してのものだったのだろう。

 決定的に差がついたのは第5図の△4四飛上。4二で押さえ込まれていた飛車が世に出て、はっきり行方勝勢になった。飛車を成り込まれては支えきれないため阿久津は▲4四同馬としたが、その瞬間に△8六香が痛打。8六のスペースは8五の桂を歩で取ったことで出来たもの。△8六香以下▲7七玉△4四金と手を戻され、先手玉は収拾困難になってしまった。

 「△4四金のところで投げるべきかなと思ったんですが・・・大勢の方が観戦していたので、わかりやすいところまで指しました」(阿久津六段)。

 行方はそれに応えて華麗に決めた。終了図の△7二金がカッコイイ決め手。▲6二成銀と角を取るくらいだが、△7三金打▲7五玉△7四歩▲6六玉△5五金までの即詰みとなる。

 終局後の控え室。朝日新聞の記者に「5時にハイヤーを用意してありますので」と声を掛けられた阿久津は「いや、今日は家に帰る気があまりしないので・・・」と答えた。誰かの「明日の朝5時なら都合いいかもね」の軽口にもニヤリと笑って場を流し、自分のいない決勝戦での大盤解説、表彰式、そして打ち上げにも積極的に参加。その後は関係者と連れ立って飲みに行ったようだ。

 あと2勝で優勝のチャンスを生かせなかった口惜しさ、不甲斐なさは勿論あったはず。さっさと帰って布団をかぶってフテ寝することも出来たが、阿久津は残って全てを見届けた。それが今後を見据えてのことなのか、飲みに行く面子が揃うのを待っていただけなのかはわからない。本人に聞いても、人懐っこい笑顔で「いやぁ、帰ってもやることないっすよ」と、よくあるフレーズで流されてしまうのがオチだろう。

(後藤元気)
(2008年03月21日 更新)

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