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<  第31期朝日アマ将棋名人戦三番勝負第3局  >
▲金内辰明(挑戦者)対△加藤幸男(第30期名人)

新名人誕生の譜

対局日:2008年6月1日

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 大熱戦だった第2局を終え、昼食を挟んで約1時間後の午後1時半から、決勝局となる第3局が始まった。改めての振り駒で先手は金内さんに。流れは加藤さんだが、金内さんも気持ちを切り替えたのか、うつむいて集中力を高めている。約2分後、▲7六歩。加藤さんも約2分、じっと考えて△3四歩。この一局にかける決意が対局室の空気を重くしていた。

■両者得意の相矢倉

 両者得意の相矢倉となり、金内さんは▲3八飛と回り、間合いをはかりながら指す方針をとった。加藤さんが△9五歩〜△7三桂と9筋の攻勢を見せてから△4二角と上がったのを見て▲3五歩(第1図、35手目)と仕掛ける。▲3五同角に加藤さんはすかさず△5五歩。▲5五同歩なら△9六歩▲同歩△9七歩で、▲同香だと△8五桂から香を入手して△3四香の田楽刺しがある。そこで金内さんは▲4六角。加藤さんは△5六歩と先手の陣形を乱してから9筋から攻めかかった。

 この辺りの実戦心理が面白い。△9七歩▲同香と味をつけてから△9二飛と回られ、金内さんは「もうダメか」と落胆していた。△8五桂からの攻めが厳しそうに見えたからだ。▲8六銀から▲6五金(第2図、49手目)は「これしかない」という勝負手だったという。

■1カ月前の実戦例

 一方の加藤さんの心理を左右していたのは、第2図まで同一局面のプロの実戦例の存在だ。1カ月ほど前に指された▲村中秀史四段―△豊島将之四段戦で、稚内市在住の金内さんはまったく知らなかったが、研究熱心な加藤さんはよく知っており、比較検討しながら読んでいた。前例は第2図から△9八歩▲8五銀△同歩▲9五桂と進んだ。加藤さんはこの局面に自信が持てず、▲9五桂が金内好みの粘り強い手に思えて、△9七桂成と前例から分かれて攻め込む順を選んだ。

■受けの妙手

 しかし、結果論ではあるが、金内さんの粘り強さの幻影を強く意識しすぎたようだ。△9六飛と走った手に対して、金内さんの▲8九桂(第3図、55手目)が加藤一二三九段も称賛した妙手。形で▲9八歩と受けると△9五飛と引かれ、次の△9六歩が厳しいが、桂打ちなら飛車引きに▲9六歩と打てる。加藤さんはやむなく△6四香と金取りに打ったが、▲5七銀の味がいい。加藤さんは「銀を上がらせない将棋にしたかった」と局後語ったが、この辺りでペースを崩していく。

■名人の大ポカ

 そして、次の△9二飛(第4図、58手目)で形勢を損ねてしまう。ここは加藤九段の指摘通り、△6五香と金と取ってから△3一玉と寄っておけばこれからの将棋。▲8三角と打たれてはおかしい。次の△8二飛ではまだしも△9三飛と浮く一手で、▲6一角成△9六歩から攻め合うしかなかった。△8二飛と寄ってしまったため、▲7四角成△7三歩▲6四角と香車をただでぼろっと取られ、将棋は終わった。△6四同歩は▲4一馬で終了。

 急に良くなった金内さんはかえって動揺し、気持ちが浮つきかけたという。しかし、「慎重に、負けないように」と気を引き締める。しっかり読んで▲3五歩(第5図、81手目)と攻めの拠点を築き、負けない態勢を築く。以下の指し方はアマチュアの参考になるだろう。3五の拠点を生かして▲3四香と打って囲いを弱体化。2筋と3筋を歩で乱し、上ずった金に▲4六銀とぶつけて交換を迫り、最後は▲1七桂と遊び駒も活用。終了図以下は簡単な詰み。

 加藤さんは「全体的に見落としが多かった。内容が悪かったので負けたのはしょうがない」。金内さんは「加藤さんにはアマ竜王戦の決勝で負けているので雪辱が出来てうれしい。勝てたのは家族や地元の皆さん、職場の皆さんが応援し、支えてくれたおかげ」と満面の笑みで振り返った。

 群雄割拠のアマ棋界で最北の地からの全国制覇は快挙といえるだろう。

(丸山玄則)

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