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<  第2回朝日杯将棋オープン戦観戦記第2局  >
1次予選1回戦 ▲戸辺誠四段―△清水上徹アマ

トップアマとして

対局日:2008年7月12日

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 清水上徹アマは1980年生まれ。NECに勤務する会社員で、前朝日アマ名人の加藤幸男アマとは同僚だ。小、中、高、大の各世代の全国大会で優勝し、社会人になってからはアマ名人、アマ竜王、アマ王将を獲得している。名実ともにトップアマの一人だ。

 9月から東京・北千住で月2回程度、子ども教室を開いて後進の育成にも力を入れている。詳しい情報は教室のブログ(http://kita−kids.at.webry.info/)を見ていただきたい。

 戸辺は1986年生まれ。2006年10月に四段昇段した。昨年は第20期竜王戦6組で優勝。明るく快活な青年だ。普及や後進の育成にも熱心。すでに弟子を取り、その弟子は奨励会入会を決めた。「うまく(対局と普及を)両立して、棋士として人間として成長していきたい」と語る。

■緊張の面持ち

 戸辺は午前9時ごろ、控室にきて、緊張の面持ちでいすに座った。記者はこれほど緊張している戸辺を初めて見た。「勝たなくてはいけないと思いすぎて固くなってしまった」と振り返っている。対照的に清水上アマは加藤アマと談笑し、余裕を感じた。清水上アマは本局までにプロアマ戦を9局指しているが、その経験によって適度な緊張感を保つコツを会得したのだろう。

 振り駒の結果は歩が3枚。戸辺の先手に決まった。石田流や中飛車が得意な振り飛車党の戸辺。本局も▲7六歩から▲7五歩と伸ばした。

 対する清水上アマも振り飛車党。8手目△5三銀と相振り飛車を目指す。10手目△4四角が目新しい。早くも前例のない局面だ。「△4四角は前日の思いつき。面白そうだと感じ、思い切って指した」と清水上アマは語った。

■無難にすぎた

 第1図は清水上アマが24手目△7二銀と上がった局面。戸辺は▲5八金から▲4七金左と矢倉に組んだが、第1図では強く▲6五歩と突く手があった。△3六歩▲2八銀△7一玉(角交換から▲8二角を消す)▲4四角△同歩▲2三角と進めば、先手は馬を作れて十分。これなら後手の駒組みをとがめていた。10手目△4四角について、清水上アマは「さすがに無理筋なので、二度とやらないと思います」と語っている。

 本譜の▲5八金は穏やかだが、後手の主張を通してしまい、先手の作戦負けになった。局後、戸辺は「無難に指しすぎました。△4四角をとがめる手を狙うべきでした」と反省した。

■苦しい長考

 第2図(46手目)は清水上アマが角を引いて△4四歩から4筋の攻めを狙ったところだ。この局面で戸辺が長考。持ち時間がみるみるうちになくなっていく。結局15分以上考えて▲8八飛と回った。この長考について戸辺は「相手の言い分を通しすぎて作戦負け。どうやったら粘れるか考えていた」と語った。後手が52手目△4五歩と仕掛けた局面は後手良しで見解が一致。先手の銀桂は後手の銀桂と比較して、出遅れている。その分だけ後手のパンチの方が重たいのだ。

■駒の勢いに差

 戸辺が反撃して迎えた第3図(65手目)。ここで△6四同金が強手だった。▲8四飛が見えるが、以下△8三歩▲6四銀△8四歩▲5三銀成△4六歩で後手が勝てる。仕方なく▲4六銀引と退却したが、△4五歩▲3七銀左に△5五金が継続手。直前まで受け駒だった金を攻めの主役にスイッチさせる非凡な発想で中央を制圧した。清水上アマは△5五金で手応えを感じたという。先手の銀が2歩下がり、後手の金が2歩進む。駒の勢いに差がついた。

■後手勝勢に

 苦しいながらアヤをつけて反撃する戸辺だったが、第4図(80手目)の△4六歩に▲5八銀と引いたのが失着。△8四馬と拠点の歩を払われてはまずかった。飛車を取っても後手陣に響かない。逆に△4七銀から攻めが厳しかった。▲5八銀では▲4六同銀直△同金▲同銀△同馬▲3七金打と清算すれば先手にもチャンスはあった。「先手玉が堅くなるので、まだ長い勝負だと思っていました」と清水上アマ。「▲5八銀△8四馬からは(先手が)勝てないですね」と戸辺。

■アマの快勝

 第6図の△7四金(96手目)が決め手。自陣をしっかり守っておけば、ゆっくりした攻めで間に合う。この後の清水上アマの指し方は見事。1分将棋にもかかわらず、慌てることなく冷静に先手玉を追い詰めていく。表情を変えず駒を進める姿は威圧感があった。

 戸辺は徹底抗戦に出るが、相手が焦ってくれないことには逆転しようがない。戸辺の表情が徐々に曇っていく。△5八飛(終了図)を見て戸辺は沈痛な表情で投了を告げた。▲2九銀と受けるくらいだが、△1二香▲1三歩△同香▲同角成△2八金▲同銀△1七銀で先手玉は詰みだ。

 快勝の清水上アマは、大盤解説会場でも、落ち着いて感想戦を行っていた。一方、戸辺は大盤解説会場ではファンの前で気丈に振る舞っていたものの、控室に戻っての感想戦では気落ちし、口数も少なかった。敗戦のショックは小さくない。それでも、本局の数日後の対局を勝ち、その後も4連勝した。厳しい敗戦を喫しても、立ち直りが早い。前途ある若者が見つめるべきは過去より未来だ。さらなる活躍を期待したい。

(君島俊介)

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