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<  第2回朝日杯将棋オープン戦観戦記第6局  >
本戦1回戦 ▲畠山鎮七段―△渡辺明竜王

歴史的決戦を前に

対局日:2008年12月15日

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 7月のプロアマ戦を皮切りに始まった第2回朝日杯将棋オープン戦もいよいよ本戦トーナメントに入った。開幕局は12月15日の渡辺―畠山戦。次戦の相手を決めるはずだった羽生善治名人―堀口一史座七段戦は堀口七段が体調不良のため不戦敗となり、本局の勝者は対戦前から午後の相手が羽生名人と決まっていた。

 渡辺に羽生名人が挑戦している第21期竜王戦は渡辺が3連敗後に3連勝と巻き返していた。第7局はこの対局の2日後に予定されており、その背景を意識しないわけにはいかない。

 渡辺もやりにくさを感じていたが、1局目で勝って羽生名人と対戦することになったら、流れを変えないために手の内を隠さず勝負するつもりだったという。

 畠山は何が何でも勝つ意気込みで本局に臨んだ。もちろん、どの対局でも勝つ気は満々だが、渡辺―羽生戦が実現すると、どちらが勝っても竜王戦の流れが変わってしまうことに複雑な思いを持っていた。

 両対局者とも早めに対局室に入り、対局開始を待つ。寒いからなのか、のどが渇くからなのか、渡辺はしきりにお茶を飲んでいる。畠山はすでに気合十分の様子で盤上に鋭い視線を落とす。

■意表の作戦選択

 両者は矢倉を得意にしている居飛車の正統派。過去の対戦3局はすべて相矢倉だった(結果は1勝1敗1千日手)。記者は本局も相矢倉だろうと考えていたのだが……。後手番になった渡辺は▲7六歩に△3四歩と応じ、▲2六歩に中央の歩を突き出した(第1図)。ゴキゲン中飛車を指向したものだが、指したのが居飛車党の渡辺とあって意表を突いた。「長時間だとあれこれ気にしそうだが、早指しなら気にしている暇がないので慣れない戦型にチャレンジした」と渡辺。7月の大和証券杯で佐藤康光棋王に三間飛車を指しているが、大胆なことをするものだ。

 畠山にとって第1図は予想外だったのか、一度席を立ち、気持ちを落ち着かせてから▲4八銀を着手した。

■ハプニングと余裕

 第2図は先手が二枚銀の作戦を明らかにしたところ。この後に▲3六銀や▲6六銀と繰り出す狙いだ。畠山はここ数年、第1図から▲2五歩△5二飛▲2二角成とする「丸山ワクチン」を多用していたが、最近は二枚銀が面白いと考えているそうだ。畠山は▲7七銀と上がって、また席を立った。

 渡辺が第2図の局面で考えていると、記録係が急にソワソワしだした。「おやっ?」と思っていると「失礼します」と記録係も席を立ってしまった。手番の渡辺は苦笑交じりに「失礼されたよ」とつぶやく。ピリピリしていれば、ムッとしていたかもしれないが、笑うだけですぐに盤に集中する渡辺から大勝負を直前に控えているとは思えない余裕が感じられた。記録係はすぐ対局室に戻ってきたのでさほど影響はなかった。秒読みのときに使うストップウオッチを用意し忘れていたようで、しばらくして塾生の奨励会員が持ってきてくれた。

■見解の分かれる端歩

 畠山は関西奨励会の幹事を務めて7年になる。後進の育成や指導に熱心で、以前、記者が仕事で関西将棋会館を訪れたときにも弟子の齋藤慎太郎三段とVS(1対1の練習将棋)をしていた。ここ数年は毎年、関西から有望な棋士が誕生しているが、畠山の熱心さがいい影響を与えているといえるだろう。2008年も関西から稲葉陽四段、西川和宏四段、吉田正和四段が誕生している。

 さて、盤面。第3図は畠山が▲9六歩と端歩を伸ばして様子を見たところ。△9四歩と受けるかどうか悩ましいタイミングで、実戦は△3三金▲9五歩△4四金と中央に金を活用した。渡辺は端を攻められなければ玉が堅いので△9四歩と受けなかったという。振り飛車党の意見を聞いてみたいとも……。

 △4四金には▲4五歩△5四金▲4七銀△3五歩▲2八飛と手薄な2筋を狙う指し方もあったが、畠山は▲4五銀から▲3四銀と積極的に攻めていく。金銀交換を果たし、「ちょっと指せるかな」と考えていた。

■攻め急ぐ

 第4図は△6五銀打と銀の頭に銀を打った局面。大味な印象を受けるが、渡辺陣は5筋以外の歩が伸びていないため細かい攻めが難しい。畠山はこの銀打ちを軽視していたというが、▲7七銀と引き、△5六歩▲同歩△同銀に▲6八銀とさらに引いたのが、8八角の利きを通す面白い順だった。△5七歩とくさびを打ち込まれても、▲4八金と辛抱すれば決定打にならない。

 しかし、次の△5五銀(第5図)に▲3四歩は攻め急いだ。もう1手▲3六飛と辛抱し、△6四歩に▲3四歩と打てば、△同歩▲同飛△3三歩▲5三歩△同飛▲5四歩△5一飛▲5五角△3四歩▲1一角成の進展が予想され、難しい勝負が続いていた。「▲9六歩から▲9五歩と堂々と位を取ったのに、もっとじっくり指さないと。方針が中途半端だった」と畠山は悔やむ。

 本譜は▲3四歩に手抜きで△4六銀と出られ、以下▲3三歩成△4七銀右成▲4三とに△5六飛と浮かれてみると案外大したことがなかった。

■渡辺快勝

 △5八歩成(第6図)とと金ができて渡辺は勝ちを意識した。畠山は▲7九金と守りの要を取られないように頑張ったが、△6八と▲同金△2八飛と着実に迫られてはさすがに苦しい。86手目の△8九金で畠山は投了した。終了図は先手玉が△8四桂以下の詰めろで、一手一手の寄り筋だ。

 畠山としては気合が空回りした1局になってしまった。快勝した渡辺は2回戦で羽生名人と対戦する。

(君島俊介)

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