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<  第2回朝日杯将棋オープン戦観戦記第8局  >
本戦1回戦 ▲丸山忠久九段―△木村一基八段

丸山が同門対決制す

対局日:2008年12月18日

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■兄弟弟子対決

 A級棋士同士の対戦。ふたりとも午前9時50分前には対局室に入り、ペットボトルのお茶や扇子を用意している。木村は特に早く、対局開始20分前には席に着いていた。

 丸山と木村の師匠は故・佐瀬勇次名誉九段。ふたりは兄弟弟子にあたる。佐瀬一門は棋界有数の名門で、両者のほかにも米長邦雄永世棋聖、高橋道雄九段、田丸昇八段がA級経験者だ。

 丸山は第1回の準優勝者で今回こその思いは強いだろう。意外なことに本年度の成績は13勝15敗の負け越し。本棋戦を復調のきっかけにしたいところだ。木村は本局までに10連勝しており絶好調。本年度は王座戦で挑戦者になり、竜王戦や棋王戦では挑戦者決定戦に進出する活躍を見せている。しかし、テレビ対局などの持ち時間の短い棋戦では成績が良くないのが気がかりだ。

■1手損角換わり

 両者の対戦は1手損角換わりや横歩取り△8五飛など、定跡最前線の将棋がほとんどだ。本局も後手になった木村が1手損角換わりを採用した(第1図)。流行してから5年ほどたつが、プロ間での人気はとどまることを知らない。

 丸山は玉形を整備してから▲2七銀と棒銀に出た。後手が手損しない通常の角換わりの場合は腰掛け銀を目指す丸山だが、1手損角換わりの場合には棒銀や早繰り銀にすることが多い。手得を生かして急戦を狙っている。

 後手の立場からすると、自分から手損しておいて急戦で不利になってはばかばかしい。その意味で▲2七銀からの数手はすでに勝負どころといえる。

 木村は▲3六歩に数度うなずいてから△5四銀と腰掛け銀に構えた。棒銀対策としては珍しい指し方だ。△5四銀では△4四歩▲3五歩に△5二金や△4二飛といった順が定跡化されているが、木村はある局面を思い描いていた。

■温めていた作戦

 第2図は丸山が▲7九玉と玉を引いたところ。木村は少し前にこの局面と類似した将棋を指していた。2008年10月に指されたA級順位戦の▲三浦弘行八段―△木村戦がそれだ(参考図)。参考図から△5五角▲4六銀△7七角成としたのが無理筋で、短手数で三浦八段が勝っている。

 A級順位戦のネット中継の棋譜コメントを読み返すと、参考図の局面で木村が「△1四歩も考えたけど、▲7八金と上がられてそれでまたわからない」と感想戦で語っている。参考図で△1四歩▲7八金と進めてみると、第2図と同じ局面になることに気付く。本譜の進行は木村が対三浦戦のころから温めていた作戦だったわけだ。

 細かいことをいうと、参考図は早繰り銀(▲4六銀〜▲3五歩)からの進行だった。後手の指し方がうまくいけば、棒銀対策と早繰り銀対策を一本化できるかもしれない。そうなれば、後手側の苦労がだいぶ減ることだろう。本局は1手損角換わりに大きな影響を与える可能性を秘めている。

■激しい流れに

 丸山はポーカーフェースで淡々と指している。▲3四歩とくさびを打ち込み、後手に壁銀を強要させた。形勢に自信を持っていたようで「(先手が)悪いと思えなかった」と感想戦で語っている。木村も自分が悪くないと見ているから第2図に誘導したわけで、異なる価値観や考え方がぶつかり合っている。その瞬間の攻防が将棋のだいご味といえよう。

 丸山は▲6六銀から▲7七桂(第3図)と積極的に駒を進出させていく。木村も△9四角と打って攻めを狙う。局面の流れが激しくなってきた。両対局者にも動きが出て、席を立ったり扇子をパチンパチンと鳴らしたりする。

 居玉のまま△6二飛と反発する木村に対し、丸山は小さな駒音で▲7三銀成の強手を放つ。▲7五銀引などと逃げているようでは指し手に一貫性がないし、△6五歩と打たれて困る。▲7四歩の局面(第4図)が勝負どころだった。

■急転直下の終局

 力強い手つきで指された△6三金は強気の流れに沿っているし、木村得意の頑強な受けが出たように思えた。しかし、結果的にこの手が失着だった。桂を取られた後の▲6五桂打から▲9五角が厳し過ぎた。▲9五角からは急転直下。▲6二金から飛車を追い立てて、あっという間に丸山勝勢になった。後手陣は壁銀が痛く、さすがの木村も粘りようがない。

 ▲2六飛と働きの弱い駒を使ったのが最後の決め手。「勝ち将棋、鬼のごとし」というが、優勢になると、自然に好手が出てくるものだ。▲2六飛△6五銀▲同桂と効率よく駒を補充できた。終了図は後手玉に詰みこそないものの、一手一手の寄せで投了もやむをえない。

 戻って、第4図の▲7四歩には△7二歩と受ければ▲7三歩成△同歩の後、(1)▲7四歩△同歩▲7三角△4二玉、(2)▲6五桂打△4二玉▲7三桂成△6六飛▲同歩△4九角成、(3)▲8五角△同角▲同桂△6三金で、いずれもまだ難しい勝負だった。木村は「そうか、結構大変なんだな」。

 局後、第3図の▲7七桂が疑問視された。▲5八金△4二玉▲6八金右△9四歩▲9六歩と固めていれば先手十分の駒組みだった。「(後手が)ちょっと苦しいですかね。作戦負けですね」と木村も認めている。

 木村の研究は仕切り直しとなったが、失敗は成功のもと。このような積み重ねが新しい発想を生み、定跡を進歩させる。木村が次にどのような棒銀対策を見せるのかが楽しみだ。

(君島俊介)

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