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<  第2回朝日杯将棋オープン戦観戦記第10局(下)  >
本戦2回戦 ▲佐藤和俊五段―△丸山忠久九段

佐藤が名人経験者連破

対局日:2008年12月18日

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■形勢急転、大逆転

 第5図は先手が▲4四桂と打った局面。ここで丸山が△3一金と引いていたならば、ほぼそれまでだった。丸山陣には強固な防護壁が残ったまま、佐藤陣に対しては攻め手に困らない。こうした冷たい指し回しは本来、丸山の最も得意とするところ。本譜の△4四同飛はなんたることか。「いやあ、飛車切り暴発だったよ。切った瞬間にダメだと気がついた。全然忙しくないのに」。局後しきりに、丸山はぼやいていた。

 ▲4四同成銀△3五桂で一見決まっているように見えるが、▲3四成銀が上部を手厚くした攻防手。△4八馬に▲同玉と応じられるのも丸山の見落としで、形勢は急転。あっという間に佐藤勝ちとなっている。△2七桂成は仕方のないところ。そうした流れの中で▲8八角(第6図)が放たれた。

■詰むや詰まざるや

 佐藤の▲8八角を見て記者は思わず身を乗り出した。そしてすぐに「絶妙手が出たのか?!」とコメントに記す。局後、あちこちで話題となった一手だ。後手は△同竜と応じるよりないが、竜の利きをそらし、先手玉への脅威が薄れたのを見て▲4一馬が決め手だ。ただし▲8八角△同竜を入れず、単に▲4一馬も成立していた。以下△4七歩▲同玉△4九竜▲3六玉は、危ういながらも先手玉は詰まない。しかし怖いところで、実戦的には佐藤が選んだ順の方がよさそうだ。

 本譜、佐藤の▲4一馬に対して△4七歩▲同玉△2五角の王手成銀取りは、▲3六飛合が用意の合駒で、怖いながらも先手の勝ち。よって丸山は△4二金打で受けに回った。以下▲同馬△同金▲3三金△同桂▲同桂成△同金(第7図)でいよいよ佐藤の勝ちがはっきりした。簡単ではないが、後手玉には詰みが生じているのだ。

■再逆転?

 第7図からは▲5二飛で先手の勝ちだった。以下△3二歩▲3三成銀△同玉▲2五桂△2四玉▲3五金△同玉▲5五飛成で、ぴったり詰みだ。しかし、佐藤は代わりに▲6二飛。「5二から打って詰みじゃないの?」と局後に丸山。「本譜詰みが見えてなかったんで……。でもこの保険はなかったですね」と佐藤は頭をかいた。保険とは業界用語で、他に狙いを持たせる意味。本局の▲6二飛は、いざとなれば、後手の6五成銀を抜いて、自玉を安全にする狙いがある。

 ▲6二飛以下は△3二歩▲3三成銀△同玉▲2五桂△4三玉▲4二金。これで後手玉は捕まっていそうでもあるが、△5三玉▲5二金△4三玉▲4二金△5三玉▲5二金△4三玉(第8図)と進み、きわどく連続王手の千日手(禁じ手)で詰まない。王手を続けて同一局面が4回生じると、反則で佐藤の負けとなる。佐藤は手を変え、▲6三飛成から▲6五竜と保険を行使した。しかし詰んでいる玉を詰まさずにすんなり勝てるほど、丸山は甘い相手ではない。手番をにぎった丸山は△3九銀と迫る。佐藤が▲4七玉(第9図)と逃げ、再び勝敗不明の局面となった。丸山の次の一手は?

■佐藤、堂々のベスト4

 第9図では△3五桂▲5六玉△9二角という手があった。丸山が逆転勝ちを呼び寄せるための妙手順で、局後に指摘したのは佐藤だった。以下▲7四銀△2五玉は「おかしいですよね」(佐藤)。確かにそう進んでみれば、どちらが勝っているのかわからない。丸山は気づいてなかったそうで、「そうか、難しかったのか」と一瞬難しい顔。続けて「いや、(▲5二飛で)詰まされていたんだから、難しくはないんだけど」と笑った。

 ただし本譜の△3七成桂▲同桂△3六角も迫力のある寄せ。▲同玉ならば△4四桂がぴったりだ。盤側の記者はどちらが勝っているのかわからなかった。佐藤は▲5六玉と逃げ出してため息をつく。形勢暗転にあきれて、ではなかった。勝利を確信して安堵(あんど)のため息だったのだ。先手玉は上部が広くてつかまらない。

 対して後手玉は広いようでもそうではない。▲2六桂(終了図)と打たれたところで、丸山は駒を投じた。以下は△3五玉に▲5五竜と切って、△同角成▲3五金△2六玉▲1七銀△3七玉▲3八金までで詰みとなる。

 終了時刻は午後4時20分。佐藤は森内九段に続いて丸山九段をも破る快挙で、ベスト4に進出した。感想戦が終わって丸山が去った後、記者は思わず佐藤に向かって、「いやあ、強いですねえ」と言った。本心からそう思った。シャイな佐藤はくすっと笑って、「いや、序中盤がひどいので……」。佐藤の快進撃は、はたしてどこまで続くのか。全棋士参加棋戦優勝という大殊勲までは、あと2勝。2月14日におこなわれる準決勝では、阿久津主税六段と対戦する。

(松本博文)

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