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<  第2回朝日杯将棋オープン戦観戦記第11局  >
本戦1回戦 ▲佐藤康光棋王―△三浦弘行八段

佐藤が三浦倒し2回戦へ

対局日:2009年1月9日

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■バタバタした朝

 実績十分のA級棋士同士の一戦。両者は翌週にはA級順位戦でも対戦することになっており、その前哨戦という意味でも負けられないところだ。

 本局が行われた1月9日は、東京で初雪が観測され、寒さの厳しい朝だった。この日は松尾歩七段―阿久津主税六段戦も行われ、その対局と本局の勝者同士がベスト4入りをかけて戦うことになっていた。佐藤は午前9時45分ごろに対局室に入り、上座に着いた。眼鏡をふいたり、扇子を取り出したりして三浦を待つ。三浦は9時55分ごろに慌てた様子で対局室に入った。佐藤が駒箱を開けると、駒をすばやく並べて、バッグから扇子や飲み物を取り出した。

 記録係の知花賢二段の振り駒は歩が3枚。佐藤の先手番に決まった。

 三浦は振り駒の結果を見て、バッグからさらに目薬やポケットティッシュを取り出し、急いでクローゼットにしまった。三浦が席に着くと定刻10時になり、対局が開始された。対局前にバタバタしていては集中できないのではないかと思ったが、無用の心配だったようで△3四歩と突き出したときの三浦の目つきは鋭く、対局モードに入っていた。

■久しぶりの作戦

 佐藤は本譜で見られる端歩を突き越してから角交換する作戦を1年以上封印しており、久しぶりに採用した。三浦は慎重に考えて駒を進め、△7二銀の局面(第1図)ですでに8分消費していた。佐藤はこの△7二銀に反応し、▲8八飛の「ダイレクト向かい飛車」ではなく、▲6八飛と四間飛車に構えた。「△6二銀型と違い、△5四歩〜△5三銀と受ける選択肢がない」と佐藤。

 佐藤は玉の囲いを簡単に済ませて積極的に動く。▲6六歩で△5四銀を促し、▲7五歩と位を取った。以下の進行で分かるように▲7六銀と繰り出す狙いだ。

■佐藤、主張を通す

 第2図は佐藤が▲7七桂と8筋を受けずに突っ張った局面。この瞬間は先手陣が不安定だ。三浦は勝負どころと見て長考した。後手の攻め方はいくつか考えられるが、

 (1)△8六歩▲7六銀△8七角と打ち込む攻めは▲8五角△7六角成▲同角△8七銀▲8五角△7八銀成▲同飛△8七歩成▲9六角打(参考図)で先手よし。(2)△7四歩▲同歩△7六歩は▲同銀△8九飛成▲8八角で後手の龍が助からない。(3)△7四歩▲同歩△8六歩というひねった攻め(▲8五角や▲9六角のラインが止まっている)もあるが、▲7六銀△8七角▲6七金△7六角成▲同金△8七歩成▲8五桂△7七と▲同金△8五飛▲6七角で先手十分。

 ということで、三浦は△3一玉と自重したが、▲8五歩と打って佐藤が主張を通した。先手は8筋に飛車を転換させて逆襲する狙いもできた。先手は左右に三つも位を取り、伸び伸びしている。

■意表の角打ち

 両者の対戦成績は本局まで佐藤16勝、三浦2勝と星が偏っている。三浦としては、一つずつ返していくしかない。昔、中原誠十六世名人と加藤一二三九段の対戦成績が加藤九段から見て1勝20敗だったこともあったが、その後はほとんど五分の成績になっている。佐藤と三浦の対戦成績がどのように推移していくのか興味深い。

 第3図で△4四角と打って仕掛けに備えれば無難だが、▲6七金△4二金右▲8八飛と矛先を変えられて後手は作戦負けになりそう。そこで三浦は攻めてこいと単に△4二金右と寄った。▲6五歩には△同歩▲同銀△同銀▲同飛△4六歩のつもりだったが、▲同歩△4七歩に▲5九銀と受けられて手にならない。本譜の△3五角は予定変更だった。

 しかし佐藤は「(△3五角に)受け方が分からなかった」という。簡単に受かりそうだが、▲6七金では△6五歩▲同銀△6六歩が嫌みだ。実戦は▲5八金と上がったが、形が乱れた。

■直線的な流れに

 三浦は局面を考えるときに盤面ではなく、窓の外や床の間に目をやる。頭の中の盤面を動かすときに、実際の盤面は見ない方がよいのだろう。「1秒間に1億と3手読む」と言われる佐藤は盤面を見詰め、横を向くこともせず没頭している。局面を考えるにしてもアプローチの仕方が違うのが面白い。

 第4図では単に△4四角も有力だった。以下▲7六銀△6六歩▲6九飛の進行が予想され、本譜よりもいくぶん穏やかな展開だった。先手は▲8九飛を後手は端攻めを狙うことになる。

 残り時間がほとんどない三浦は第4図で△6七歩と直接たたいて先手を取る。以下▲同飛△6六歩▲同飛△4四角▲6九飛△6五銀▲同飛。変化の余地はほとんどなく、ここで三浦は△7六銀と飛桂両取りをかけた。直線的な流れは飛車がさばけて佐藤も望むところ。

■佐藤快勝

 三浦は▲6一飛成(第5図)に△7七銀不成から駒を取る順を選んだが、△7七銀成▲7九金△8五飛と攻める方がアヤがあった。本譜は▲7九金に△8八銀不成〜△9九銀不成と香を取ったが、持ち駒の桂香がさほど生きず、▲6四歩の垂れ歩攻めが早かった。△7七角成から馬を引き付けたものの、▲7一角からと金で金をはがしてはっきりした。▲5三同竜の局面で、盤上に後手の攻め駒がないのではつらい。

 三浦は△2四桂〜△1六香と肉薄したが、▲4九金と脱出路を開いたのが冷静な一着で、後手の攻めは届かない。三浦は▲6五角の局面で攻防ともに見込みなしと判断して投了した。終了図は先手玉に寄りがなく、後手玉は次に▲4一銀や▲6二歩が厳しい。感想戦では三浦が何度も「自信がない」と語り、不本意な展開を強いられていたようだ。

 佐藤が序盤から機敏な指し回しで快勝。2回戦に駒を進めた。

(君島俊介)

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