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<  第2回朝日杯将棋オープン戦観戦記第13局  >
本戦2回戦 ▲佐藤康光棋王―△阿久津主税六段

阿久津がベスト4

対局日:2009年1月9日

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■注文を避ける

 タイトルホルダーと若手実力者がベスト4入りをかけた一戦。

 佐藤は定刻の20分ほど前に対局室に入り、気息を整えた。しばらくして、険しい表情で阿久津が入室。強敵相手に気合十分といったところだ。

 先手番になった佐藤は開始早々1筋の歩を突く(第1図)。1回戦の対三浦八段戦のときと同じ作戦だ。その将棋は角交換振り飛車から佐藤が快勝している。

 阿久津も角交換振り飛車は得意戦法で、2年前の朝日オープン選手権の決勝五番勝負でも採用している。戦法の急所をよく知っているだけに佐藤の作戦を受けて立つかどうか悩む。考えること4分。阿久津は第1図から△8四歩▲1五歩△4四歩と角道を止めた。少々気合まけしているように見えるが、相手の注文を避けたのだ。

■動きを見せる

 阿久津は前回の朝日杯でベスト4入りする活躍を見せた。前身棋戦の朝日オープン選手権では挑戦者になっている。毎年のように7割近い勝率を挙げている阿久津だが、棋戦優勝はまだない。そろそろ大きな花火を打ち上げたい。

 対する佐藤は全日本プロトーナメントではベスト4、朝日オープン選手権ではベスト8止まり。ほかの棋戦ではほとんど優勝やタイトルを獲得していることを考えるとやや物足りない。ここ数年はテレビ将棋など持ち時間の短い棋戦での活躍も目覚ましいので、朝日杯も優勝を狙いたいところだろう。

 第2図は普通の振り飛車対居飛車の将棋と趣が異なる。角道が止まっている居飛車側は初めから持久戦志向、振り飛車側は急戦を仕掛けやすい局面だ。

 積極的に動いていく棋風の佐藤はまとまっていない後手陣に目を付けて▲8八飛と向かい飛車に転じた。飛車がさばければ玉の堅い先手が良くなる。「機敏に動かれた」と感じた阿久津は注意深く駒組みを進める。決戦の含みが生じ、対局室に緊迫した空気が流れた。

■何かがおかしい

 第3図。▲6六歩や▲7八金とすればよくある将棋に戻るが、ここまで工夫してきただけに面白くない。長考していた佐藤は▲6六角から角を転換し、▲6七歩型を生かす構想を打ち出した。角を8四に利かして8筋突破が狙いだ。

 △6五歩▲3九角に△4五歩は大きな手で、後手も角が使えるようになった。ただ、佐藤は本譜の仕掛けで先手よしと考えていた。その証拠に▲6六角と上がってからはさほど時間を使わずに▲8四歩以下の仕掛けを決行している。

 「何かがおかしい」と阿久津は思った。スキを作らず戦いに備えていたはずだが、佐藤が仕掛けてくる。何があるのだろうか。疑心暗鬼になりかけながらも阿久津は自分の読みに自信を持って対応する。

 自信と自信がぶつかり、▲6六角から5分もしないうちに第4図まで進んだ。形勢はどちらに傾いたのだろうか。

■まさかの錯覚

 第4図の局面で、体を揺らして考えていた佐藤の動きが止まった。後手の持ち歩の数を錯覚していたことに気付いたのだ。▲7三桂成△同飛▲7九飛に△7六歩と打たれ、先手の駒がさばけない。「1歩しかないと思ったら(相手が)2歩持っていてがくぜんとした。ひどすぎて投了したくなった」と佐藤は苦笑交じりに語った。

 続く▲8四歩はと金作りを目指す唯一の攻めだが、△7七桂が押さえ込みを狙った好手。焦って△7七歩成は▲8三歩成△同飛▲7七飛とされておかしくなる。△4二金寄が落ち着いた一着で、先手の攻めの反動を利用して△8六歩から飛車を取ることに成功した。

■阿久津の踏み込み

 第5図は飛銀得の後手が優勢なのは間違いないが、どのように決めるかは迷うところだ。1分将棋になっていることもあり、記者は後手が受けに回る展開を予想していた。

 しかし、鋭い切り込みを得意にしている阿久津の選択は違った。第5図から△5三銀と引いてからは王手を受けた以外すべて攻めの手だった。自分の読みや形勢判断に自信がないと指せない順だ。「危険な順だと思ったが、一段目に飛車を打つ手が厳しいので踏み込んだ方がいいと思った」と阿久津。

 先手は駒を受けに使うと切れ筋がはっきりしてしまうので、攻め合うしかない。しかし、それは阿久津が敷いたレールに乗ることを意味していた。△5三銀以下▲7四と△8五飛▲6四と△8八飛成▲5三と△6八竜▲4三銀。局後、「変化のしようがないですね」と佐藤が言うように一直線に進んだ。

■阿久津快勝

 ▲4三銀と打ち込み、後手玉に食らい付いたように見える。しかし、阿久津は先手の攻め筋は見切っていた。序盤のときの張り詰めた空気はすでに消え、終局までの手続きをしていたに過ぎなかった。

 △3九銀で佐藤が投了。終了図以下(1)▲同玉は△4九飛成(2)▲同金も△同飛成から詰み。(3)△3九銀に▲1八玉なら詰まないが、香の利きが止まり、後手玉の詰めろが消えるので△4九飛成で後手の勝ちとなる。

 優勢になってからも緩まず指し進めた阿久津の寄せは迫力があった。2年連続でベスト4入りした。

 感想戦では先手から速攻は無理筋ということになった。△3二玉型が浮き駒を消して案外いい形になっている。佐藤はしきりに「ひどい」「恥ずかしい」と嘆き、本譜の進行を反省していた。

 後日、佐藤から▲8九飛(37手目)では▲8四歩△6四銀▲8七飛(参考図)とするべきだったと連絡があった。▲8七飛に△7五歩▲同歩△8四飛▲7四歩とし、△同飛から本譜と同じように進めば△8八歩がないし、▲7四歩に△8六歩は▲8九飛△7四飛▲8六飛と攻められた。形勢は難しいながら、攻めを狙う先手の主張が通せていた。

 ▲8七飛は相手の駒に近づくだけに非凡な発想で、いかにも佐藤流だ。本局は錯覚から不本意な展開になったが、また面白い構想を見せてくれることだろう。

(君島俊介)

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