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<  第2回朝日杯将棋オープン戦観戦記第15局  >
本戦1回戦 ▲久保利明八段―△行方尚史八段

久保、第1回覇者を破る

対局日:2009年1月20日

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 昨年12月に始まった本戦トーナメントはベスト4のうち3席が決まり、残り1席を決める戦いがこの日、東京・将棋会館の特別対局室で組まれた。

 1回戦は深浦康市王位―中川大輔七段戦と、本局の行方―久保戦。この2戦の勝者同士がベスト4入りをかけて戦うことになっている。

 久保は定刻の随分前に到着。行方は3分ほど前に到着し、駒並べから振り駒が慌ただしく執り行われ、歩が3枚出て久保が先手になった。

■よきライバル

 行方は第1回朝日杯覇者。前回はA級棋士ということで、2次予選から出場し、勝ち上がった。今回は本戦シードだ。久保も前回は2次予選から出たが、本戦1回戦で敗れた。今回も2次予選を勝ち抜いての本戦出場である。

 ふたりとも当時は順位戦A級に所属していたが星が伸びず、そろってB級1組に降級した。年も近く、いいライバル関係にある。対戦成績は行方の8勝に久保の6勝。1995年の初手合いから行方が随分リードしていたが、この2年で久保が追いついてきたという状況だ。

 両対局者とも事前に作戦を練ってきたらしく、初手から指し手が速い。久保は石田流から▲7六飛と浮き、行方は角交換から△2二銀。これからじっくり囲い合うのかと思っていたが、何げない△9四歩(第1図)が波紋を呼んだ。以下▲2八玉△6四歩▲7四歩△7二金▲7七銀と進んだところで、突然、行方の手が止まったのだ。4分ほど考えていったん席を外し、戻ってきて考える。持ち時間の半分以上を消費して△4二金を着手した。

■不急の一手

 もともと△7二金は押さえ込みを狙った手だ。続いて△6三銀と上がれなければおかしい。しかし、これには、以下▲7三歩成△同金▲7一角△5二飛▲7三飛成△同桂▲6二金の強襲がある。行方は仕方なく△4二金と上がったのだが、△9四歩の代わりに△4二金と上がっていれば、問題なかった。△9四歩は不急の一手。行方はこの手を最も悔やんだ。

 △4二金以下は▲6六銀△6三銀▲7五銀△7四歩▲同銀(第2図)。きれいに久保の左銀がさばけた格好だ。ただ行方も「ただではすまさないぞ」と第2図から△7五歩▲同飛△9三角と反撃した。△9四歩の顔を立てた格好だ。5七に馬を作り、バランスを取ろうとする行方。▲6四飛には△7五馬と引きつけ、収拾を図ろうとする。しかし久保の▲5五角(第3図)が好手だった。

 行方は局後、「見えてなかった。困りました」と言った。変えて▲6一飛成としたいところだが、△5二銀と受けられて大変。▲5五角は、先手の飛車が動けば8二の飛車取りになる。次の手を考慮中に行方の持ち時間がなくなり、1分将棋となった。久保も残り10分を切った。

■カベ銀がたたる

 第4図は久保が▲5二歩と垂らした局面。行方は△同金と払ったものの、▲5三歩に△4二金と先手で攻めの拠点をつくられた。駒の損得はほとんどないのに、先手の美濃囲いと後手のカベ銀では玉の堅さが違いすぎる。攻め合いでは勝負にならないのだ。しかし、ここからの行方の粘りは見応えがあった。5三で駒を清算して▲6四角(第5図)と出た形は、先手の必勝形に見える。が、以下△4二銀▲5三角成△同銀▲8二飛に△6二銀打がなかなかの手で、▲8一飛成に△7一歩と受けた後手陣は容易に崩れない。△5五角を先着できれば、かなり有望だ。数手前の崩壊寸前の玉形を思えば、行方も手ごたえを感じていたはずだ。

■攻防の角打ち

 久保はここで▲6六角と打った。後手からの△5五角を防ぎつつ、9九の香にひもをつけた攻防の角打ちだ。これで行方は久保陣に容易に手が出せなくなった。行方は△6四角(△3六桂からの詰めろ)と打ったものの▲4六桂と受けられると、あとが続かない。以下△6五歩▲7七角△3三銀に▲7二歩(第6図)からのと金が間に合ってしまった。

 最後の数手は形作り。△1一竜(終了図)を見て行方は、消え入りそうな声で「負けました」と告げた。終了図は後手玉に▲2六香〜▲1三竜の詰めろがかかっており、受けはない。内容的には久保の快勝だった。

 行方は局後、「2度の角の好打(41手目▲5五角と75手目▲6六角)でやられました」。「△9四歩がひどかった。立ち遅れた。警戒しなきゃいけなかった」と、何度も後悔の言葉を口にした。しかしその緩手を機敏にとがめた久保をほめるべきだろう。

 久保は今期棋王戦の挑戦者決定トーナメントで羽生善治名人、阿久津主税六段を破り、一度は木村一基八段に敗れたものの、敗者復活戦で再び勝ち上がり、木村八段に2連勝して挑戦権を獲得した。前回覇者の行方を相手にこんな勝ち方ができるのも、絶好調の証しだ。

(村上耕司)

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