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<  第2回朝日杯将棋オープン戦観戦記第16局  >
本戦2回戦 ▲深浦康市王位―△久保利明八段

久保八段がベスト4

対局日:2009年1月20日

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■挑戦者たち

 ベスト4最後の一枠を争う一戦。深浦王位は現在、王将戦で羽生善治王将とのタイトル戦中。全棋士中、羽生との対戦成績が最も良い棋士が挑戦者とあって、二冠を取れるか注目を集めている。かたや久保八段は年末と年始めの挑戦者決定戦で2連勝し、佐藤康光棋王への挑戦権を得た。驚くべきことにいまだにタイトル獲得がない。棋王戦で初戴冠(たいかん)を狙う。

 挑戦者たちはこの一局を勝って、タイトル戦に向けて調子を上げておきたいところ。振り駒は歩が3枚で先手と決まった深浦は、午後2時定刻の「お願いします」のあいさつの後、勢いよく飛車先の歩を突きだした。

■対中飛車の新構想

 振り飛車の雄として有名な久保だが、秋口頃からは中飛車と三間飛車を中心に戦略を組み立てている。本局では中飛車を採用し、深浦の▲7八金型に対して、△3三角と最新形に持ち込んだ。

 研究の鬼、深浦は用意していたのだろう、新手▲6六歩(第1図)で未知の局面に突入。△3二金の守備にさらに▲2四歩と早くも仕掛けた。

 久保は局後、この手の深い意味を語った。「早めの▲2四歩が先手の工夫です。本譜のように△同歩▲同飛と進んだときに、後手は△2三歩とは受けづらい。すでに▲3六歩〜▲3五歩からの桂頭攻めを受ける暇がなくなっているからです。早めの仕掛けによって、△2二銀と歩を使わずに受けさせることを限定したのです」

 後手は△5一飛(▲4一角を受けるため)までは一本道。そこで早くも華々しい手が現れた。

■29手目の飛車成り

 ▲4二角!(第2図)と早くも鬼手が炸裂(さくれつ)。角を無事に生還させてはいけないので△同金の一手だが、▲2二飛成で29手目にして早くも飛車成りが実現した。先手がすでに良さそうにも見えるが、後手側は悪い手を指しているわけではなく駒得なので、実際は互角か後手不満なしの展開だ。ただ、短い時間内に的確に後手陣をまとめる力量が試される。久保は手持ちの角を2枚続けざまに投入して、△2三角〜△2一飛〜△2六歩と、先手の竜を封じ込めることに成功した。△2三角から飛車を2筋に回って活用するのは、中飛車党には大いに参考になる手順だ。

■不屈の辛抱

 過去の深浦はタイトル戦に出場しながら、何度も辛酸をなめてきた。しかしその困難を不屈の闘志と努力で克服したことを、後輩棋士たちは尊敬のまなざしで見つめている。

 54手目△4五桂で、久保の飛角桂が躍動してきた。深浦は深いため息をつき、自らを励ますようにひざをたたいたあと、▲1五銀(第3図)と打った。虎の子の銀を手放すようでは先手ははっきり苦しいが、「この将棋があとで逆転するんですからね」と感想戦で久保に言わしめた、不屈の一着だった。▲1五銀の直後、深浦はあめを口に含んだ。「長期戦にするぞ」という深浦の意気込みがひしひしと感じられた。

■何げない桂交換で逆転

 60手目の△2四金からじりっじりっと4四まで金を持ってきて、5筋に飛車を展開し、△5四歩(72手目)から△6四角と「さばきのアーティスト」の真骨頂を発揮した久保だが、持ち時間が残り1分と切迫し、失着が出る。第4図から△3六歩が手拍子の一着で、「当然△4六歩でした」と嘆いた(以下▲同銀△同角▲同金△5七桂成で後手優勢)。本譜の△3六歩も好手に見えたが、▲4六歩△3七桂成(久保秒読みに入る)▲同桂△同歩成▲同竜と進んでみると、光り輝いていた後手の桂が昼寝していた先手の桂と交換になって「逆転」。細かいやりとりが形勢を左右するプロ将棋の厳しさを改めて思い知らされた。

■優位の深浦、追う久保

 95手目から深浦も秒読みになり、直後の▲3三歩成は緩手(▲6五歩と角を殺すほうが勝る)。しかし、手順に固める▲7七金打(101手目)の好手に続いて▲6一と(第5図)までの一連の手順により、5三の桂馬と7二の銀との交換を確定させ、深浦が優位に立った。久保は「5三の桂馬は97手目のところで△5三角として消しておかなければいけなかった。美濃囲いの要の銀と交換されたのは痛かった」という。

 だが久保は形勢を悲観しながらも指し続ける。リードは許したが引き離されないよう、後ろから懸命に追いかけた。

■久保、からくもベスト4

 秒読みのなか、後手の馬と先手の竜が交錯する。指運のやりとりが延々と続いて迎えた第6図。両者の玉はがけっぷちにつま先立ちでこらえている。ここでの正着は後手の馬筋をそらす▲5六歩だった。(1)△4四馬と逃げても▲4三銀成。(2)△5六同馬は先手玉に詰めろがかからなくなるので、▲8一成桂〜▲1二竜〜▲9一成桂が間に合う。

 本譜は第6図から▲7七金だったが△6八金以下、久保の攻め駒が馬の援護射撃で深浦玉をなぎ倒した。最後の△8二金(164手目)はご愛敬で、△7九金でも後手玉は詰まないが、保険をかけたくなるほどの険しい道のりだった。

 終了図は、後手玉は詰まず先手玉は必至。終局時刻は午後4時34分。曇り空の東京が暗くなり始めていた。ふたりはしばらく無言だったが、やがてかすれ声で会話が始まった。終盤部分のみを振り返る、短い感想戦だった。

(女流二段 早水千紗)

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