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<  第2回朝日杯将棋オープン戦観戦記第17局  >
準決勝 ▲阿久津主税六段―△佐藤和俊五段

阿久津が決勝進出

対局日:2009年2月14日

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 対局場となった有楽町マリオンから一歩外に出ると、多くの人が楽しげに、そしてどこか高揚した面持ちで歩いている。この日は2月14日のバレンタインデー。街は華やいだ空気に包まれていた。しかし、エレベーターで11階に上がれば、そこは別世界。駒を並べ終えた両者が得も言われぬ緊張感をまとっている。ぐるりと囲むギャラリー。そして対局開始。阿久津の▲7六歩に佐藤は△3二飛。阿久津の眉毛がピクリと動いた。

■2手目△3二飛

 第1図の△3二飛は今泉健司三段が創案した戦法で、その画期的な発想が評価され、第35回升田幸三賞を受賞している。この戦法の思想は「石田流に組むことができれば後手満足。あなたは阻止することができますか?」というもの。△3二飛以下▲2六歩なら△6二玉▲2五歩△3四歩。そこで▲2二角成△同銀▲6五角が成立すれば先手有利。先手がこの筋を見送れば、後手は△7二玉と寄って8三の地点を守り、石田流に組むことができる。1年前に同じ場所で行われた朝日杯準決勝▲丸山忠久九段―△羽生善治名人では、羽生名人が2手目△3二飛を採用して話題になった。

 「(△3二飛は)予定通りです。後手番になったらやろうと思っていました」と佐藤。阿久津は「2手目で動揺した。予想しておらず、飛車を持たれてビックリしました」。

 気持ちを落ち着けるためか、阿久津はやや時間を置いてから3手目▲9六歩と指した。これは現在△3二飛には最有力と言われている手。研究に抜かりなしだ。

■先手十分の駒組み

 第2図。佐藤は玉を囲い、穴熊に飛車を2筋に転回する。阿久津は9筋、7筋の位を張り、堂々たる布陣。直前に持ち時間が無くなっていた佐藤は慌てるように△3五銀と出た。実はこの局面は、すでに指す手に困っていたのだ。

 例えば△3五銀に代えて△5四歩は▲3一角があり、また△2五桂の常套(じょうとう)手段も▲6五歩△同歩▲同銀と動かれて後手面白くない。千日手にしようにも何か指さなければならず、指せばほころびが生じてしまう。佐藤が局後に「作戦負けでした。方針が定まらなくて……」と話したように、ここまでは阿久津十分の駒組みだ。そして次の一手で更に差が開く。

 第2図から▲7六角△5四歩▲同角△4二飛▲6五歩で第3図。▲7六角は▲4三角成を狙う巧打。△4二飛には▲3六歩△同銀▲2四歩が成立するため、佐藤は△5四歩と紛れを求めたが、自然に▲6五歩まで進めて先手優勢。「▲6五歩の味が良く、ここはだいぶ良くなったと思いました」(阿久津)。

しかし、ここから佐藤が粘り腰を発揮する。

■粘る佐藤

 第3図から阿久津が攻め続けて迎えた第4図。飛車取りを無視したまま敵陣に向けて突進し、このまま土俵の外まで持っていくのかと思われた。そんな場面で放たれたのが△5三歩。▲同とは△7二金と取られてしまい論外。角を逃げる手はあるが、もともと飛車を逃げずに攻めているところ。実戦的には考えにくいところだ。

 「△5三歩はいいプレッシャーですね」と大盤解説の木村八段。本譜は▲7一金△同銀▲7二金△8二銀打で、千日手模様。阿久津からは第3図のあたりで見られた余裕が消えた。「△5三歩と打たれて、よくわからなくなりました。よれてます」(阿久津)。

 佐藤は千日手でよしと見れば、何も悩む必要はない。阿久津は少し前の局面で優勢を意識していただけに、打開しなければの焦りが出てくる。結局は▲8一銀成の筋で手を変えたものの、確信があったわけではなかったようだ。

■阿久津が勝ちきる

 第5図は先手が当たりになっていた飛車を活用したところ。気持ちいい手だったが、先手玉に迫りながら金を入手する後手の△5七角成も大きな手。大盤解説では阿久津優勢を伝えていたそうだが、対局者は小差のせめぎ合いと見ていた。終局後にしばらくたってから阿久津に聞いてみても「こちらに明快な決め手があったかどうか、まだわかっていません」との答えが返ってきた。

 ようやく勝敗の行方が見えてきたのが第6図だ。△6七馬は△8八角成▲同銀△8六桂以下の詰めろ。また▲9六桂と金を取るのは△6二飛▲同と△9七金の筋で詰む。先手玉に詰めろが掛かっており、後手玉に詰みはない。普通に考えれば後手勝ちのようだが、ここから3手で終局を迎える。

 第6図から▲7一金△同銀▲6七竜まで。速度計算では後手に分があったが、この馬を抜く手があった。進んでみると先手玉に迫る手が無く、局面がはっきりしている。「端の位が大きく、少し足りませんでした」(佐藤)。

 端の位とは、2手目△3二飛に対し、阿久津が▲9六歩〜▲9五歩と伸ばした手。途中は難しいところもあったが、振り返ってみれば阿久津は積極的な姿勢を一度も崩さなかった。観戦していた高段棋士が漏らした「△3二飛対策の決定版かもしれない」の感想からも、本局の内容が高度だったことがうかがえる。

(後藤元気)

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