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<  第2回朝日杯将棋オープン戦観戦記第19局(下)  >
決勝 ▲阿久津主税六段―△久保利明八段

阿久津、会心の逆転劇

対局日:2009年2月14日

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 大盤解説場のスクリーンに、歩を取って飛び出す△6五同飛(再掲第6図)が映し出されると、場内は喚声とどよめきに包まれた。例えば△4五桂でも、後手の好調な攻めが続きそうな局面。それを久保は、一気に決めに出たのだ。

 大味な△6五同飛は、けれど十分に理にかなっていた。先手は4八銀―4九金のカベ形がひどく、▲6五同桂と取るのは△9九角成で、次に△6六歩や△7七香などを見せられて収拾不能。これを取りきれないとすれば、後手の飛車は波状攻撃への起点となる絶好のポジションを手に入れたも同然だからだ。

■阿久津ピンチ

 木村八段が「これは先手しびれたかもしれませんね。こういうのを頑張るのはよほど精神力が強くないと」と言いながら、あれもダメ、これもダメ、と検討を続けているところへ、阿久津の▲6六歩が伝えられた。これには△2五飛▲同飛△同桂▲2一飛△2七歩成▲2五飛成に△3八とや△3八金で後手よし、が木村解説だったが、久保の応手は6筋突破に一意専心する△6六同角。▲同銀△同飛となれば先手は歩切れが痛く、▲6八香と打っても△同飛成〜△6二香の強襲があって指し手に窮する。先手絶体絶命の大ピンチに思われた。

■一瞬の逆転

 が、阿久津は闘志を失ってはいなかった。角を呼び込んで▲6八銀(第7図)がしぶとい一手。久保は△4四角と引き揚げ、▲6五桂に待望の△9九角成を実現させたが、第6図で単に▲6五同桂△9九角成と進んだ変化に比べ、先手陣の守りに銀を1枚投入させてしまったマイナスは計り知れなかった。

 ▲6四香(第8図)が、盤上この一手の好着。対して△6三歩は、▲同香成△同銀に▲2一飛成で受けづらい。感想戦では△6六歩▲同銀に△8九角(▲6一香成なら△8八金)も示されたが、これも▲8八飛で先手が指せる。本譜△7一金にも▲2一飛成で後手玉に詰めろが掛かり、阿久津がついに逆転した。

 さかのぼって第7図では、後手は△7七角成と桂を取れば優位を持続できた。局後、阿久津が真っ先に指摘した手で、以下▲同銀に△8五桂(参考2図)と迫れば、▲6六銀左は△同飛▲同銀△4四角、▲6六香は△7七桂成▲同金△6六飛▲同銀△6二香で、先手に思わしい受けがない。角と桂の刺し違いは後手にとって大損のようでも、先手の歩切れはそれほどまでに致命的だった。

■阿久津、突き放す

 ▲2一飛成以下は、△4四角▲3二飛△6六歩▲6三香成△6二香に▲5三桂成(第9図)の進行。途中から大盤解説に加わっていた行方尚史八段と鈴木大介八段は、「後手玉は1度詰めろが掛かると歯止めが利かない形。久保さんは中盤であまりにうまくいきすぎて、調子が狂ってしまったのかもしれません」(行方八段)、「これはまた派手な逆転劇になりました。この負けっぷりはせせこましいところがまるでなく、見方を変えると絶好調の久保さんならでは」(鈴木八段)と、興奮気味に感想を述べ合った。▲3二飛には△6二歩のほうが粘りが利いたが、これも▲6九玉で長引いても先手よし、が感想戦の結論。以下は▲4六香(第10図)が決め手となり▲7一角(終了図)までで、阿久津が勝利を収めた。終了図からは、△7一同玉に▲6二飛成で後手玉が詰む。

■それぞれの明日

 「自分が最善と思う手を指し続けた結果なので悔いはありません」――。終了直後、主催紙の記者に感想を問われた久保は、潔く敗戦の弁を口にした。大舞台で経験を積むうちに、「敗局も成長のための財産」と考えるようになったという久保。その境地にたどり着けたこと自体、かけがえのない財産だろう。

 第2代目の選手権者に輝いた阿久津は、これがうれしい初優勝で七段に昇段。プロになって初めてというだけでなく、アマチュアの少年時代を含めても初めての優勝で、表彰式で見せた笑顔は輝くばかりだった。関係者十数人の祝宴は、酔いつぶれた初代王者が消え去った夜更け以後も、朝まで延々と続いた。

(小暮克洋)

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