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<  第32期朝日アマ名人戦三番勝負第1局  >
▲金内辰明(第31期名人)−△清水上徹(挑戦者)

金内さんが先勝

2009年6月6日

金内辰明さん拡大金内辰明さん

清水上徹さん拡大清水上徹さん

第1図拡大  

第2図拡大  

第3図拡大  

第4図拡大  

終了図拡大  

■防衛か、奪取か

 第32期朝日アマチュア将棋名人戦三番勝負(朝日新聞社主催、日本将棋連盟後援、日本アマチュア将棋連盟協力)は、金内辰明・朝日アマ名人(32)と、全国大会のトーナメントを勝ち抜いた清水上徹さん(29)の顔合わせになった。金内さんは初めての防衛を、清水上さんは初の朝日アマ名人位を目指す。

 6月6日午前、両対局者を始め、立会人の加藤一二三・九段を含む関係者一行は、JR新宿駅から「特急スーパーあずさ11号」でJR甲府駅に向かった。途中のJR八王子駅で乗り込んできた清水上さんは「解けない詰将棋があるんだよ」と記者に話しかけ、座席に座るなり図面を見ながら考え始めた。リラックスしたその表情は、大勝負を控えているようには見えない。一方の金内さんは、車中で静かに過ごしていた。

 甲府駅から車で10分ほど走った午前11時45分ごろ、対局場の甲府富士屋ホテル(甲府市)に到着した。両対局者は共に北海道出身で旧知の間柄とあって、対局場の検分と昼食の間は互いに会話をかわすなど和やかな雰囲気に包まれた。午後1時22分、両者が盤の前に座り、駒を並べ始めた。当然のことだが、先ほどとは違って会話はなく、表情は引き締まっている。振り駒の結果、先手は金内さんに。同25分、両者一礼をして第1局が始まった。

■「引き角戦法」に

 居飛車党の金内さんは初手▲2六歩。以下▲7六歩と角道を開けずに、角を7九に引いて駒組みを進める。「引き角」と呼ばれる珍しい戦法で、居飛車は自玉に近い6筋7筋に争点を作らず、守りを固めることができる。プロでは飯島栄治六段が得意としている戦法だ。金内さんの指し手は早い。振り飛車党の清水上さんに対し、事前に練っていた作戦なのだろう。

 中飛車に構えた清水上さんは穴熊を目指したが、金内さんは「そうはさせじ」とばかりに▲3五歩(第1図、25手目)と仕掛けた。清水上さんが△3八歩から△3九歩成(第2図、40手目)と、と金を作ったところでは、金内さんがどのように清水上陣に攻め入るかが注目された。

 控室では目障りなと金をはらう狙いの▲3四飛、桂を逃げる▲3七桂などが検討されていた。▲3四飛なら以下△3三桂▲3九飛△2一飛▲2三歩△同飛▲4一角△3一歩▲6三角成△7五角▲5九飛△2八飛成と進むのが一例だ。だが、金内さんは11分考えて▲2二歩とさらに積極的に攻めた。控室ではあまり想定していなかった手だが、実戦のように進んでみると金内さんの機敏な仕掛けは成功と言えそうだ。加藤九段も「良い手だった」と称賛した。

■「辛抱」を逃す

 好調な金内さんだが、まだ敵陣を攻略できたわけではない。そんな折、清水上さんに後悔の一手が出る。△7二銀(第3図、54手目)がそれだ。自陣を引き締める味のいい手に見えたが、以下▲6六香△7五角▲3二角△2二金▲4三角成と馬を作られて形勢を損ねた。

 △7二銀では代わりに△3二歩と打って角打ちを消して辛抱しておけば、先手からの攻めも難しかった。清水上さんもこの手は浮かんでいたが、「馬を作らせても難しい」と考えたという。痛い判断ミスだった。

■優位を保ちきり、名人が先勝

 清水上さんは△5六飛(80手目)で持ち時間を使い切り、秒読みに入った。先ほどまで度々ため息をついていたが、その回数も少なくなってきた。一方の金内さんは、まだ10分ほど残している。時折、渡辺明竜王が揮毫(きごう)した扇子をあおいで風を送る様子は、優勢になってはやる気持ちを落ち着かせているかのように見えた。

 耐える手を続ける清水上さんに対し、金内さんは冷静だ。第4図(84手目)は清水上さんが5六の飛を5一に引いた局面。▲5六桂も目につくところだが、金内さんはじっくり考えて▲5四桂。以下△5三銀▲6二桂成△同金に▲6六香が敵陣の弱点を的確にとらえた痛打だ。その後も金内さんは駒得を重ねながら、敵玉に迫る。途中、▲7九金として自玉の頓死筋を消すなど、慎重で着実な方針は一貫していた。▲5二金(終了図)で清水上さんは投了を告げた。後手玉は▲8三桂からの詰みがあり、受けても攻防共に見込みがない。

 1局を振り返り、金内さんは「良くなってから難しくなったかなと思った。決め方がわからなかったが、リードを保てた。明日も頑張ります」と言って笑みを浮かべた。清水上さんは「すぐに悪くした。バランス感覚が悪かった」と悔やんだ。結果的に159手と手数はかかったが、金内さんの会心譜だったと言えよう。

(村瀬信也)

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