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<  第3回朝日杯オープン戦第4局  >
1次予選1回戦 ▲長岡俊勝アマ―△及川拓馬四段

長岡アマ、開き直りが奏功

対局日:2009年7月4日

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■プロの気遣い

 プロアマ戦は公開対局。大勢のファンが見守るなか、対局開始が一斉に行われる。しかしその際、長岡アマは飲み物を買いに行って席にいなかった。記録係が時計を進めようとしたが、及川四段はそれを制止して「いらしてからで大丈夫です」とプロの気遣い。直後、人垣をかきわけて長岡アマが申し訳なさそうに現れた。「すみません」と謝り、30秒遅れほどで対局が始まった。

 及川四段は前回のプロアマ戦にも出場し、プロの貫禄(かんろく)を見せている。安定的な強さを誇る若手棋士だ。長岡アマは強豪NEC将棋部に所属していたときは、チームのリーダー的存在だった。朝日アマ名人をはじめ数多くの優勝歴があるが、プロ相手の公式戦ではまだ勝ち星がない。

■急戦矢倉へ

 両者の指し手は早かった。あっという間に第1図。長岡アマの作戦は米長流急戦矢倉だった。対局前日に同じNEC将棋部の加藤幸男さんに「横歩取りのけいこをつけてもらい」、当日朝は4時に起きてこの急戦矢倉を研究していたという。研究は図から△6四歩〜△6三銀の先後同形だった。しかし本譜、及川四段はまったく違う作戦に出た。先手の9筋の端歩が突いていないことをとがめ、飛車先の歩交換に乗じて△9五角(第2図)と転換した。先後逆の局面を含めると、前例は6局だ。

■「大長考」をめぐる心理

 長岡さんは研究を外され、第2図で止まった。みるみる時間が過ぎていく。結局30分考えて、5筋の歩を突き出した。大長考の中身は、本譜のように▲5五歩△同歩▲4五歩と進んだときに、前例通り△5三銀とされたときの対策を考えていたのだという。ところが、及川四段はあっさり前例を覆す△4五同歩。これには長岡アマも面食らい、「1秒も考えていなかった。こう指すつもりなら教えてほしかった」と局後に苦笑していた。

 30分以上を残す及川四段に対して、長岡アマは3分。時間で大差がつき、及川四段が一本とったかに見えた。だが違った。及川四段は「あまりにも長く考えられて集中力が切れてしまった」という。真っ赤な顔で長考に沈む長岡アマを前に、視線が泳いでいたのを筆者は見た。追い詰められたアマと、気持ちにスキが生じたプロ。これが今後の展開に影響したのかもしれない。

■悲観

 及川四段は居合切りのように切れ味鋭い棋風が持ち味。一直線の華麗な寄せで攻め倒すタイプだ。本局も△4五同歩から△7三桂(第3図)まで、一貫して攻め合いの構想で進めていた。だが、読み筋通りにもかかわらず、この桂跳ねには10分以上の考慮を払っている。迷いが生じていた。「△5四金と比較していた。中央を手厚くして、△5一銀〜△4二銀とじっくり指す順も考えていた」という。だが結論が出ないままに、「これでも一手勝ちだ」と△7三桂と跳ねた。結果、直後に後悔する。存外難解だったのだ。

 集中力を欠いたまま進んでしまい、思うような戦果が得られないとわかると、今度は必要以上の悲観に陥る。実戦心理の落とし穴に、及川四段ははまってしまった。

■つぶやきと敗着

 第4図の手前、長岡アマの51手目▲5四銀は攻防の好手。攻めては4三への打ち込みを、守っては6五の桂取りになっている。△5七歩▲6八金右と進んで第4図。この瞬間、後手玉には詰めろがかからない状態なので、筆者は△5八銀から及川四段が華麗に寄せ切るのだろうと思っていた。だが意外なことに、力のない声が聞こえた。「いやー」とつぶやき天を仰ぐ及川四段。その表情は憂いに満ちていた。視線を盤上に戻した直後、1分将棋に入った。秒読みの声に押されて△4八歩。これが、敗着となった。

■決め手。そして投了

 4八の歩をと金にして、先手玉に迫る△5九と(第5図)。しかし長岡アマの次の一手が決め手になった。▲5五角。壁角を解消しながら飛車取り。「これが絶品」(及川四段)で勝敗は決した。最後の投了は早いような気もするが、切れ味の鋭さが持ち味の及川四段としては、もはやこれまでという思いだったのだろう。終了図は先手玉に有効な攻めがなく(5五の角の利きが大きい)、次の飛成りと角成りが受からない。

■勝者と敗者

 局後の検討では、第4図で△5八銀と攻めるべきだった、と結論づけられた。以下(1)▲7九玉は、△6八角成▲同金△8七飛成▲7八銀△7六竜が詰めろで、受けが難しい。また(2)▲5八同金は、△同歩成▲同玉△5七金▲4九玉△4七歩(参考図)として、▲3七銀には△5八歩と迫っていれば、難しいとはいえ攻めている後手が勝ちやすい展開だった。及川四段はこの(2)の変化を攻め切れないと思い、△4八歩と指したが、「▲6五銀と桂馬を外されてしまって・・・ありえなかった」と話した。

 及川四段は打ち上げの席でも、終始うつむき、「反省するしかないです」と周囲に語っていた。集中力を取り戻せず、独り相撲で負けたことをずっと悔やんでいた。

 長岡アマは「矢倉を教わろうと思った。大長考の後はずっと悲観していたが、開き直ったのがよかった。及川四段は華麗な詰将棋創作でも有名(朝日新聞にも連載していた)なので、最終盤も気が抜けなかった。勝てたのは信じられない」と顔をほころばせた。2回戦の相手、飯塚祐紀六段も矢倉のエキスパート。抱負を問うと、「きちんと勉強して、教わりたい」と気を引き締めていた。

(女流二段 早水千紗)

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