現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 将棋
  4. 朝日杯将棋オープン戦観戦記
  5. 記事

<  第3回朝日杯オープン戦第8局  >
1次予選2回戦 ▲北浜健介七段―△金内辰明アマ

金内アマ、2回戦で敗退

対局日:2009年8月1日

第1図拡大  

第2図拡大  

第3図拡大  

第4図拡大  

終了図拡大  

参考A図拡大  

参考B図拡大  

■再会の一局

 定刻10分ほど前。入り口で「お久しぶりです」の声がした。北浜と金内アマは昭和62年の第12回小学生名人戦で、北浜6年生、金内5年生のときに、準決勝で対戦している。ちなみにそのときの優勝者は田村康介六段。他に佐藤紳哉六段、大平武洋五段、本田小百合女流二段などもトーナメントに名を連ねていた。

 「どちらが上座でしたっけ」とつぶやきながら、おずおずと部屋に入る北浜。その後ろから金内アマ。この日は奨励会の例会だったので部屋が足りず、普段は控室として使われている「桂の間」で対局が行われた。

 金内アマは着座して一つ息を吐き、扇子を大事そうに取り出す。渡辺明竜王の「勇躍」の揮毫(きごう)。前身の朝日オープン選手権で、四段時代の渡辺竜王を土俵際まで追い詰めた経験がある金内アマ。そのときの気持ちを思い出して臨みたいということだろう。

■北浜は三手角

 北浜の初手▲2六歩から淡々と進み、先手は三手角、後手は矢倉模様の駒組みを進めていく。第1図で戦いが始まった。この▲4五歩では▲6八金右と1手待つ指し方も有力だったようだ。金内アマの陣形はプラスになる手が無く、手番を渡されると困る格好。たとえば△5三銀は▲5六銀と上がられて6四角が狭く、また△5一銀のような手なら、▲4五歩を△同歩と取れなくなるため、先手の攻めがより厳しくなる。かと言って、他の手も難しい。

 「6二銀を動かせない展開になってしまっては、つらいですね」と金内アマ。もちろん北浜もそれは分かっていた。本譜は第1図から△4五同歩▲同桂△4四銀▲4六銀(第2図)。自分の駒を進めてから金内アマに手番を渡した方が良いという判断だ。

■指したかった手

 さて第2図。残り時間は北浜2分、金内アマ8分と切迫してきていたが、金内アマは悠然と盤を見つめている。北浜が手洗いに立っても、急ぎ足で戻ってきたときにも、視線は動かない。この局面の重要性を敏感に察し、力を出し切れそうな順を模索しているのだろう。7分ほどたったあたりで、記録係の永瀬三段が残り時間を確認するため、少しだけチェスクロックを動かした。そのカタンという音で決断したのか、金内アマの手が盤上に伸びた。△8一飛。本当に指したい手は他にあった。

 局後の検討で「この銀が残っていては勝てないですよね」と6二銀を5一に引くしぐさを見せた金内アマ。指したかったのは△5一銀だった。

 パッと見える▲4四角△同金▲5三銀は、△4三金引とされて意外にうまくいかない。この変化は後手が角と銀を手持ちにするため、むしろ楽しみが多い。したがって▲4四角と切らずに▲1五歩から端を絡めていくことになるが、先手は△4二銀と固められる前に仕事をしなければならず、忙しかった。

 本譜の△8一飛は結論を先送りした手待ち。一方の△5一銀は、一気につぶされる可能性をはらんだ、最も突っ張った手。持ち時間の長い将棋なら△5一銀を掘り下げられただろうが、それを言っても仕方が無い。将棋は指した手がすべてなのだ。

■金内アマの勝負手

 第2図からの△8一飛に▲1五歩〜▲3五歩と総攻撃を掛ける北浜。これに対し金内アマが8筋からの逆襲を試みたのが第3図。この角切りは、やや苦しいと見ていた金内アマの勝負手。▲同歩の一手に△8五歩と合わせ、部分的には攻めが成功している形だ。△8五歩に▲同歩は「△3八銀〜△2七銀成で角を追って、△4五銀▲同銀△8五飛の十字飛車を狙うつもりだった」と金内アマ。北浜もその順は自信が無いと話していた。

 したがって北浜は、△8五歩の合わせに▲3四歩と取り込む。いつでも▲4四角△同金▲3三銀と行く手があるため、金銀3枚で囲われた後手玉は、実は裸同然。ここから一手を争う最終盤に入る。

■詰まない玉

 第4図の▲6一角は、飛車を攻めながら急所の金に狙いをつける絶好の一手。北浜はこれで決まりと見ていた。が、すぐに気になる変化がひとつ脳裏に浮かぶ。あれ、あの形は後手玉が詰まない? そんなことがあるのか?

 金内アマは▲6一角を見て、自分の負けを覚悟した。そんなうまい角打ちがあるなんて……。秒を読まれ、駒台の銀を手にする。△8七銀。ここで勝負がついた。

 北浜は第4図で△8一飛と引く手を恐れていた。当初の読み筋は▲4三角成△同金▲4四角△同金(参考A図)で金銀二枚持って、後手玉は即詰みというもの。しかし読み直してみると、図から▲3三銀は△同桂▲同歩成△1三玉、▲3三金は△1二玉と逃げられて詰まない。参考A図まで進めてしまうと、後手に角を2枚渡しているため先手玉は非常に危険。北浜は秒読みのなかで「▲4三角成は、とても踏み込める順ではない。△8一飛と引かれたら▲7二角成と▲5二角成に絞って読みを入れよう」と決断した。しかし、7二と5二、どちらに角を成っても、はっきり先手良しとは言えない。

 将棋の技術的な結論としては、参考A図から▲3三金と打ち込み、△1二玉▲1三歩△同桂▲2四歩(参考B図)と後手玉に必至を掛ければ勝ち筋だった。角を2枚渡しても、先手玉に詰みは無かった。仮に自玉が不詰めだとわかっていても、アマプロ戦という着実に勝ちたい対局では選びにくいもの。第4図から△8一飛なら、勝敗の行方はわからなかった。

 終局後、北浜と金内アマは楽しそうに小学生名人戦のときの思い出話をしていた。金内アマはスッキリとした表情で「私が先手でガンガン攻め込んで、北浜さんは右玉で。あのときの方がいい勝負でしたね。雪辱を期していたのですが、やはり差がついてしまっていて。でも、また指せてよかったです」。

 いまは互いに結婚し、同い年の子供もいる。話は尽きないようで、22年ぶりの小さな同窓会は、将棋会館を出てどうやら2次会に向かったようだ。

(後藤元気)

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内