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<  第3回朝日杯オープン戦第11局  >
1次予選3回戦 ▲石橋幸緒女流王位―△近藤正和六段

近藤、石橋の快進撃止める

対局日:2009年9月10日

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■対照的な朝の顔

 早めに対局室に入った近藤正和六段は、一度上座についた後に物入れのふすまを閉めに立ち上がった。わずかなすき間から中がのぞける程度だったのだが、どうにも気になる様子。普段の近藤はいつも笑顔で朗らかな印象がある。今から盤を挟む相手、状況を考えると、やはり重圧が掛かるのだろうか。

 近藤はデビューから10連勝し、「このまま引退したら、将棋界のマルゼンスキー」と言われたこともある。マルゼンスキーとは8戦8勝で無敗のまま引退した競走馬のこと。10戦10勝ならトキノミノル、11戦11勝なら牝馬(ひんば)のクリフジ。将棋界には競馬好きが多く、よくこういった例え話が用いられる。

 石橋女流王位は武市三郎六段、神谷広志七段を、いずれも伸び伸びした指し回しで破っての3回戦進出。特に混戦での状況判断にたけており、ヨーイドンの腕力勝負なら男性棋士にヒケをとらない。競馬で言えばウオッカか、それとも……。と、話が長くなりそうなのでやめておこう。ちなみに近藤も石橋も競馬好きとして知られている。

 少し間があり、石橋があいさつしながら入室してきた。その大きな声は近藤だけでなく隣の部屋の対局者も振り向かせる。近藤はあいさつを返して、席を立った。まだ開始までは時間がある。石橋は畳の上に敷かれたゴザを指さし、「ケーブルやコードを隠すためなんですね。滑らせるために置いてあるのかと思った」と笑う。こちらはリラックスしているようだ。

■中飛車に糸谷流右玉で対抗

 振り駒の結果、と金が3枚出て石橋の先手となった。記録係が開始を告げると、1分ほど自陣を見つめてから、薄くほほ笑んで▲7六歩。「今日は、やれるのか?」と駒に問いかけているようにも映る。戦型は近藤の中飛車、石橋の右玉。定型ではない、力比べになりやすい戦型だ。

 第1図は近藤が△4五歩と仕掛けたところ。この手は急ぎすぎだった。本譜のように桂交換になると、桂の使い道が多いのは石橋側。ここでは「△3二金と待って、相手の指し手を見てから動くほうがよかった」と近藤。石橋は「最近、将棋雑誌の観戦記で糸谷哲郎五段の将棋を見たんです。その縁で、対振り飛車右玉の指し方をお聞きしました」。糸谷五段はこの戦法を原動力に、第37回の新人王戦優勝を果たした関西の若手棋士。腕っぷしの強い将棋は、石橋と似た部分があるかもしれない。第1図以降、石橋は桂を6六に据え、角交換から7、8筋の歩を伸ばしてプレッシャーを掛けていく。

■近藤変調

 迎えた第2図。石橋はすでに40分の持ち時間を使い切り、1分将棋になっていた。図の▲6八金は、▲8九飛と回った後に△2六角と打たれる筋を緩和し、また▲8九飛・▲7六銀型に組んだときの△7八角を消している。指したい手がいくらでもある局面で、こういう手を挟めるのが石橋の強みだ。

 手を渡された近藤は図から△4四銀としたが、これはよくなかった。△4四銀は△3五歩からの攻めを見せた手だが、▲3七金と備えられてみると、△3五歩と突けない。▲2四歩△同歩▲同飛が十字飛車の格好になってしまうのだ。

 仕方なく△2一飛と2筋を受けたものの、これでは変調。第2図では先に△2一飛と回り、4二の金を△5二金〜△6二金左と寄せていく順がまさった。だが、石橋も疑問手を指す。本譜は△2一飛に▲8五歩としたが、これは急ぎすぎ。先に▲7六銀と上がり、それから▲8六飛と回れば8筋制圧は確実だった。

■攻防の角

 第3図。相手玉頭で銀交換を果たした石橋に対し、近藤がガツンと銀を放り込んだところ。▲同金は△7八角が飛車金両取り。石橋は秒読みの声に追われつつ、▲8七角の返し技を放つ。遠く2一の飛車を狙い、もし飛車が逃げれば▲6七金と銀を取ることが出来る。この角は7八の地点を守る攻防手になっているのだ。

 しかし石橋は後日、「▲8七角ではなく、一本▲8四歩と打つべきだったかもしれません。△同歩なら大きな利かしですし、△6八銀不成と金を取ってくれば、▲8三歩成△同金▲8四歩△9三金▲6二角が詰めろになります」。

 本譜は▲8七角に△6八銀不成▲2一角成と駒を取り合う展開になり、以下△6七角▲8七飛△7六金で第4図。第3図で▲8四歩△同歩が入っていれば、▲8三歩のたたきがすこぶる厳しかった。

■石橋に敗着

 第4図から遅ればせながら▲8四歩としたが、これは証文の出し遅れ。どうやら敗着となったようだ。△同歩ならうまいが、当然△8七金と飛車の方を取られてしまう。

 ▲8四歩では一回▲9七飛と逃げておくべきだった。後手は△6六金と桂を取っておくくらいだが、▲8四歩△同歩▲8五歩と継ぎ歩しておけば先手有望。石橋の玉は飛車さえ渡さなければ、まだまだ広く遠い。

■詰めろ逃れの詰めろ

 第5図は詰めろ馬取り。石橋はここでの▲6九歩に期待していたが、△8七飛成▲6八歩△8八竜とされてわずかに足りない。△5九銀のように駒を使って受けてはジリ貧と見た石橋は、▲6一銀と詰めろを掛ける。しかし△6八竜で合駒を使わされて万事休す。

 第6図の△8三角が奇麗な詰めろ逃れの詰めろとなり、大勢は決した。最後は力強い手つきで△5三玉と指し、石橋の追い上げを振り切った。

 「40分の早指しだから、水を飲んでいる暇もない。買っておいたことすら忘れちゃうんだ。緊張?そりゃ朝からピリピリしましたよ。でも男性棋士は、そろそろ私を応援してくれるんじゃないかなと。やはり同じ棋戦で3回勝たれてしまうとね。ふふふ、とにかくホッとしました。」

 近藤は午後の田村康介六段戦も勝ち、2次予選進出を果たしている。

(後藤元気)

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