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<  第3回朝日杯オープン戦第13局  >
1次予選決勝 ▲清水上徹アマ―△松本佳介六段

清水上アマ、初の1次予選突破

対局日:2009年9月23日

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■不思議な笑顔

 「おはようございます」。清水上さんはバッグを片手に、さわやかな笑顔で対局室に現れた。本局に勝てば1次予選突破、アマチュア初の快挙。プレッシャーがかかる大一番を前に、この笑顔はどこから来るのだろう、と思った。数分後、松本六段が足早に登場し、すぐに駒を並べ始める。記録を塗り替えるかもしれない大一番は、あっけないほどいつも通りに始まった。

 振り駒はと金が4枚。先手の清水上さんは深々とお辞儀をして顔をあげると、背筋を伸ばし盤上を見据え、力強く真ん中の歩を突いた。

■先手、上々の滑り出し

 清水上さんの中飛車を見て、後手の松本六段は飛車先を保留して角道を開けない指し方を採用。先手が5筋の歩交換をして第1図。ここでは△5二飛と相中飛車にする指し方も有力だが、松本六段は△6四銀と繰り出した。研究家の清水上さんは「若干先手が得するとされている変化に相手があえて来たので、工夫があるのかと思った」という。この後、松本六段は急戦の構想を練るために4手連続で長考し、第2図。残り時間は松本六段が11分、対する清水上さんは29分と差がついた。ここで▲3八銀と美濃囲いを完成させたのが落ち着いた一手。▲5五角もあるが、△9二飛▲7四歩△6二金ですぐにどうということはない。清水上さんも好感触を感じていた。

■後手、全軍躍動

 両者間合いをはかって迎えた第3図。ここでの▲7七桂が、結果的によくなかったという。ここでは▲7七角の退却がまさった。以下(1)△5三金は▲7二歩。(2)△7四歩には▲7六歩△8六銀▲6六角として、△8二飛と引かせればいつでも▲8三歩や▲8四歩で飛車先を遮断できる。この将棋は後の展開を見てもわかるが、「角は引く手に好手あり」だったのだ。

 本譜の▲7七桂で狭くなった先手の飛角を松本六段は見逃さない。△5三金〜△4四金と一気に押さえ込みにかかる。後手の駒が全軍躍動しだした。眠れる獅子だった2二の角も、44手目△3四歩によって目を覚ました。「うまくやった」と松本六段は思った。

 第4図の▲6八金を指すときにはさすがの清水上さんもため息をついた。良くなりそうだった将棋が、いつの間にか角も飛も屈服させられ、押さえ込まれている。ただ、希望はあった。後手の左桂は動けない。「これが先手の大きな主張で、そう簡単には負けないと思った」(清水上さん)

■ラッキーな角切りの好手

 第4図からの△6六銀は自然な進出に見えた。ところがこれが疑問手だったのだから将棋は恐ろしい。そして意外な逆転の好手を清水上さんは発見した。▲6六同角の角切り。△同角と取られたときに美濃囲いのすそに利いてくるため、普通では成立しない筋で、秒読みになった松本六段も「ぜんぜん読んでいなかった」。続く▲5四銀が、▲6三銀不成〜▲5二銀成とまるで出世魚のように働いて、後手の守りの金をはがしたのが見た目以上に大きかった。清水上さんは形勢が悪くなりそうな瞬間に好手があり、時間もまだたっぷり残してあった。謙遜(けんそん)もあろうが、「ラッキーだった」という。戻って、第4図では△7六銀▲7五歩△9四飛とするのが有力だったとされた。

■大技が不発

 出世魚で奪った金で、こんどは▲7六金と角を殺して第5図。後手も△4八銀▲6六金△5九銀成▲同金△8六飛と大技を決めに行く。なんとかなりそうか。しかし▲6七金引が冷静で先手陣は意外と手厚く、続く第6図の▲5三歩の垂らしが強烈な反撃だった。8六の飛車がいるせいで、△同銀と取れない(▲7五角の飛車銀両取りがかかる)。

■竜を封印した「左美濃」

 第6図から△5六香と攻め合いを目指したが、▲4九金の美濃囲いの再構築で、清水上さんは「やっと優勢を意識した」。これで後手から継続手がない。「金を寄られて指す手がなくなった。攻めもないし、受けもない」と、松本六段の声は悲痛だった。取材に訪れた記者は形を見て、「右にも美濃、左にも美濃。しかも左美濃が堅い。後手の竜を封じ込めている」と感嘆した。

■プロ、潔く投了

 後手陣は受けも効かない形なので、△8七歩▲8九歩△9八竜と攻めたが、▲6三角から▲8五角成(終了図)として勝負あった。先手陣は鉄壁、飛車を取れば後手玉は詰めろがかかり、一手一手。松本六段は潔く駒を投じた。

■楽しむことが好結果に

 清水上さんは並み居るプロを相手に4連勝し、2次予選に進出。アマチュア史上に残る快挙を成し遂げた。感想戦の後、取材陣による共同インタビューが行われた。数々のアマタイトルを手中にしてきた清水上さんだが、「1次予選、通過してしまいましたね。いいんでしょうか」と、自分の成し遂げたことに驚いた様子だった。

 インタビューの最後で、冒頭の笑顔の謎が解けた。「(朝日新聞社主催の)アマプロ戦に最初に出たのは7年前。そのときは絶対勝ちたいと力が入っていた。でも、最近は楽しんで指したいと思うように。そうしたら逆に、結果もよくなった」という。対局開始前のすがすがしい笑顔は、楽しんで指す、まさにアマチュア代表の顔だったのだ。「シード棋士と当たる2次予選はいわばボーナスステージ。気負うことなく、1局でも多く楽しんで、せっかくのチャンスを生かしたい」。アマ強豪の夢をまた一つ、かなえた清水上さんは抱負を語って、まっすぐに前を見据えた。

(女流二段 早水千紗)

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