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<  第3回朝日杯オープン戦第19局  >
2次予選1回戦 ▲松尾 歩七段―△清水上徹アマ

清水上アマ、2次予選で散る

対局日:2009年11月8日

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■A級棋士と並んで

 午前9時55分。将棋会館5階の香雲の間は、いつもの対局前とは雰囲気が違っていた。まず日曜日であること。対局する部屋としては末席である5階にA級棋士の三浦弘行八段と元棋聖の屋敷伸之九段がいること。そして、その重量級の対戦の隣で対局するのが、アマチュアの清水上徹さんであること。

 清水上アマが1次予選を抜けたとき、記者は三浦に2次予選の抽選はいつになるかと聞かれた。「もしかしたら当たるかもしれないので、念のため」と笑っていたが、気にしていたのは間違いない。ここまで清水上アマが勝ち上がった内容や勢いを見て、自分なら必ずストッパーの役割を果たせると断言できる棋士が、どのくらいいるだろう。もし対戦者を指名できるとしたら、おそらく清水上アマを選ぶ棋士のほうが少ないのではないか。勝って当たり前、負けたら何を言われるか分からない。プロの務めとはいえ、自ら招き入れたい状況ではないはずだ。

■清水上アマが中飛車

 松尾と清水上アマの対戦成績は松尾の1勝0敗で、その将棋は前期の朝日杯1次予選だった。つまり松尾は2年連続でストッパーの役割を担うことになった。しかも舞台は2次予選。前回を上回る重責を背負って戦う。

 戦型は後手番の清水上アマが△5五歩型の中飛車を選び、早め早めに動いていく展開となった。松尾は相手の攻めに乗って陣形を盛り上げていき、5筋の位を奪還。迎えた第1図は清水上アマが方針を変更して穴熊を目指したところだ。相手の位の影響を受けないために低く穴熊に囲うのはセオリーだが、5筋の位はもともと清水上アマが取ったもの。作戦が成功したとは言い難い。

 清水上アマは「中央を厚くされてしまい、手を出せなくなってしまいました。ここからの穴熊は仕方ない」、松尾は「5筋が手厚いので、模様はいいかなと感じていました。穴熊は妥当な判断だと思います」。

■危険だった一手

 第2図。清水上アマの玉は穴熊に入ったものの、金銀2枚では心もとない。本来ならもう1枚金銀をくっつけたいところなのだが、下手に動かすと突破されてしまう。一方の松尾は4筋から6筋まで位を張り、それを二枚銀で支える好形を築いている。先手の作戦勝ちは間違いない。持ち時間の長い将棋なら、じっくりと細かくポイントを重ねて完封できそうだ。しかし、朝日杯は持ち時間40分。残り時間はこの時点で松尾13分、清水上アマが8分。

 「模様はよいのですが、こちらから動いていくとスキが生じてしまう。見た目以上に悩ましい局面です」と松尾。

 第2図から△4二金▲2四歩△同銀▲4四歩と進んだ。清水上アマは「依然として手出しが出来ず苦しい。動いてきてもらえばチャンスも生じるかと思い△4二金としたのですが、まずかったです」。この▲4四歩で清水上アマはしびれてしまった。何もしなければ▲4五銀から▲3四銀と出てこられて壊滅。3二の金が4二に動いたため、2四銀が動けなくなっている。攻めを呼び込む姿勢に間違いは無かったものの、△4二金は危険すぎた。

 清水上アマが挙げた代案は△4二角。以下▲5七角△4三金▲2九飛△5三金の進展が予想されるが、これならまだ膠着(こうちゃく)状態が続いていた。局面が動かなければ、先手は千日手の心配をしなければいけない。後手は駒を繰り替えながら、相手が焦って動いてきたところをたたけばいい。先手に分のある将棋だが、実戦的にはまだまだ難しいところもあった。

■松尾の優勢拡大

 第3図となって、先手陣は伸び伸び。後手陣は角金銀が窮屈で使いにくい。このまま松尾の押し切りが濃厚かと思われた。そこに清水上アマから△3六歩が飛んできた。最後の1分を使った渾身(こんしん)の一手。これが実に悩ましい手裏剣の歩だ。

 △3六歩に▲同銀は△4四金▲4五歩△5五金と中央を突破されてまずい。かと言って桂を逃げる場所は無い。松尾はこの局面で時間を使いきり、そして追われるような手つきで▲3四歩と突き出した。瞬間、清水上アマの背筋がピンと伸びて△3七歩成。ここから▲3三歩成△4八と▲2二ととなれば、後手は金桂交換の駒損ながら攻め手に困らず望外の進行だろう。もしかしたらチャンスが来たのでは?

 しかし現実は冷たく、松尾は強かった。△3七歩成に▲同角。桂損を気にせずに局面を収めてしまえば、なんてことはない。後手が身動き取れない状況は変わっていないのだ。

 局後の検討では、第4図が最後のチャンスではないかと、多くの時間が割かれた。清水上アマがまず挙げたのは△6二桂。以下▲4五銀△3五銀となれば、次の△4六歩を見て後手が面白い。また▲4三歩成とするのも、△5四桂▲3二と△6六桂の二段跳ねがある。松尾も△6二桂は警戒していたが、すぐに▲4三銀成と重く攻める手を示した。△同金▲同歩成△3七銀▲5二と(参考図)と進めて、やはり先手大優勢。

 第4図からの△2五桂も調べられたものの、一度▲4五飛と浮く手が好手。△3七歩成▲3九角と冷静に逃げておき、▲4三歩成を楽しみにすれば問題ない。

■清水上アマ、力尽きる

 実戦は△4六歩▲4三歩成と進み、決定的な差がついた。ただ第5図からの△1三角など、右上の残されそうだった角金銀をすべて使い切った指し回しからは、駒をいたわろうとする気持ちがにじみ出ていた。清水上アマは数年前に「北千住子供将棋教室」を開講し、後進の育成に携わっている。彼に教わる生徒は、きっと良い将棋を指すようになるだろう。

 終了図は後手玉に▲8二金△同玉▲7一角以下の詰めろが掛かっており、先手玉はまだ安泰。受けようにも金銀にスペースを消されており、攻防ともに見込みがない。

 局後に松尾は「よかったなというか、ホッとしています。自分にしてはうまく指せたかなと思っています」。清水上アマは「全然ダメでした。途中から手も足も出なくなってしまった。序盤から差をつけられて、どうしょうもなかったです。今期は出来すぎでした。ここまで来たのが奇跡。今後2次予選に進出するのは無理だと思いますので、良い経験ができました。プロと戦うチャンスがあるうちは、一局でも多く指したいと思っています。また来られたらうれしいです」と話した。

(後藤元気)

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