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<  第3回朝日杯オープン戦第22局  >
本戦1回戦 ▲谷川浩司九段―△阿久津主税七段

光速流谷川、前回覇者下す

対局日:2009年12月24日

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■好調同士の一戦

 いよいよ始まる本戦1回戦。開幕局に登場するのは、前回覇者の阿久津主税七段と、A級順位戦で挑戦権争いのトップを走る谷川浩司九段。阿久津は朝日杯のあとに銀河戦でも優勝。谷川も先ごろ日本シリーズで優勝しており、両者とも最近の早指し戦での好調ぶりがうかがえる。

 本局は後手番となった阿久津が、角道を止めて淡々と玉を囲う四間飛車を採用した。振り飛車の天敵である居飛車穴熊に組まれやすく、最近では局数が減っている作戦だが、もちろん結論が出ているわけではない。実際に本局は阿久津ペースで序盤戦が進んでいった。

■谷川動く

 谷川が4枚穴熊に組んだあとに、5筋の勢力争いを仕掛けていったのが第1図。ここでさばきの手筋に映る△4六歩は、▲5四歩△4七歩成▲5三歩成△5八と▲6三と△同金▲5二銀と踏み込まれて後手が苦しくなる。穴熊の堅さ、遠さが生きる展開を避けるのが、この形の四間飛車のコツだ。むやみに切り合ってはいけない。

 実戦は第1図から△4三銀▲5六金と進んだ。一度出た銀を引かされたうえに中央の位を取られてしまったが、阿久津は「後手番なので不満はありません」。振り飛車側は後手番なので、無理して自分から動く必要はない。局面が動かずに千日手模様になって困るのは、先手の居飛車側。この局面は阿久津が誘導したのだ。

 谷川の▲5六金は穴熊から駒が離れるので、本当ならあまり指したくない手だろう。しかし先手番ゆえ、自分から攻撃形を作らざるを得ない。谷川も局後に「▲5五歩としたものの、たいしたことは無かった」と振り返っている。

■堅さで後手リード

 第2図はチャンスと見た阿久津が3筋から動き、谷川がヒラリと角を引いたところ。ここで△3五銀なら軽く▲4五桂。△3五角でも▲同角△同銀から▲4五桂と跳ねる筋がある。谷川が一本取ったかと思われたが、さにあらず。阿久津が盤面全体を見渡した三手一組の好手を繰り出した。

 まず△8五桂と跳ねる。9筋が詰まっているので▲8六銀と上がるが、そこで△7三金寄が実に味の良い一着。後手陣が抱えていた▲5二銀(角)のキズが消え、金が2枚並んだことで玉形も引き締まった。先手の穴熊は金銀が散ってしまっており、堅さ争いでも後手がリードを奪った。

■阿久津、判断ミス

 △7三金寄を見て苦戦を意識した谷川は、渋く▲5九飛とキズを消す。阿久津も呼応するように△9二香。将来的に△9一飛から端攻めする順を見せた手だが、これが判断ミスだった。さっき好手を指したばかりなのに、自然に映る△9二香が疑問とは……。プロの将棋は恐ろしい。

 阿久津は「△9二香は一手の価値がない。ここは△3五角から強気に行くしかなかったです」。谷川は「後手の方が玉形が良いので、単純にさばきに来られたら悪いと思っていました」。△3五角以下、▲同角△同銀▲4五桂くらいが相場だが、後手はそこで△4八角▲4九飛△3七角成と馬を作っておく。地味な手に見えても次に△3八馬から△4七馬と活用するのがすこぶる厳しいのだ。

■渋い金寄り

 第3図以降しばらくは先手ペースで進み、迎えた第4図。ここで谷川の指した▲6七金寄が、思わずうなってしまうほどの好感触だった。

 もう一度、第4図を見てほしい。先手は▲3六桂の両取りを掛けたいが、△4八角と打ち返されて不発。以下▲5八金△5九角成▲同金に△3九飛が金桂両取りになってしまう。この△4八角の筋を消しながら手順に陣形を固めたのが▲6七金寄というわけだ。金を寄った1手で先手陣が見違えるほど良い形になったのを、お分かりいただけるだろうか。

 が、しかし。先ほどの阿久津が△7三金寄の直後に疑問手を指してしまったように、谷川の前にも落とし穴があった。第4図から▲6七金寄△3七角と進んだときに、▲4九飛と横に逃げたのがまずかった。スイッと進められた△5六歩でまた形勢逆転。5七のと金作りが受からなくなったのだ。△3七角に対する正着は▲5八飛。飛車を5筋のままで踏ん張るべきだった。

■阿久津、痛恨のミス

 両者とも好手と疑問手が行き交い形勢も二転三転した本局も、第5図での阿久津の指し手で勝敗の帰結が見えることになる。谷川の▲4六歩は角を質駒にするための一手だが、これを△同角上と取ったのが失着。

 阿久津は「後で飛車を切られたときに、△同角成で馬を作る狙いだったのですが……。駒の利きが重なってしまった。▲4六歩には△同角成として、二枚の角を敵陣に利かすべきでした」と話した。第4図から△同角引成としておけば、本譜と同じように▲5一と〜▲6一とと寄ってきたときに、一発△5一歩を利かす手も生じる。阿久津、痛恨のミス。ここから谷川が一気に加速する。

■妙手順で攻めきる

 第6図は阿久津が△7八金と張り付き、最後の勝負に出たところ。ここからの▲7七金△同金▲4六飛が光速流の面目躍如の妙手順となった。後手玉は角と金が入れば即詰みがあり、欲しい駒は自陣に落ちている。ここのところ受けに回る場面が多くなった谷川だが、やはり寄せの組み立ても素晴らしい。

 終了図は後手玉が△7三金以下の詰めろで、受けも難しい。先手玉には王手が続かないので投了も仕方ないだろう。

 前回は難敵を連破してトーナメントを駆け上がった阿久津も、今回はここで敗退。谷川は一局を通して、筋の良さと辛抱強さが光っていた。

(後藤元気)

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