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<  第3回朝日杯オープン戦第26局  >
本戦2回戦 ▲谷川浩司九段―△森内俊之九段

谷川、初のベスト4

対局日:2009年12月24日

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■超重量級のカード

 ともに名人位通算5期。十七世名人資格保持者の谷川と、十八世名人資格保持者の森内が準々決勝でぶつかった。こういった超重量級のカードは長い持ち時間で見たい気がするが、早指しだからこそ起こるドラマもある。

 振り駒で先手番を握った谷川は▲7六歩から▲2六歩と居飛車の意思表示。森内も4手目に△3二金、6手目に△4四歩と指して、矢倉模様の駒組みを進めた。第1図は右四間飛車に組んだ谷川が4筋から動いたところ。ここで森内が指した△6四角が、7二飛の利きを通しつつ相手の攻め駒を狙う味の良い一手だった。先手が▲1五歩など緩い手を指そうものなら、すかさず△3五歩(▲同歩は△3六歩、▲同角は△3七角成)で後手十分の態勢になる。

 谷川は早くも、作戦が失敗気味であると判断していた。先手の攻撃形は強力だが、後手も飛車角金銀がすべて受けに利いており、一気に攻めつぶすのは困難。振り返ってみると、安易に▲2六角〜▲3七桂と形を決めすぎたのかもしれない。

■耐える谷川

 △6四角に谷川は辛抱の▲4七金を選んだ。△3五歩を受けるには仕方ないところだが、飛車の縦利きが止まってしまい重たい格好だ。ただ筋が良い手、手触りの良い手を選ぶだけではすぐに負けてしまう。ここからしばらく、谷川は「忍」の一字で立て直しを図っていく。

 ▲4七金以下、△2二玉▲6六歩△9五歩と進んで第2図。玉を入城させ、端を伸ばして後手万全の態勢だ。特に△9五歩は、8八まで玉を囲って立て直そうとする谷川に、無言のプレッシャーを掛けている。誰だって狭くなっているところに玉を囲いたくはない。4筋からの攻めは成立せず、玉も囲いにくい。もうどうすればいいかも分からない局面だが、第2図で谷川は渋く▲7六歩。△同飛は▲6五銀の飛車角両取りがあるが、谷川もそれを期待して打ったのではない。自陣を補修するための辛抱、辛抱の一手だ。

■森内に悪手

 谷川が▲6七銀と引き付けた第3図。持ち時間の長い将棋なら、このあたりで後手は腰を落とし、勝利への構図を描く場面だろう。相変わらず先手から攻めの手段は無く、後手からは真綿で首を絞めるような手がいくらでも浮かぶ。

 しかし、ここで早指しゆえのドラマが起こった。森内が秒に追われて指した△8五桂が、これまでの優勢を無にしてしまう悪手だった。

 「桂を持てば△5五桂の筋があるのですが……。しかし桂は一番渡してはいけない駒でした」(森内)。後手が桂を持った場合の狙い筋は△5五桂しかない。しかし先手には▲5六桂、もしくは▲2四歩△同歩▲2三歩△同金▲1五桂と二つの狙いがある。第3図では慌てずに△4五歩がまさった。流れが落ち着けば△1四歩とキズを消す手も間に合ってくる。

 △8五桂以下、▲8六銀△7七歩▲6八金△8四歩▲5六歩と進んだ局面は、後手が攻めをせかされている格好だ。谷川は棋勢好転を感じていた。

■決め手の▲2四歩

 第3図からは森内が攻め続け、谷川は受けに回りつつ駒をためて反撃をもくろむ。迎えた第4図は、互いの銀が取られそうな場面で谷川が▲2四歩と決め手を放った瞬間だった。▲2四歩に△同歩は、▲2三歩△同金▲1五桂が強烈。次に▲8五歩と桂を補充する手がすこぶる厳しくなる。

 森内は△1四歩と辛抱したが、▲2三歩成△同金で形を乱されてしまった。第3図で緩やかな流れに持っていけば、何の障害もなく指せた△1四歩。同じ符号でも、その内実は全く違うものになっている。

■最後の猛攻

 谷川が「端玉には端歩」の格言通り、後手玉を追い詰めた第5図。次は▲1四歩で受けなしとなるため、森内はこの瞬間にラッシュを掛けるしかない。

 まず△7六飛と走り、▲8五歩に△7九銀。こちらも「玉は下段に落とせ」の格言を地で行く攻め。銀が入れば後手玉は▲2二歩成△同玉▲2三銀打△1三玉▲1四銀成△同金▲2三銀成までの詰みがあるが、この銀を取るのは危険極まりない。実際には▲同玉でも先手玉は詰まなかったようだが、本譜の▲7八玉の方がより安全だろう。

 第6図の△4八歩は△8八金▲6七玉△6六飛▲5八玉△6八飛成までの詰めろ。ドキッとする手だが、▲5七金で6六の地点をカバーすればピッタリ受かっている。以下、△6六歩▲3九飛となったところで森内は投了を告げた。

 終了図では先手玉に詰みがなく、後手玉は▲2二歩成から▲2三銀打の筋で詰む。

■流れに逆らわず

 第1回、第2回と本戦入りを果たせていなかった谷川が、今回はベスト4まで勝ち上がった。持ち時間40分での戦い方に慣れてきたという見方も出来るが、それ以上に精神面での充実が大きいのではないだろうか。

 谷川は局後に「長くなるのもいとわず、一直線なら踏み込む。流れに逆らわず指すというだけです。たくさんの方に見ていただける公開対局は楽しみですね。準決勝で負けると決勝を解説することになりそうなので、頑張りたいと思います」と抱負を語った。

(後藤元気)

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