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<  第3回朝日杯オープン戦第28局  >
本戦1回戦 ▲渡辺 明竜王―△行方尚史八段

渡辺、第1回覇者を下す

対局日:2010年1月13日

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 第1回朝日杯優勝者の行方八段と、昨秋に竜王戦6連覇を果たし、充実著しい渡辺竜王の一戦。実績では渡辺に分があるが、両者の対戦成績は行方が5勝2敗とダブルスコアの差をつけている。

 行方は第1回から第3回まで、朝日杯の通算成績が8勝1敗。実力はもちろんのこと、チェスクロック使用40分、切れたら1分将棋という本棋戦のルールが合っているのだろう。渡辺も第2回大会ではベスト4に進出し、有楽町マリオンでの公開対局を経験している。

 本局が行われたのは1月13日。ふたりは正月明けて間もない1月8日に順位戦で戦っており、相矢倉の競り合いを渡辺が制した。中4日、戦型は先後を変えて再び相矢倉。意地と意地のぶつかり合いだ。

■往復ビンタ

 開始からパタパタと手が進み、第1図までは8日の将棋と同一局面となった。そのときは後手番で勝った渡辺が、今度は先手番を持って指している。棋界用語で、同じ戦型で先後両方を持って勝つことを「往復ビンタ」と言う。これは「どうやっても私が勝つんです」という宣言のようなもので、食らった方は屈辱以外の何物でもないだろう。

 ところが行方は、堂々と胸を張って駒を進めてきた。数日前の敗戦の分析は当然済んでいるのだろうし、何より地力で負けていないことを証明する良い機会でもある。

 人と人、意地と意地のぶつかり合い。こういう展開になると盤側も興奮してくるが、胸を高ぶらせた直後、渡辺は予定通りとばかりにピシリと▲5五歩(8日の▲行方―△渡辺は▲3五歩)。どうやら往復ビンタうんぬんは記者の独りよがりだったようだ。渡辺が変化しなかったら行方はどこまで同じように進めたかという興味があるが、それはそれ、これはこれ……。妄想が妄想で終わるのは日常茶飯事なので、気にせずに先に進めよう。

■後手十分の分かれ

 第2図は行方が△7三桂と活用したところだ。ここで渡辺は▲5五銀と進出させたが、代えて▲6四歩と手を戻す順も有力だった。後手は△6五歩▲5七銀と押さえてから△6四金とするが、そこで▲1五歩〜▲3五歩の攻めが利く。後手は金が1枚離れているため、右辺で戦いに持ち込めば先手有望というわけだ。

 実戦は▲5五銀以下、△6五桂▲5四銀△7七桂成▲同金寄△5三歩▲6三銀成△5七角成▲4六桂(第3図)と進み、後手十分の分かれ。金桂と角の二枚換えだが、先手は4七の銀が立ち遅れているのが痛い。

■本筋の手があだに

 第3図の▲4六桂は、遊んでいる4七の銀を取らせる間に攻め込もうという狙い。行方は次の手を悔やみ、局後に「△4三金と一度受けておくべきでした」と話した。こうしておけば先手が攻め続けるのは難しく、仮に▲4八金と銀を受ければ△8四馬で問題ない。

 行方の第3図からの指し手は△7五歩。玉のコビンを攻めるいかにも本筋の手なのだが、▲4八金と打たれて飛び上がった。突いたばかりの△7五歩が馬の逃げ道をふさいでおり、△8四馬と引き返すことが出来ないのだ。行方は「さすがにまずくしましたね」と唇をかむ。渡辺も「金を打って少し良くなったかもしれません」と同調。形勢はわずかに反転し、先手に傾いた。

■切り返しの名手

 第4図は4八でくすぶっていた金が5七に上がったところ。△6六角の筋を消しながら飛車の横利きを通す味の良い手で、渡辺も「駒の損得なしで飛車取りの先手なので、やや良しかと思いました」と話した。

 実戦は図から△8三飛▲7三成銀△5二桂と進み、形勢逆転。最後の△5二桂が切り返しの名手で、△6四桂と角を取った形が攻めによく利いている。△8三飛に対して先手は▲5二成銀△4三銀▲3四歩△同銀▲4二成銀と、後手玉に向かっていかなければいけなかった。勝利の女神は気まぐれなようで、渡辺と行方の間を行ったり来たり。特に早指しの将棋では忙しく飛び回るようだ。

■行方、好機を逸す

 第5図は△1九角の飛車取りに▲3八飛と逃げたところ。行方が局後に「ここで自分の手番なのだから、勝ち切れないのは弱すぎる」と嘆いたように、大きなチャンスを迎えていた。ここでは△7七歩成が軽妙手だった。▲同桂は△7六桂の活用が絶品だし、▲同金も△7六桂打の継ぎ桂が厳しい。最善は▲同玉だが、△4九角と飛車を攻めながら△7六角成〜△8六歩を狙う手がピッタリ。3八の飛車がいなくなれば後手玉は安全になる。

 実戦は△4六角成▲同金△6六角と決めに出たものの、スイッと▲9八玉(第6図)と寄られて再逆転。飛車と金が8八の地点に利いているため、いっぺんに先手玉が遠くなってしまったのだ。筋は「端玉には端歩」で△9六歩なのだが、以下▲2四歩△7七歩成▲3三銀と打ち込んで先手の1手勝ち。後手玉は見た目以上に近く、先手玉は見た目以上に遠い。

 行方も必死に攻めたが、渡辺にしっかり受けられ、万事休す。終了図は先手玉に詰みはなく、後手玉は▲2三金からの詰めろ。二転三転どころか、三転四転したシーソーゲームを制した渡辺。2年連続のベスト4入りまで、あと1勝に迫った。

(後藤元気)

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