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<  第3回朝日杯オープン戦第29局  >
本戦1回戦 ▲畠山 鎮七段―△羽生善治名人

羽生、薄氷の勝利

対局日:2010年1月13日

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■2年連続の強敵

 いよいよ羽生が朝日杯に登場。畠山にとっては、前回の渡辺明竜王に続いて2年連続、本戦1回戦で強者と相対することになった。

 振り駒の結果、先手を持ったのは畠山。▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩の出だしで相居飛車志向が明らかに。畠山が横歩を取り、羽生が飛車を8五に引いて、戦型は横歩取り後手8五飛の戦型になった。対する先手にはさまざまな指し方があるが、畠山が選択したのは中住まいから▲3八銀、▲4八金と構える形。前例があり、互いに時間を使わず定跡通りに進んでいく。

■絶妙な距離感覚

 後手の攻めが一段落し、先手が反撃に出たのが第1図。▲6六角は無造作に置かれたようで、▲2三歩のたたきや、▲7五歩と飛車の横利きを遮る手を用意した含みの多い手だ。これに対し羽生は絶妙な距離感覚を発揮する。まず、じっと△2三歩でキズを消し、次の▲7五歩にも△同歩と応じる。先手の「利かし」をすべて受け入れる順で、こう指されると畠山も動くしかない。

 ▲1六歩で後手の角が危ないようだが、羽生は次の手順を用意していた。それが△7六歩▲1五歩△3五飛▲3七歩△2五飛――。まさに紙一重の見切り! 飛車をぶつける大さばきで、ギリギリのタイミングで角を活用することに成功した。さらにその報酬は7筋の拠点。7六の歩が先手玉の逃げ道を封じて、厳しい圧力となっている。

■7六歩の拠点

 △2五飛からは必然的に飛車交換から攻め合いになるが、こうした展開になると陣形の差が如実に表れる。第2図では▲8一飛と力をためて攻めたいが、すると△8九飛成▲7九金△7七銀でいきなり先手玉は寄ってしまう。やはり7六の拠点が大きいのだ。そこで畠山は▲6二桂成△同金▲8一飛と、王手がかかる形で攻めかかる。とにかく金銀をはがして後手玉を危険な状態にしたい。

 羽生は冷静に対応する。第3図に至る途中の△4四歩(72手目)が、感触のよいふわりとした手だ。角筋を受けに利かせ、玉を広くし、6六角の利きを緩和している。第3図では▲8二飛成△4三玉▲3五金と迫りたいのだが、以下△5九銀▲5八玉△6九銀▲同玉△4八銀成▲3九銀△4七角成▲7九玉△3三銀で、先手が勝てない。畠山は第3図で▲3九金打と、自陣に金を投入して粘った。

■広い後手玉

 △3四玉(第4図)は手筋の早逃げ。後手玉の左辺は広く、先手の持ち駒に金銀がないことも相まって捕まえにくい。角を狙って突いた▲1五歩も今となっては後手玉を広くするのに貢献している。畠山にはなんとも皮肉な展開だ。非勢を意識した畠山は「ここで▲2九歩も考えた」という。これに対し△4五香は▲9一竜△4七香成▲3六香で失敗する。したがって▲2九歩には△1六角▲9一竜△3八角成▲同金△2九竜▲3九香△4九銀▲7九金△3八銀成という展開が予想される。

 羽生は「こちらがどれだけ危ないか、という将棋。△3九竜も詰めろにならないので」と不安を口にしたが、畠山は「(後手玉が)広いから……。さすがに苦しいですよね」と、この順では自信がないと思っていたことを語った。

■一瞬のチャンス

 そこで本譜は▲9一竜(第5図)。「(▲2九歩と)打たれると思っていた」羽生は、チャンスとみて決めにかかる。ところが、ここで羽生が誤った。

 羽生は第5図から△4七角成と決めに出た。以下▲4七同金△3九竜で竜の利きが受けにくいようだが、▲4九歩が利いた。取れば▲1六角の王手竜取りだ。ここでは局後に「自信はなかった」と羽生が語った通り、局面に暗雲が立ちこめていた。羽生は確信が持てないまま△4五香(第6図)と打ったが、この瞬間に形勢は大きく揺れる。

 第6図ではなんと先手の側に決め手があった。それが▲3六金。これで次の▲1六角が厳しく、後手玉はほとんど必至なのだ。だが▲3六金の局面で考えてみると、先手玉は△5八金から怖い王手が続き、△4七銀でこの金を取り払う筋もある。「ひと目詰みそう、詰みがなくても金を取られてはダメ」。二人の対局者は局後、▲3六金の局面で共通の感覚があることを語った。ところが、よくよく読んでみると、△5八金▲同玉△4九竜の王手は▲6八玉△5九銀▲7九玉△6八銀打▲同金△同銀成▲同玉で8七の地点に逃げ道があるため詰まない。△5八金▲同玉△4七銀▲6八玉△3六銀成と金を取り払うのも、平凡に▲同歩で後手玉は寄り形。つまり、第6図で▲3六金と指せば畠山の勝ちだったのだ。

 戻って第5図での正解は△4九銀。以下▲2九歩なら△3八銀成▲同金△2九竜▲3九香△4九銀が厳しい攻めとなる。角を渡さないことがポイントで、この順なら後手が優位を保つことができた。

■勝機つかめず

 第6図、畠山の指し手は▲1六角。この瞬間、畠山の勝ち筋は消し飛んだ。畠山は▲4四角と切って後手玉を追い詰めるものの、届かず。持ち駒を使い切ったところに△3八竜(終了図)が決め手になった。合駒がない。▲4八竜は△4七角で必至だ。畠山は△3八竜が指されるとすぐに投了を告げた。

 先手の勝ち筋が発覚したのは、局後の感想戦で畠山自らが「金を上がると?」と指摘した時のこと。畠山は▲3六金の局面が詰まないとわかると、「金上がりは(詰むと)錯覚したから指せなかったんじゃなくて、そもそも考えなかった」と、どうしようもないというふうに淡々と語った。羽生も「そっか」とつぶやき、「金上がられたら明確に負けですね。ひどかった」と、厳しい表情でこぼした。

 畠山、一瞬の勝機をつかめず無念の敗退。羽生は3年連続での2回戦進出となる。

(松本哲平)

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