現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 将棋
  4. 朝日杯将棋オープン戦観戦記
  5. 記事

<  第3回朝日杯オープン戦第31局  >
本戦1回戦 ▲佐藤康光九段―△糸谷哲郎五段

佐藤九段、力でねじ伏せる

対局日:2010年1月19日

第1図拡大  

第2図拡大  

第3図拡大  

第4図拡大  

第5図拡大  

第6図拡大  

終了図拡大  

■豪華メンバー

 なんて豪華なんだろう。すぐ目の前に佐藤康光九段と糸谷哲郎五段の対局がある。そしてそのすぐ隣には久保利明棋王と鈴木大介八段の対局がある。関西将棋会館5階の芙蓉(ふよう)の間。今回の本戦トーナメントでは初の関西対局となるのだが、10畳の部屋に対局者4人、中継スタッフ2人、記録係2人と、8人がいるため、すき間がないように配置されていて、観戦席から対局者が近い。そのため、余計に豪華さを感じたのだろう。

■初対戦

 佐藤と糸谷は初対戦だ。佐藤は棋王戦のタイトル挑戦を決め、絶好調。朝日杯は本戦からの出場となる。糸谷は1次予選で小阪七段、浦野七段、藤原六段、2次予選で杉本七段、豊島五段を破り、初の本戦進出。関西で大活躍中の若手の一人だ。佐藤との対局に対しては「緊張はしませんでした。とても楽しみにしていました」と話した。

 振り駒の結果、佐藤が先手と決まった。糸谷は後手なら一手損角換わりにする予定だったそうで、実戦もその通りに進んだ。

 第1図は佐藤が2二の飛車を▲8八飛と回ったところ。▲2五歩と突いているので、居飛車の棒銀のように見えるのだが、そこから振り飛車に転換するというのが佐藤らしい独創的な指し方だ。糸谷はここで△8四歩と指したが、△7五歩もあった。以下、▲同歩に△4五角で、銀と歩の両取り。うまくいってそうだが、ここで▲4六角の返し技があり、「分からなかった」という。以下▲9二飛△3六銀▲6七角成△6八金▲8五馬が一例だが、いずれにしても激しい順となる。

 本譜は互いに玉を囲い合う穏やかな進行となった。

■開戦

 糸谷が2筋の歩を交換して小競り合いが始まった。第2図は佐藤が▲2六歩と収めたところ。糸谷は予想外だったらしく、「いやぁ」と声を出す。ここで△7五歩▲同歩△7六歩と指せれば調子がいいのだが、△7五歩の瞬間に▲5七角が返し技となる。2四の銀取りと、7五の歩の両取りだ。以下△3五歩▲同歩△7六歩▲3四歩△7七歩成▲2四角と進むと先手が指しやすい。本譜は△4三銀と、邪魔な先手の4四銀を消しに行く手を選んだ。

■静と動

 佐藤は初手から一手一手、落ち着いて着手していく。静かにゆったりとした印象を受けたが、一方の糸谷は落ち着きがない。指し手も決めていましたとばかりに相手が指し終わると同時に指すし、よく席を立つ。まるで正反対な二人だが、それが二人の対局スタイルなのだろう。

 第3図の△4六歩に対して▲同歩だと、△3五銀▲3六歩△4六銀と後手が動きやすくなる。佐藤は▲5八金としたが、これが好手だった。遊んでいる金が玉に近付くとともに、△4七歩成には▲同金左と手順に囲うことができ一石二鳥。守り方のお手本にしたい一手だ。佐藤も優勢を意識したそうだ。

■二転三転

 第4図に至る数手は、残り数分しかない両者が時間を惜しむようにノータイムの着手を進めた。ついに佐藤が秒読みになり、▲7四銀(第4図)を着手。局後、佐藤は「▲7四銀が悪かったですか……」と語った。後手に△8四飛とされ、▲5三馬△4二銀の時に、▲4四馬としたいのだが、△7四竜と銀を取られてしまう。仕方なく▲7五馬と引いたが、その後の銀の使い方が難しかった。戻って第4図では△4五歩と金を攻める手が有力だった。

 第5図から佐藤は▲5三馬と指したが、ここでは▲6五馬があった。飛と銀の両取りだ。△4二飛なら▲4三馬△同飛▲2三銀が詰めろ金取りとなる。局後、糸谷から指摘され、佐藤ははっとした表情で「そっか。それがありましたか」とつぶやいた。

 ▲6五馬を逃してからは、形勢がまた難しくなっていく。本譜は▲5三馬△4二銀▲6三馬△2六歩▲同銀△3六角と進んだが、ここでは糸谷五段が優勢になっている。▲3六同馬には同歩が調子いい。佐藤は仕方なく▲7四馬としたが、△7二飛で後手の飛車が働いてきた。

 第6図は△2七歩と王手され、▲3九玉と逃げたところ。ここで糸谷は△1三銀と指した。次の▲2三歩が詰めろになるため、それを牽制(けんせい)した一手だったが、あまり良くなかった。

 ここでは△7四飛▲同歩△2八角▲2九玉(▲4九玉は△1九角成で次の▲2八歩成が痛い)△4七歩成▲同金直△1九角成▲同玉△4七角成の変化が有力だった。

 本譜は▲5七金打とされ、粘られる展開となった。

■感想戦も堂々と

 第6図からは終了図まで50手以上にわたっての攻防が繰り広げられた。途中、117手目の▲6三角が攻防手で、佐藤も「良さそうな気がした」と好転を意識した。その角を▲2七角成と自陣に引きつけ、先手玉は安全に。157手の激戦のすえ、最後は佐藤がねじ伏せた。

 終了図以下、△2二玉は▲4二飛成△3二合▲2三金△2一玉▲3二竜で詰みとなる。糸谷が投了を告げても、両者憔悴(しょうすい)した様子で、声がすぐに出ない。ふと佐藤が隣の対局をのぞくと、まもなく「負けました」と言う声が聞こえてきた。ほぼ同時に終わることも珍しい。本局も沈黙がやぶられ、感想戦が始まった。

 変化や読みを披露してどんどん質問する糸谷に対し、佐藤は瞬時に答える。また佐藤の問いに対し、糸谷も堂々と答える。お互いに「自信がなかった」という言葉が出てきていたが、見どころがたっぷり詰まった一局だった。またいつか、二人の対局をみるのが楽しみだ。

(女流初段・村田智穂)

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内