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<  第3回朝日杯オープン戦第32局  >
本戦2回戦 ▲羽生善治名人−△渡辺 明竜王

羽生、渡辺下しベスト4

対局日:2010年1月13日

第1図拡大  

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第2図拡大  

第3図拡大  

終了図拡大  

 名人と竜王の頂上決戦が準々決勝で実現した。両者は前回の朝日杯でもベスト4入りをかけて対戦し、渡辺が入玉模様の将棋を制している。直後に竜王戦第7局を控えていたこともあり、対局室の雰囲気は形容しがたいものがあった。そのときに比べれば、この日の雰囲気は格段に穏やかに感じられた。どちらかといえば羽生の表情の方が険しかったが、おそらく対渡辺竜王戦で6連敗していたからだろう。実力伯仲は間違いないが、そろそろ悪い流れを断ち切っておきたい。

■現代への宿題

 定刻となり記録係の藤森哲也三段が開始を告げると、両者の手が交互に盤上を舞い、あっという間に角換わり腰掛け銀の先後同形が出現した。この戦型は木村義雄十四世名人の時代から多く指されており、現代に至っても明確な結論が出ていない。真理を求める棋士にとっては、時代を超えた宿題といえるかもしれない。

 両者の指し手は、同型を組み上げたあとも滞ることなく進められている。まるで研究発表会でリポートを読み上げるようだ。第1図は、渡辺が△2二玉と上がった手に対し、羽生が▲3五桂と縛ったところだ。この手は87手目だが、驚くべきことに同一局面に進んだ実戦例(2009年9月、B級1組順位戦・▲松尾歩七段−△豊川孝弘七段)がある。これについては後述するとして、△2二玉では△2二銀と受けた実戦例(▲松尾歩七段―△行方尚史八段)もある。その将棋は結果的に先手が勝ったものの、途中の局面は後手がやれていたというのが通説。渡辺が△2二銀を選ばなかったことで、△2二銀に対して羽生がどのような手段を用意していたかは明らかにならなかった。これはいずれ、他の対局で日の目を見ることになるのだろう。

■△3四銀打が敗着

 さて第1図に話を戻そう。渡辺はここで△3四銀打と受けたが、これが敗着となってしまった。「過去の実戦例で△3四銀打▲3三金と進んでいたので、つい信用して3四に打ってしまった」と渡辺。△3四銀打でなく、△3二銀と下から受ける手が正着だった。

 これに対し先手には、(1)▲4八金△同馬▲2七飛△5八馬(参考A図)と、(2)▲4三金△同銀▲同桂成(参考B図)の2通りの手段が考えられる。

 まず参考A図は、次に△7六歩とすれば先手玉は詰めろ。先手がその前に後手玉を寄せ切れるかの勝負となる。変化の一例は、▲2五飛△同馬▲4一歩成△1三玉▲3七桂△2六馬。先手が調子よく攻めているようだが、後手が受けに徹すると簡単にはいかないようだ。△2六馬の局面は後手有望とのことだった。

■感想戦での応酬

 (1)は参考B図から「△1三玉と逃げて勝てれば話が早いけど……」と渡辺。△1三玉以下、▲3三成桂△5八角成に▲2七飛とする。△2七同馬は▲1五香〜▲2二銀で詰みなので、後手は△5九馬左とするが、▲1五香△同馬▲1四歩△同玉▲2三銀△1三玉▲1七飛△1六歩▲同飛△5七馬でどうか。最後の△5七馬は、次に△1六馬と飛車を取った時に▲1四歩が打ち歩詰めになるようにわざと馬の利きをそらす高等テクニックだ。

 飛車をただで取られてはいけないので、△5七馬には▲6八銀もしくは▲6八金と馬に当てることになるが、例えば▲6八銀なら△1六馬▲5七銀△3二金(犠打)▲2二角△同金▲同成桂△6九金(▲同玉なら△1四角から上部脱出)▲8八玉という変化が一例。先手玉は非常に危険だが、△8六飛▲8七歩△同飛成▲同金△7九角▲9八玉△7八飛に▲8八金打で際どく詰まない。

 参考B図に戻って、△1三玉ではなく△2三金と受ける手も有力だ。以下▲6八金右△3九歩成▲2七飛△同馬▲3五桂△3四銀▲3二銀△3五銀▲2三銀成△同玉▲3三成桂△1四玉▲3五銀(参考C図)となり、これも攻め切るか受け切るか、ギリギリの勝負。その場で結論らしきものは出されなかった。

 これらはすべて感想戦で現れた応酬。渡辺が△3二銀と受けていれば、いずれかに進行した可能性が高く、勝敗は分からなかった。

■余計な手を省く

 実戦の進行に戻ろう。第1図から渡辺が△3四銀打としたため、▲4八金△同馬▲2七飛(第2図)と進み、先手勝勢になった。前例の▲松尾七段−△豊川七段戦は、△3四銀打に▲4八金△同馬▲3三金△1三玉▲2七飛としたため、△5八角成と進んで混戦になった。もし▲3三金△1三玉の交換が入っていなければ、△5八角成には▲2四飛がある。▲3三金を決めないほうが寄せやすいのは明白だ。

 第2図で渡辺の手が止まり、しばらくしてため息を繰り返すようになった。対局後に「△3四銀打の一手でダメにしてしまった。▲2七飛の局面はもうどうしようもない」と語った。

■連敗ストップ

 数手進んで第3図。後手は次に△3五銀と桂を取れれば安全になるが、手番は先手。羽生はここで豊富な持ち駒を生かして▲2五飛と切った。これが決め手。△同銀は▲2三金から並べ詰みだし、△同歩は▲2四金と上部から押し込んで寄り筋となる。

 終了図は▲3三角成以下の詰めろで、△4四銀と角を取っても▲3二金打で詰む。先手玉に詰みはなく、ここでの投了はやむを得ない。

 感想戦が終わり、渡辺が退出したあとに羽生は「前回に続いて渡辺さんと同じブロックでしたが、今回は有楽町マリオンに行くことが出来ます。同形角換わりは大きなテーマなので、これで攻め切れるかどうかは、まだわかりません。連敗ストップですか? あ、そうですね、対渡辺戦の連敗が止まったのもよかったです」。第1回以来、2度目のベスト4進出を果たした。

(後藤元気)

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