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<  第3回朝日杯オープン戦第35局  >
本戦準決勝 ▲佐藤和俊五段―△久保利明棋王

久保、前回に続き決勝進出

対局日:2010年2月13日

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 第3回朝日杯将棋オープン戦も残すところ準決勝と決勝のみ。ここでは佐藤和俊五段―久保利明棋王戦を紹介する。

 今回も準決勝と決勝は公開対局。東京・有楽町マリオンで行われた。当日は約600人が来場し、迫力ある対局と木村一基八段、本田小百合女流二段による解説会を楽しんだ。対局開始前の時点で多くのファンが盤の周りを囲み、対局者が入場すると、大きな拍手がわき起こった。

 佐藤と久保はともにゴキゲン中飛車や石田流を得意にしている振り飛車党。また、中終盤が粘り強いタイプでもある。過去の対戦成績は佐藤の1勝。両者は前回の朝日杯でもベスト4入りし、久保は決勝で、佐藤は準決勝で阿久津主税七段に敗れている。

■相穴熊戦へ

 振り駒で佐藤の先手に決まった。午前10時30分、隣の谷川―羽生戦と同時に対局が開始された。

 久保は振り飛車党には居飛車を用いるのが、ここ2年ほどのスタイル。本戦1回戦では鈴木大介八段の四間飛車を居飛車穴熊で破っている。本局も4手目に△8四歩と伸ばし、居飛車を明示した。

 佐藤も久保の居飛車は想定内で、迷わず四間飛車穴熊を採用した。久保も△1二香(第1図)と上がったため相穴熊の持久戦となった。

■間合いを測る

 佐藤は今年の元日に結婚。環境が変わったことが良い方向へ作用したようで、昨年12月から本局まで8連勝中だ。対局会場には奥様だけでなく、師匠の加瀬純一六段や加瀬六段が開いている将棋教室からも多くの方が応援に駆けつけた。毎年6割以上の高い勝率を挙げているが、目立った活躍は少ない。そろそろ結果を出したいところだろう。

 佐藤は加瀬教室のブログで、「厳しい相手で道のりは険しいですがそれでも優勝以外は意味が無いと思うので自分らしい将棋を2局そろえて結果が出せるよう頑張ります」と記し、意欲を燃やす。

 相穴熊の序盤戦は第2図周辺の1手1手が難しい。解説会場で木村八段は「▲9六歩では▲6五歩と突きたいが、△4二銀▲4五歩の進展は角交換から△8六歩が間に合う。先手は仕掛ける直前に▲6五歩と突きたい」と解説。互いにうかつな手が指せないのだ。そのために少考が相次ぎ、端歩を伸ばしたり、香を上がったりと細かい動きで間合いを測る。

■久保が先攻

 久保は今年に入ってから王将戦と棋王戦のダブルタイトル戦に臨んでいる。ハードスケジュールの中でも調子を崩すことなく白星を積み重ねている。本局の数日前に順位戦でA級への復帰を決め、王将戦では3勝目を挙げて、自身初の二冠まであと1勝とした。

 昨年は勝敗にこだわらず、勝負を楽しむことをテーマにしてきた久保。クールな対局姿は精神のブレを感じさせない。

 佐藤が▲5九角(第3図)と転換を図ったことで、少しずつ局面が動き始めた。久保は△8六歩と歩を突き捨ててから△4二銀と陣形を固める。そして頃合いは良しと見て△8六飛と切り込んだ。「△7六角で香を取る展開になればいいと思った」と久保は自信を持っていた。

■攻め合いへ

 第4図は▲7一飛と打ったところ。佐藤は「自分が良いとは思わなかったが、後手も大変」と考えていた。後手は香得したが、攻め駒が少ない上に歩切れだ。しかし、久保の△8七馬〜△2四角が好手順だった。働きの悪い大駒に活を入れて、次の△4六香が厳しい。佐藤は5六銀や6七金の裏側から攻められた格好だ。「△4六香と打たれて悪くなったと思った」と言う。

 △8八馬に▲4六銀△7九馬▲3七銀引という順も考えられたが、先手が少し悪そう。本譜、佐藤は飛角交換から▲4四桂と打つ攻め合いを選んだ。後手の穴熊はここが弱点。久保の攻めは巧妙だが、ノックアウトパンチを決めたわけではなく、まだ難しい勝負だ。

■佐藤に逸機

 佐藤は第5図で▲6五角としたが逸機。▲3二桂成△同金▲6五角と攻めを急ぐべきだった。以下(1)△3一銀右なら▲3二角成△同銀▲3一金と張り付く。後手は駒を渡すと▲2一金からのトン死筋がある。(2)△4三歩も▲4四歩△3九馬▲同銀△4九飛▲3八金で大変だ。

 本譜は▲6五角に△3三金▲5二桂成△3二金引と形を乱さず受けられて、先手の攻めは決まらない。佐藤は「(▲5二桂成に)△4三銀だと思っていた。△3二金引は見えていなかった」と悔やむ。

 ▲6八金は金を犠牲に時間を稼ごうとしたものだが、△3九馬〜△5九飛が「終盤は駒の損得より速度」という格言通りの攻めだ。なお、△5九飛で△4九飛は▲2一角成から王手飛車がある。

■久保が決勝進出

 佐藤は必死に粘るが、△5六桂(第6図)が決め手になった。▲4三角成は△同金▲同角成△3二金打で大丈夫。

 ▲5六同角には角を取ってから△3八角が厳しい。穴熊は玉のわき腹が急所になる。△3六竜に▲3七歩も△2七竜として寄り筋だ。

 佐藤は形を作り、△2九金を見て投了した。終了図以下は▲2九同玉△3八成香▲1九玉△2八成香▲同玉△3九銀▲1九玉△2八銀打までの詰み。

 対局が終わると、両対局者は解説会場で木村八段、本田女流二段を交えてファンに向けて感想戦を行った。その後、控室でも感想戦を30分ほど。終わって久保が駒を片付けていると、佐藤は顔をしかめた。その表情に無念さがにじみ出ていた。

(君島俊介)

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