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<  第33期朝日アマ名人戦三番勝負第1局  >
▲清水上徹(第32期名人)―△早咲誠和(挑戦者)

早咲挑戦者が先勝

対局日:2010年5月29日

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■アマ棋界の頂上決戦

 アマチュア棋界の頂上決戦が、歴史ある三番勝負で実現した。日本アマチュア将棋連盟公認レーティング1位の早咲さんと2位の清水上さんの顔合わせである。昨年、金内辰明さんを破って朝日アマ名人となった清水上さんが、3月の全国大会で優勝した早咲さんを迎え撃つ。

 早咲さんは大分市在住。12歳の時にテレビ対局で将棋に興味を持ち、ルールは入門書で覚えた。中学、高校と将棋漬けの生活を送り、18歳でアマ名人になったという努力家だ。独自の将棋理論を持ち、教えを請う弟子は100人以上。前回は全国大会の決勝で清水上さんに敗れた。今回はその雪辱戦でもある。

 一方、北海道出身の清水上さんも華々しい経歴を持つ。小中高校の各全国大会で優勝し、明治大学に進んでからは学生名人になり、さらに就職してからアマ竜王、アマ名人、アマ王将を獲得。昨年の三番勝負で念願の朝日アマ名人になった。第3回朝日杯将棋オープン戦ではプロ4人を連破してアマチュアとしては初めて1次予選を突破した。プロも一目置く存在だ。

■相振り飛車に

 早咲さんは前日夜に東京入りし、当日朝に東京在住の清水上さん、立会人の加藤一二三九段らと合流し、湯河原に向かった。対局場の「ゆがわら石亭」に到着するとすぐに対局室の検分。食事を終え、午後1時半に対局は始まった。持ち時間は各90分である。

 振り駒で先手となった清水上さんが▲5六歩から中飛車に振ると、早咲さんは△3四歩から三間飛車に構えた。互いに囲い合った後、清水上さんが6六の角を引いて▲5七角(第1図)とぶつけたのが機敏な一手だった。△同角成と角交換に応じるのは▲同金で、打ち込みのスキが多い後手が不利。早咲さんは△3五歩と角交換を拒否した。この辺りで清水上さんは「ちょっと指しやすくなった」、早咲さんは「自信がない」と思っていた。

 決戦がいったん回避されたことで、駒組みの段階にもかかわらず時間は刻々と過ぎていった。開始から2時間10分たって、清水上さんは残り35分、早咲さんは15分。時間の差からも早咲さんが駒組みで苦労しているようだった。

■誘いのスキ

 △2四歩と飛車の横利きが止まったところで、清水上さんが▲1五歩(第2図)と仕掛けた。だが△2四歩は手詰まりぎみの早咲さんの誘いだった。清水上さんはそれに乗った形で仕掛けたが、▲8五歩と後手の玉頭に圧力をかけておいた方がよかった。▲1五歩以下は△2五歩▲1四歩△2四角▲2五歩△同桂▲2六歩△3七桂成▲同金△1四香▲1六歩△3六歩▲同金△5七角成▲同金△2五歩(第3図)と進み、後手が攻勢に立った。この手順中、▲1六歩で▲1四同香は、同じように進んだ後、△1四飛と香車を取り返される。先手はなるべく後手に攻め駒を与えたくないのだ。

■早咲さんが攻勢

 第3図の△2五歩を加藤九段は「いい着想です」と褒めた。△2五歩に▲同歩だと△2六歩が痛打。▲同銀は△3六飛だし、▲同金は△3九角▲1八玉△1七歩▲同桂△5七角成▲同飛△3九飛成で、先手はいっぺんに敗勢に陥る。清水上さんは▲3八歩と耐えた。ここで早咲さんは早くも1分将棋に突入した。

 清水上さんは必死に防戦。▲2四角成と馬を作って上部を厚くする。これで受けきったようにも見えるが、△8七角(第4図)が確実に攻めをつなぐ好手だった。清水上さんは終局後、「角を打たれて分からなくなった」と話した。時間を使い切り、秒読みに追われて指した▲9五歩は迷った末の着手だ。後手玉は横からの攻めに強い美濃囲い。端から攻めたくなるところで、その感覚は正しいことが多い。だがこの場合は悪手だった。

■清水上さん、粘りを逸す

 第4図では▲1五歩が正着だった。以下△6九角成▲1四歩△6八金▲4八飛△5九馬▲4九香△4八馬▲同香△4九飛は▲1三歩成△4八飛成▲4四桂くらいでいい。加藤九段も「先手は右辺だけの戦いに没頭すれば十分。後手の飛車を攻めながら入玉を見せればよかった」と話した。

 本譜は飛車を9筋に逃げたあとに▲1五歩と突いたが、△9六歩(第5図)と突き出され、先の▲9五歩を逆用される形になって先手が忙しくなった。清水上さんはここで▲6四歩と取り込んだが、これも緩手。第5図では△1三歩成とし、以下△9七歩成▲5八飛△9九馬▲2三と△5一飛▲6四歩△4四馬▲3七香のように進めれば手厚かった。

 実戦は第5図以下、▲6四歩△9七歩成▲5八飛△9九馬▲1三歩成△4四馬▲4六歩△2五歩▲同馬△3三桂と進み、後手の攻めが切れなくなった。途中△4四馬の時に▲2三とと寄れればいいが、△2六馬(▲同銀は△1九飛成▲同玉△2七銀、▲1一香成は△1九銀▲同玉△2七馬でいずれも受けなし)がある。△4四馬と引かれてから▲2三とでは遅いのだ。

■早咲さんが攻めきる

 第6図の△3六銀で先手の入玉の望みはほぼ絶たれた。清水上さんは▲2七香と粘ったが、△1八歩▲2五銀△同銀▲同香△1九歩成で、やはり後手の攻めは切れない。△4六銀打と王手をかけられたところで、清水上さんは「負けました」と投了を告げた。終了図で▲4八玉と逃げれば先手玉に詰みはないが、△2九とで一手一手だ。早咲さんは「途中、いけるかと思ったが、簡単ではなかった。勝ちだと思ったのは最後の方です」。清水上さんは「途中の形勢判断を間違えた。実際よりもいいと思ってしまった」と対局を振り返った。

 勝った早咲さんは初の名人位にあと1勝。局後、「いいスタートを切れた。ただ将棋の調子は1日で変わるので、次も精いっぱい頑張るだけです」と、翌日の第2局に向けて気を引き締めた。一方、清水上さんは「昨年も初戦で負けたので今回は勝ちたかった。でも前回の経験(1敗後に2連勝)があるので、まだこれからという感じです」。2年連続の逆転を狙う意気込みを感じた。

(村上耕司)

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