現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 将棋
  4. 朝日杯将棋オープン戦観戦記
  5. 記事

<  第4回朝日杯オープン戦第1局  >
1次予選1回戦 ▲清水上徹アマ―△田中悠一四段

プロアマ戦の大将戦

対局日:2010年7月3日

第1図拡大  

第2図拡大  

第3図拡大  

第4図拡大  

第5図拡大  

第6図拡大  

終了図拡大  

■初戦で負けなしの朝日アマ名人

 2001年の第20回朝日オープン選手権から始まったプロアマ戦10局の一斉対局は、今回の朝日杯で10回目を数える。清水上(しみずがみ)徹・朝日アマ名人は、このプロアマ戦で5回目の出場となる。過去4回はすべて1回戦を勝っており、特に昨年はアマチュアとして初めての1次予選通過を果たして大きなニュースとなった。記者は2年前の第2回朝日杯の一斉対局で戸辺誠四段(現六段)との将棋を観戦したが、対局前から場の雰囲気で相手を圧倒していたことを覚えている。それはすさまじい迫力だった。

 現在はプレーヤーとしてだけでなく、普及にも力を入れている。2年ほど前から、月2回のペースで仲間と将棋子ども教室を開いている。「団体戦の大会に、教室の小学生と一緒に出た」と話す声は明るい。振り飛車党で粘り強い棋風だ。

 一方、田中は木下浩一六段以来、20年ぶりの長野県出身の棋士だ。地元ファンの期待は大きい。朝日杯は三段時代に第1回の一斉対局で記録係を務めた。丁寧な仕事ぶりが記者の印象に残っている。棋士になってからは、2年連続で1次予選を通過した。今回は棋士の中では唯一、3年連続プロアマ戦出場となった。対アマ戦は他棋戦を含めて3戦全勝と、ストッパー役をきっちり果たしている。振り飛車党で、玉から離れている金銀を近づけていくのがうまいという印象がある。

■相振り飛車に

 アマ側とプロ側の大将戦のおもむきがある本局は、駆け引きの末に相振り飛車となった(第1図)。ともに振り飛車党なので、予想された戦型だ。ただし、9筋の突き合いが入ったことで、将来先手からの端攻めがあることは注意。後手の田中は、持久戦よりも急戦を狙って駒組みを進めるのが基本戦略となる。コンパクトに美濃囲いに囲い、3筋の歩を交換したのもその路線に沿ったものだ。

 清水上アマは美濃囲いから矢倉に組み替えて、持久戦を目指す。互いに腰掛け銀にして無難な序盤戦に見えたが……。

■菅井流の仕掛け

 何の変哲もないように見える第2図だが、田中は△4五歩▲同歩△6五歩といきなり戦いをふっかけた。この仕掛けは菅井竜也四段が考案したもので、プロの間ではよく知られている。一斉対局の解説を務めた戸辺六段の著書にも、菅井流は触れられていた。田中も「研究会で似た筋を指したことがある」と言う。「仕掛けられると思っていなかった」と清水上アマ。9筋の歩の突き合いがない形では、2009年に▲羽生善治名人―△久保利明棋王戦が指されていた。

 △6五歩に(1)▲4六銀△6六歩▲6七歩という展開もあったが、清水上アマは(2)▲6五同歩△7七角成▲同桂と進めた。次の△2二角(第3図)に▲8七飛は△5五銀、▲8六角は△8四歩(▲同歩は△8五歩)が気になる。本譜の▲5九角は、形が悪いものの、攻めを受け止めて長い将棋に持ち込もうという手だ。

■左右挟撃

 ▲4四銀(第4図)に△3七角成▲同桂△2八銀が強手だった。△3七角成に▲同金でも△2八銀だ。「意外と受けにくいと思った」と田中。清水上アマは▲3八歩と受けたが、▲1六角も有力だった。以下△2四飛▲6四歩△3四歩▲6五桂△1五銀▲5三桂成が一例だが、先手も十分に戦えた。本譜は少々受けに偏った面がある。▲3八歩に△6六歩が軽手で、田中は左右から先手玉を攻めるメドがついた。

■利かしのつもりが

 第5図は田中が△2八銀成と挟み撃ちを目指したところだ。残り時間は清水上5分、田中1分。ここで清水上アマは▲8四歩と突き出した。△同歩なら▲5三桂成以下の攻め合いで▲8三歩が生じるのが大きい。しかし、田中が残り時間を目いっぱいに使って指した△8五香が妙手だった。清水上アマは思わず身を乗り出す。やむを得ない▲8五同飛に△4四飛が△5八銀成以下の詰めろとなり、形勢は後手に傾いた。

 戻って第5図では、すぐに▲5三桂成とすべきだった。以下△同金▲同銀成△6四飛▲6五歩△同飛▲4三角が進行例で、まだまだ難しかった。「▲5三桂成とされたら、よく分からなかった」と田中。「▲8四歩が大悪手。△8五香が全然見えていなかった」と清水上アマは悔やんだ。

■清水上アマ投了

 清水上アマは第6図まで手段を尽くして必死に攻める。次に▲8四銀と出られれば面白いが、△5八と▲同玉△8七金と飛車を捕獲したのが決め手。飛車を取れば、後手に怖いところがない。

 田中は以下も丁寧な指し回しで、付け入るスキを与えなかった。98手目△8三歩を見て清水上アマが投了。終了図は攻防ともに見込みはない。清水上アマは「守りの手が多く、勢いがなかった。これまでアマプロ戦では、相手が独特の雰囲気に押されたところがあったが、(田中四段は)堂々とされていた」と振り返った。田中は「3年連続で結果を出せて良かった」とホッとした様子だった。

■打ち上げ後の練習将棋

 打ち上げの席で清水上アマは、午後に対局した菅井竜也四段に練習将棋を誘われた。帰りの新幹線までの時間を使ってまで将棋を指す向上心は文句なしに素晴らしい。清水上アマも好奇心旺盛。「めったにない機会を逃す手はない」とすぐに応じた。

 場所を移しての練習将棋は4局指され、菅井四段がすべて勝った。記者は朝日アマ名人でも1日通して1局も勝てない日があるのかと、驚きながら見ていたが、清水上アマは「こんな日もあるさ」という風に、普段通りに感想戦を行っていた。

 新幹線の時間が来て、菅井四段と別れると、清水上アマは「強いなぁ」と感嘆の声を上げた。プロ棋士に対する敬意がこもっていた。

(君島俊介)

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介