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<  第4回朝日杯オープン戦第2局  >
1次予選1回戦 ▲牧野光則四段―△早咲誠和アマ

反撃かわし、プロ快勝

対局日:2010年7月3日

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■トップアマ・早咲誠和登場

 4回目を迎える朝日杯オープン戦のプロアマ戦。プロ公式戦では最も多いアマチュア枠(10人)が設けられており、朝日アマ名人の他に朝日アマ名人戦ベスト8、学生名人が出場できる。誰でも出場のチャンスがあり、アマチュアには夢のある棋戦だ。

 ここで紹介する早咲誠和アマはプロアマ戦の常連。朝日杯こそ2回目の出場(前身の第23回朝日オープン選手権でも日本将棋連盟推薦枠で出場)だが、これは大学職員という仕事柄、3月に行われる朝日アマ名人戦になかなか出場できないことが原因。公式戦では通算5勝(15敗)の成績を残している。本局が行われる1週間前にも、アマ竜王戦全国大会で優勝した。

 多忙の身だが「朝日杯のために準備はしてきたし、自分なりにやれることはやったつもりです」と早咲アマ。朝日杯は持ち時間各40分でプロアマ戦は公開される。アマチュア向きの環境で期待がもてる。

 牧野光則四段は第46回三段リーグで2位になり、今年4月にプロ棋士になった新人。身長は180cm近くあり、文字通りの大型新人だが、デビュー戦(棋聖戦・藤原直哉六段戦)、2戦目(順位戦・稲葉陽四段戦)に敗れ、いまだ公式戦勝利がない。

■横歩取りに

 本局は関西将棋会館で7月3日(土)午前10時からの対局。東京と大阪で午前と午後に分かれて指された10局のうち、大阪で午前中にあったのは本局のみ。別室では脇謙二八段と稲葉陽四段による大盤解説会も開かれた。

 対局開始時は外が強い雨だったこともあり、牧野がゆっくりと初手▲7六歩を指すのを見守ったのはわずかに5人。早咲アマはアマ大会で見せる対局姿勢と同じく、じっくりと気息を整えてから△3四歩と突いた。

 第1図、戦型は横歩取りになった。牧野は居飛車党。早咲アマは居飛車が多いが飛車を振ることもあり、昨年の朝日杯(澤田真吾四段戦)も変則的な向かい飛車穴熊を指している。「横歩取りは意外でした」と牧野。第1図の△8四飛のところで△8五飛なら、牧野のデビュー2戦目と同じ局面だった。

■スターの趣向

 昨年4月に兵庫県で行われた支部名人戦・支部対抗戦西地区大会の会場では、早咲アマのもとに駆け寄ってあいさつする選手や、写真撮影をねだる小学生の姿が見受けられた。彼らも各府県の代表選手で棋力・実績ともに十分だが、早咲アマはプロに立ち向かうスターなのである。

 早咲アマが指した△8五飛(第2図)はプロの検討陣を驚かせた。今浮くのなら、なぜ第1図で△8五飛と指さないのだろう。

 その疑問に後日、早咲アマが答える。「実は1週間前にも指したんですよ」。アマ竜王戦の準々決勝(中川慧梧アマ戦)のことだ。「(第1図の)△8四飛のほうが安全に駒組みを進められるので、それから△8五飛と指したほうが手堅いと思いました。少し前から考えていた手です」。本局の進行は予定通りだった。

 「最近では△5二玉〜△4一玉と手損する将棋もありますが、似た構想でしょうか」と聞くと、「…いや、それは知らなかったんです。牧野四段と対局することになって彼の将棋は調べましたが、普段は江戸時代の棋譜ばかり並べています」と笑っていた。

■予定変更

 早咲アマは第2図の△8五飛に10分近く考えていたこともあり、38手目△8八角成から1分将棋になった。秒読みに追われる中、早咲アマは予定変更で△2五桂(第3図)と指した。しかしここでは当初の予定通り、△8八歩とたたいたほうがよかった。▲8八同銀ならばそこで△2五桂と跳ねていく。▲8八同金は△6五桂。先手は形を乱されて強い戦いができない。局後の早咲アマは「後手が攻めきるか、先手が受け切るかの将棋。歩切れになるのが気になりましたが、攻めをつなげていくべきでした」と悔やんでいた。

 第3図以降、△2五桂▲6六銀と進んだ。牧野は後手の飛車を抑え込む方針。少し進んだ△1四飛(52手目)の局面は後手がだいぶつらい。

 このころ、控室には午後に対局を行う大石直嗣四段、西川和宏四段がいた。東京会場で澤田真吾四段が勝った対局の投了図を見て、大石四段は「強いなあ」とポツリ。この後も東京からプロ勝ちの報が続々と入ってくる。もちろん、牧野も早咲アマも、そんな展開になっていることは知る由もない。

■一番の勉強法

 形勢不利の早咲アマだが、次から次へと小技を繰り出していく。第4図、△2七角の局面は△6五歩▲7七銀△3六角成▲同銀△5七金から迫る手もあってかなり怖い。

 だが、ここから牧野の真骨頂だった。▲6八玉の早逃げ。遅ればせながらの△8八歩には▲同金と堂々と取る。

 関西棋界ではここ数年、研究会と呼ばれる仲間内での練習対局が流行している。かつて「一番の勉強法」と言われた公式戦の記録係は敬遠されがちで、若手棋士の中には「記録係を務めたことがない。仮にやれと言われても、やり方がわからない」と言う者もいる。

 その中で牧野は、ひたすら記録係を務め続けた。周りがそんな調子だから牧野はほとんどの場合、希望した対局の記録をとることができ、トップ棋士と同じ空気を吸うことで実力をつけてきた。

 第5図の▲9二角は、牧野がトップの空気から学んだ一手と言えよう。検討陣は誰も気づかず、それでいて好手だった。▲9二角が指され、「先手変調」と言われてきた直前の数手もあっという間に高い評価に変わった。大盤解説の脇八段も「攻めて桂馬を渡してしまうと、△6五桂打があります。『攻めない』のがいい手でした」と評価した。次の▲7四角成で先手玉の上部は厚く、後手玉は一気に狭くなった。早咲アマも、これで困った。

■牧野、プロ初勝利

 第5図の▲9二角〜▲7四角成からは手数は長いが牧野が一方的に攻める展開になり、逆転の余地はない。105手目▲3四銀(終了図)までで早咲アマは投了した。牧野にとってはプロ初勝利である。

 感想戦のあとのインタビューで早咲アマは「毎年のようにプロアマ戦で対局させていただいているので、やりにくさは感じないです。(1勝2敗で奪取に失敗した)朝日アマ名人戦は残念でしたがこれで終わりではないので、また挑戦できるように頑張りたい」と語っていた。

(諏訪景子)

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