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<  第4回朝日杯オープン戦第4局  >
2次予選1回戦 ▲広瀬章人王位―△藤井猛九段

藤井、王位の穴熊を撃破

対局日:2010年11月5日

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 藤井は順位戦でA級に在籍しているため、2次予選からの参加。広瀬は9月に王位のタイトルを得たが、朝日杯の組み合わせが決まったのはそれより前。六段として1次予選に出場し、佐藤義則八段、佐藤慎一四段、島朗九段を破って勝ち上がってきた。本局は11月5日に行われた2次予選の1回戦である。

■居飛車対四間飛車の対抗形に

 藤井は四間飛車藤井システム、広瀬は四間飛車穴熊と、ともに棋界を代表する振り飛車の使い手だ。広瀬が先手となった本局はどんな戦型になるか注目されたが、広瀬の居飛車、藤井の四間飛車に落ち着いた。

 藤井が採用した角筋を止めない四間飛車は、最近急速に定跡の整備化が進んでいる形だ。少ないリスクで穴熊に囲え、相手は穴熊に組みにくいのが長所。手詰まり模様になっても、後手番ゆえ千日手は歓迎だ。

 広瀬の打った▲5六角(第1図)は、手詰まり模様を打開しようとした一着。3四の歩を狙うことで△3三銀と引かせ、一転して6筋から動いていく姿勢を示した。

 △3三銀以下は▲5五銀△6三金▲6五歩△同歩▲同角△4二銀▲6四歩と進み、広瀬が6筋に拠点を作った。だが、果たして角を手放しただけの成果が挙げられたかのかどうかは難しい。

 藤井が3筋から反撃した第2図は後手がチャンスを迎えている。

■踏み込みを欠く

 「第2図では△3六歩と打ちたかったのだが、踏み込めなかった」と局後の藤井。ここでは△3六歩と攻め合いに出れば後手優勢だったのだ。

 △3六歩と打てば▲2三歩△3二飛▲2四飛△3七歩成▲2二歩成△3五飛までは一本道。3七のと金が飛車の成り込みを邪魔しているため、藤井は面白くないと判断した。しかし△3五飛以下、▲4六銀△3六飛▲3二とに△4七とと幸便に活用する手があった。

 本譜、藤井は第2図で△1五角と打ったが、「粘りにいったような手だった」と藤井。チャンスを逃せばおかしくなってくるのが将棋の流れというもの。形勢は徐々に広瀬に傾いていく。

■広瀬に疑問手

 藤井の打った1五角は結局、先手の飛車と交換になったが、△3九飛と打ち込んだ第3図は、2七のと金の位置が悪く後手苦戦。先手の6四歩の拠点のほうが何倍も価値が高いのだ。

 しかし、ここで広瀬は間違えてしまう。本譜の▲1六香は働きのないと金を活用させる疑問手だった。藤井はすかさず△2六とと引いた。局後「この2手の交換はえらく得をした」と話した。

 正着は香を逃げずに▲3三歩成△同桂▲3四歩。実戦でも出た筋だが、ここで実行するのが一番効果的だった。以下△同飛成なら▲5三桂成で終わり。したがって△4五桂とするしかないが、▲同角から6〜7筋を狙っていけば先手大優勢。次の▲3六角打が鬼のように厳しい手になる。

 実戦の進行でもまだ先手が指せる形勢だったが、藤井が粘った。

■形勢逆転

 迎えた第4図。広瀬は終局後すぐに、ここでの次の一手を悔いた。本譜の▲6三角成は手順に角を活用する自然な手に映ったが、△6七馬と切られて逆転した。自玉だけ薄くされてしまい、穴熊の遠さが生きる展開になってしまった。

 ▲6三角成では手堅く▲5六銀打がまさった。以下△4四馬とするくらいだが、ガッチリ▲6六香と受けておけば問題ない。以下△5三馬なら▲2三とで飛車を召し捕り、△3三馬なら▲6三桂不成と7一の金を狙っていけばいい。

■藤井が寄せきる

 ただ「急に勝ちになってびっくりした」と面食らった藤井も、寄せでつまずいてしまう。第5図の△7八銀は「玉の腹から銀を打て」の格言通りだが、ここは△9七銀▲同玉△8九飛成のほうが明快。本譜は広瀬に勝負手を連発され、混乱してしまったようだ。感想戦で藤井は「おじさんは手が見えない。寄せは難しいな」と繰り返していた。

 とはいえ、相手に期待させておいてギリギリのところで踏みとどまるのも「おじさん」ならではの芸。第6図から△8五桂が「敵の打ちたいところに打て」の決め手となった。単に△7三銀では▲9二成銀△同玉▲9三香から▲8五桂の筋を狙われてしまう。

 広瀬は▲8六玉△7三銀(△7五金▲同歩△9七角からの詰めろ)に▲7五桂(△7五金を消す)と頑張ったものの、△8一香の下段香で万策尽きた。

 実は▲7五桂には、難解だが△9七角▲8五玉△8七竜▲8六歩△8四歩▲同成銀△9三桂の筋で詰みがあった。

 藤井は「最後のところ、詰みもあったかもしれないけど…」と前置きしたあとに「こういう終盤戦で、勝った側が正しい手順を追求するのは相手に失礼だから」と詳しく調べなかった。このあたりの気遣い、ダンディズムはいかにも藤井らしい。

 終了図で▲8三銀と打っても△同香▲同桂成△同金▲同香成△同玉で、先手玉には受けがない。

 後日、広瀬は本局を「私から見れば、ひどい逆転負けです」と振り返った。もっとも形勢が二転三転したのだから、どちらが勝っても相手にとっては「ひどい逆転負け」となるのだろう。

 持ち時間の少ない早指し戦ならではの華々しい一局だった。

(後藤元気)

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