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<  第4回朝日杯オープン戦第7局  >
2次予選決勝 ▲木村一基八段―△飯島栄治七段

木村、4年連続本戦へ

対局日:2010年11月4日

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 2次予選Cブロックの決勝は木村一基八段と飯島栄治七段の顔合わせとなった。

 木村の本年度の成績は本局まで6勝12敗。昨夏に棋聖戦と王位戦でタイトル挑戦に失敗して以降、調子は芳しくない。どちらもあと1勝でタイトル奪取だっただけに傷も大きいのだろう。それでも1回戦では木村らしい受けの強さを発揮して、遠山雄亮四段を破った。木村はこれまで朝日杯2次予選は負けなし。4年連続の本戦入りなるか、注目される。

 飯島は毎年高い勝率を挙げている。居飛車党で、鋭い攻めと粘り強い受けに特徴がある。1回戦の対豊川孝弘七段戦では、150手を超える長手数の将棋を制した。初の本戦進出を狙う。

 記録係は香川愛生4級。女流1級だった2009年、奨励会試験に合格し、初の女性棋士を目指している。規定により女流棋士は休会中だ。1回戦の豊川―飯島戦に引き続いて記録係を務めている。

 振り駒は歩が3枚出て木村の先手に決まり、対局が開始された。

■横歩取りへ

 本局は飯島の誘導で横歩取りとなった。ふたりの得意戦型であり、予想されたところ。過去の両者の対戦でも横歩取りになっている。

 第1図は互いに玉を立った局面。飯島は▲8七歩なら△8五飛から△5一金〜△6二銀とするつもりだったと言う。△5二玉と△8五飛の組み合わせは以前にも指されていたが、最近はタイトル戦でも現れるなど、流行の兆しを見せている。朝日杯では2次予選の▲村中秀史六段―△松尾歩七段戦で現れたので、ネット中継のページを参照していただきたい。

 木村はすぐに▲8七歩を受けずに▲3八金と突っ張った。飯島もそれに反発し、△8四飛から△2四飛と転換した。実戦らしい駆け引きだ。

■両者自信なし

 第2図は▲2六銀に△5五飛とかわしたところ。木村は▲5六飛と飛車をぶつけたが、これが飯島の意表を突いた。もっとも▲4六飛は、△2五歩▲1五銀△3三銀で先手は右銀を取られてしまう。本譜は△5六同飛▲同歩と飛車交換になったが、先手は玉頭が開いてしまったし、後手は自分だけ角を手放している。ここでは両者「自信を持てない」と口をそろえた。

■揺れ動く形勢

 木村の受け、飯島の攻めという棋風通りに進んだ第3図。木村は脇息(きょうそく)に左腕を置いて前傾姿勢。飯島は右手に持ったハンドタオルを口元に当てる。

 第3図から飯島は△1六香と走ってから△3八歩と垂らしたが、すぐに△3八歩とするべきだった。▲4八玉なら△3九歩成▲同玉と乱してから△1六香と走る方が良かった。本譜は香がいなくなったスキをついた▲1二角が厳しい。飯島は桂取りを受けるために△3一金としたが、後手の陣形がゆがんだ。形勢は先手に傾いた。

 しかし、1分将棋に入っていた木村も間違える。△3一金に▲1六歩と香を取り、△3九歩成には▲3二香と強攻したが、ここは▲4六香△2九と▲3四角成△3二金▲4四銀とすれば、以下△5一桂に▲4三銀成△同桂▲同香成△同金▲4四桂で寄っていた。△3一金と駒が下がっているため、上部からの攻めが効果的だった。

■後手優勢に

 実戦は、木村が△2九と〜△2八とを間に合わせないように急いで攻めたため、先手の攻めに切れ筋の懸念が生じた。第4図の▲4一金は、次に▲4二金△同玉▲3四桂以下の詰めろだが、△3三銀とかわされていたら、先手の攻めは続かなかった。飯島は△3一歩と打ってから△3三銀に気付いたそうで、対局中に深いため息をついた。

 △3二香(第5図)の局面で、飯島は▲3四桂△4一玉に▲2四銀とされて後手負けと観念していた。次に▲3三銀成で受けが利かない。木村は「▲3四桂は△4一玉で切れていると思ったから、▲2四銀は思い付きもしなかった」という。

 木村は▲3四銀としたが、△2九とが攻防手。局面は飯島の勝ち筋に入った。

■意表突いた桂打ち

 第6図は▲4一竜に△5一桂と合駒したところ。直前に△2九とで桂を補充した手が利いており、後手玉はわずかに寄らない。しかし、飯島は読み筋になかった▲9五桂に意表を突かれて思考が混乱してしまった。

 秒に追われて打った△6九角が敗着。飯島は▲6九同玉に△2八とのつもりだったが、▲5八玉と上がられる手をうっかりしていた。大駒を渡しての見落としは致命傷だ。

 とっさに△4七角成と成り込んだものの、玉が8八まで逃げ込まれてはいけない。先手陣は右辺上部が広く、△6九馬が詰めろにならない。最後は木村が着実に寄せ切った。

 終局後、ぼうぜんとしていた飯島は▲9五桂に対する正着に気付く。△4七角成の妙手があった。▲同玉は△1四角の王手飛車取りで後手勝ち筋だ。8三の角を狙う▲9五桂は、△4七角成を促すような「お手伝い」だったわけだが、結果的に飯島の混乱を呼んだ勝因となった。

 飯島は「(△4七角成に)何か手があることにしてもらった方がいいのですが……」。それならあきらめがつくというわけだ。木村は困った表情で「うーん、手が無いものは無いねえ。こちらの負けだよ」。

 飯島は「ああ、何をやっているんだ。(第6図で)▲5二香に△4七角成は読んでいたのに。馬鹿だなぁ」。最後まで嘆きは止まらなかった。

(君島俊介)

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