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<  第4回朝日杯オープン戦第10局  >
2次予選決勝 ▲村田顕弘四段―△矢倉規広六段

1次予選から唯一の本戦入り

対局日:2010年11月11日

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■会心のプロセス

 終了図は4一の飛車で▲1一飛成と香車を取ったところ。この局面で2分考えた矢倉規広六段は、次の手を指さずに投了した。先手からは次に▲9四香△9三桂▲6一竜と受け無しに追い込む狙いがあり、それを受けても▲6五桂と銀を取りながら馬の利きを通され、先手玉が寄らない。

 「結果的には快勝でした」。村田顕弘四段に後日改めて取材を行ったところ、こう答えてくれた。今回はこの終了図に向かう、会心のプロセスを見ていきたい。

■四間飛車対急戦

 11月11日午前10時から行われた2次予選の1回戦で、矢倉は糸谷哲郎五段を、村田は井上慶太八段を破った。▲矢倉―△糸谷戦は相入玉模様の179手の長手数で、矢倉が粘る糸谷を振り切った。▲村田―△井上戦は終始攻め続けた村田が押し切った。本局は同日午後2時から行われた2次予選の決勝戦だ。

 後手番の矢倉は四間飛車に構えた。△9五歩(第1図)は藤井システムを目指したもの。居飛車穴熊には有効だが、後手番で端歩を突き越したことで駒組みが遅れるリスクもある。村田はここで▲3六歩と突き、居玉の後手に急戦で向かう意思を示した。

■感触のいい一手

 この急戦について村田は「4〜5年前、まだ奨励会にいた頃に研究したことはあります。でももう忘れていました」と振り返る。だが、その対局姿は「全ての変化を調べ尽くしている、負けるわけがない」と語っているかのようだった。悩むことなく、すいすい指していく。そんな村田の早指しに、矢倉もつられてしまう。「悪い手なのかなぁと思いながら、つい指してしまった」という△3六歩(第2図)は、村田には予想外の一手だった。

 △3六歩では△4五歩もあった。以下▲3三角成△同銀▲3五銀△4四銀(参考1図)の進行が考えられる。6三歩が6四、9五歩が9四にある形なら実戦例が何局かある。また△4五歩に▲3五銀△3四歩▲同銀△4六歩は振り飛車良しとなる。

 本局は数手後の▲5五歩(第3図)が感触のいい手。角交換を防ぎ、後手の角を目標に抑え込みを図る。後手はさばけなければ、棒銀の活躍を指をくわえて見ているしかない。

■慎重な指し回し

 第3図からは、△4三銀▲2四歩△同歩▲同銀△4四角▲3六飛△3四歩▲3五歩と進んだ。このあたりの村田の慎重な指し回しに注目したい。後手にさばかせないこと、自身の駒は前に進むこと。二つのポイントをしっかりと押さえた見本になる手順が続く。

 最後の▲3五歩で▲2三銀成を急ぐと△2八歩がある。桂香を拾われてしまうと△1七角成が生じ、危険だ。▲3五歩に続く△2二飛の銀取りを▲2三歩と受けるのは、△3二飛〜△3五歩でさばかれる。本譜の▲2六飛が安全だ。村田は無理のない、自然な手を続けている。矢倉は深い前傾姿勢を取って模索していたが、終始自信がなかったようだ。

■ギアチェンジ

 村田が「よくなった」と感じたのは第4図の▲2二歩。以下△4六歩▲同歩△3五角▲2一歩成の進行は先手が十分だ。本譜の手順を「いい勝負」と思っていたところに矢倉の誤算があった。

 第4図では△3三桂が勝った。これには▲5四歩△8八角成▲同銀△3五角▲2八飛△4四角の展開が考えられる。以下(1)▲3八飛△3四銀▲2四成銀△3五銀▲3四成銀△5四歩▲3五成銀△同角▲3六飛△3四歩の展開は、次の△2二飛が残って先手不満だ。また(2)▲7七角△同角成▲同銀△5五角▲2四飛△5四銀▲3四飛△4三金▲3六飛△3五歩▲2六飛△1九角成▲2四飛(参考2図)ならば、次の▲3四歩があって先手優勢ではあるが、一方的になった本譜よりは後手も戦えた。

 本譜▲2一歩成のあとは、▲5四歩(53手目)〜▲4五桂〜▲3一とが厳しい。低速から高速にギアチェンジした先手が一方的に寄せ形を築いた。

 差が開いたこともあって終盤は淡々と進み、儀式のように終局へ向かった。矢倉にとっては力が出し切れなかった、不完全燃焼の一局だった。

■次のステージへ

 本局に勝った村田は、初の本戦トーナメント進出を果たした。今回は唯一の1次予選からの勝ち残りというおまけもついている。

 快勝の将棋を解説しても表情は緩まない。どんなに勝っても、また次の戦いが待ち受けている。負けることはつらく、勝ってもおごってはいけない。プロ棋士になった以上はそれが宿命だが、厳しい世界であることを再認識させられた。

 村田は本戦トーナメント1回戦で久保利明棋王・王将と対戦する。「久保先生は『さばき』のイメージがありますが、平べったい形から粘るのがうまい、終盤力のある振り飛車だと思います。なかなかタイトルホルダーと対局する機会がないので、力を出し切れるように頑張りたい」と抱負を語った。

 本局が指されてからしばらくして、豊島将之六段が王将戦七番勝負の挑戦者になった。村田と奨励会同期入会の豊島六段と、昨年度のNHK杯準優勝の糸谷哲郎五段、デビュー年に棋聖戦挑戦者決定戦まで勝ち進んだ稲葉陽四段、そして村田は「関西若手四天王」と称されている。いや、称されていたというべきか。村田は業界内で高い評価を受けているものの、目に見えた実績は残せていない。

 取材の最後に「豊島六段に離されたのでは?」と意地悪な質問をしてみた。失礼な問いかけにもかかわらず「離されたようには見えますが、直接負けたわけではない。気にしていません」。きっぱりと村田は答えた。今回の朝日杯が村田の成長のステージになっていくだろう。

(諏訪景子)

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