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<  第4回朝日杯オープン戦第11局  >
2次予選決勝 ▲佐藤康光九段―△田中悠一四段

佐藤康、貫禄の勝利

対局日:2010年11月8日

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■両者得意な形。

 1次予選から勝ち上がってきた田中と、初めて本棋戦の2次予選を指す佐藤の対戦。

 佐藤は、昨年度にA級から降級したため、2次予選からの出場。棋士になって初めて年度内成績で負け越して、不調説もささやかれたが、本年度はそれを吹き飛ばすような勢いで高い勝率を挙げている。

 田中は本棋戦とは相性が良く、初めて出場した第2回から3年連続で1次予選を通過している。2次予選では上位棋士の壁に阻まれているが、三度目の正直となるか。2次予選1回戦では鈴木大介八段を破っている。

 本局は、後手番の田中が得意のゴキゲン中飛車を採用した。プロデビュー戦から愛用している戦法だ。

 佐藤は▲2二角成と「丸山ワクチン」で対抗した。続く第1図の▲9六歩は2005年の第23回朝日オープン選手権戦の準々決勝、▲佐藤―△山崎隆之六段(当時)戦で佐藤が初めて指した手。両者、得意な形となった。佐藤将棋は他人にはまねしにくいといわれることもあるが、この端歩突きは、いまも有力な作戦として指されている。

 ▲9六歩以下、実戦は△9四歩▲7八銀△6二玉▲4八銀△7二玉と進んだが、△7二玉ではなく△5五歩と突くと、▲6五角△4二金▲8三角成△8八角に▲9七香。この香車の逃げ場を作ったのが▲9六歩の意味だ。

■工夫の駒組み

 佐藤が奨励会に入った1982年度は、同期に羽生善治名人、森内俊之九段、郷田真隆九段ら、そうそうたるメンバーがそろっていることは知られている。田中が奨励会入りした98年入会組にも、広瀬章人王位、糸谷哲郎五段、佐藤天彦五段と3人の新人王経験者がおり、ほかにも戸辺誠六段をはじめ、期待の新鋭がいる。9月に広瀬王位がタイトルを獲得したばかりで、同期のライバルたちは「次は自分の番」とチャンスを狙っていることだろう。こちらも今後、一大勢力を張れるかどうか興味深いところだ。

 第2図の▲3八金が佐藤予定の作戦。しっかり2筋を守って駒組みを進める。玉をガチガチに固める現代将棋とは違う指し方だ。

 本局の数日前に発売された専門誌の非公式戦で、佐藤は里見香奈女流三冠にこの作戦を用いている。「里見さんとの将棋であまりにうまくいったので採用してみた」と佐藤。タイムリーな時期だけに、ネット中継をご覧になった方は、「あっ」と驚いたことだろう。

 後手番だった里見三冠は▲7五歩と位を取られて作戦負けに陥ったが、田中は銀冠に組んだ後、△7四歩から△7三桂と上部を厚くした。

■田中ペースに

 第3図は駒組みが飽和状態に近い局面。先手陣は第2図では奇異な印象もあったが、第3図は左右反転させてみると、右玉で現れそうな形になっている。ユニークかつ理論的な指し回しといえるだろう。2筋を押し込んでいるので、後手からは手が出しにくい。

 ただ、手詰まりによる千日手は先手としてはつまらない。第3図から佐藤は▲8九飛と飛車を転回し、桂交換から打開のきっかけをつかもうとした。

 田中が左金を玉に近づけた第4図は先手にとって手の広い局面。ここで(1)▲1五歩は△同歩▲1二歩△同香▲1一角△4二飛▲2四歩に△1六歩の反撃で先手自信なし。また(2)▲3一角も△3二飛▲5三角成△同金▲2四歩△同歩▲同飛△2二歩▲2三歩△3三角で後手が指せる。

 第4図では(3)▲3五歩が良かった。△同歩には▲2四歩△同歩▲3四桂で△2三飛や△3二飛に▲4一角で攻めが続く。これなら先手が指しやすかったようだ。局後、佐藤が指摘した順だ。

 実戦は(4)▲5七玉から玉を遷都させようとしたが、△4三桂から△5五歩と攻めのきっかけを作られ、田中ペースとなった。

■重大な指し過ぎ

 第5図は2五に突き出された歩を▲2五同桂と取ったところだ。次に▲2三歩から2二飛の捕獲を狙っている。ただ佐藤は「▲2五同桂では自信がない」と振り返る。

 ところが第5図から田中の△5六歩が重大な指し過ぎだった。何げないところだが、5筋の歩が切れたために▲5二歩からと金を作られ、後手は飛車が使えなくなった。形勢は少しずつ先手に傾いていった。第5図では、単に△6三金左がまさった。以下▲2三歩△6二飛▲3一馬△6一飛▲3二馬△5四銀と進めば、本譜よりも先手の攻めは遠かった。

■冷静な決め手

 佐藤は好きな駒に桂を挙げている。桂が好きな棋士としては、中原誠十六世名人がよく知られているが、攻撃的な棋風に桂はあっているのだろう。第6図から▲6七桂△6六角成▲5五桂△2六銀▲2八玉△5五馬▲6七桂△6五馬▲7五桂打と桂3枚による攻めが決まり、後手陣が一気に切り崩された。後手は桂を持っていても受けに使えないのがつらい。

 田中は必死に抵抗したが、佐藤は冷静に読み切っていた。▲8二銀(終了図)以下は△同金▲同竜△同玉▲7二金△9三玉▲8三金△同玉▲7三馬△9三玉▲8二馬まで。

 3年連続2次予選進出の田中だったが、残念ながら今回も大きな壁に阻まれた。

 佐藤は貫禄の勝利。本戦でも独創的な将棋が見られそうだ。

(君島俊介)

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