現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 将棋
  4. 朝日杯将棋オープン戦観戦記
  5. 記事

<  第4回朝日杯オープン戦第12局  >
本戦1回戦 ▲阿久津主税七段―△行方尚史八段

阿久津、覇者決戦制す

対局日:2010年12月20日

第1図拡大  

第2図拡大  

第3図拡大  

第4図拡大  

第5図拡大  

第6図拡大  

終了図拡大  

■粘りと切れ味

 第1回朝日杯覇者の行方と第2回覇者の阿久津が顔を合わせた。

 行方は驚異的な粘り強さ、阿久津は極上の切れ味が武器。より持ち味が出る展開に持ち込むことが、勝利への近道になる。過去の対戦は両者3勝ずつと伯仲しており、本局も手に汗握る熱戦が展開された。

■行方の早仕掛け

 先手番となった阿久津が三間飛車に振り、互いに満足に玉を囲わないまま駒がぶつかった。第1図の△6五歩は一見すると早い仕掛けのようだが、「▲1六歩が早いと見て仕掛けてきたのでしょう」と阿久津。

 先後の違いはあるが、第1図の仕掛けは将棋世界11月号の付録で、「対後手三間飛車いきなり早仕掛け」として特集されていた形。アマ棋界でも熱心に研究されており、仙台の強豪加部康晴さんの名前をとって加部流とも呼ばれている。

 第1図からは▲6五同歩△7七角成▲同銀△4五角と進み、華々しい戦いとなった。

■阿久津作戦勝ち

 行方は馬を作って自陣に引き付け、淡々と玉形を整えていく。盤側からは陣形の偏りが気になって仕方ないが、両対局者は不思議と気にするそぶりを見せない。

 第2図は、阿久津が▲8六歩△同歩▲8四歩と動いた場面。次に先手が▲8六飛と走れば8筋の飛車先突破が受からず大差になる。ここで行方はバシッと△5六馬と切り飛ばし、△8七銀と打ち込んだ。この筋があるから落ち着いて玉を囲っていたのだ。ここまでの流れをふたりはどう見ていたか。

 行方は「馬を作ってまずまずかと思いましたが、阿久津さんが7七の銀を6八から6七へと繰り替えた順がうまかった。馬切りは他にないので仕方ない」。阿久津は「序盤は模様よしと見ていましたが、馬を作られていて実戦的には大変かもしれない。第2図の馬切りのあたりは、相手の攻めが重いのでさすがに指せるかと」。

 △8七銀以下は▲8九飛△7六銀成▲3九角△6六歩と進んだ。行方が阿久津の大駒を抑え込めるかどうかが焦点だ。

■盛り返す行方

 第3図は行方が駒損を甘受して6七にと金を作ったところ。形勢は角得の先手が有利だが、悠長なことをしていると駒をボロボロと取り返されてしまう。「ここで気の利いた手があれば、一気に差を広げることができると見ていました。それで本譜は▲7五角と出て▲4三角成△同銀▲5三角成を狙ったのですが、▲7五角に△5四歩と辛抱されて次が難しくなりました」と阿久津。続けて「イモっぽいですけど、第2図からは、こういう方がよかったですか」と、駒台の銀を7二に置いた。△6二飛なら▲4三角成△同銀▲6三金。△6四飛にはそこで▲7五角と飛車取りに出れば先手良しだ。

 実戦の進行は、6七のと金が△6六と〜△7六と〜△7五と〜△6六と〜△5六とと、縦横無尽の大活躍。先手が飛車と桂を取っている間に、角2枚と金1枚を取ってしまった。当然ながら、形勢も後手が盛り返している。

■馬切りと金打ち

 第2図から第3図のあたりでは、「形すら作らせてもらえないかもしれない」と気を落としていた行方だったが、第4図を迎えたところでは、その目に強い光を宿していた。記録係に秒を読まれながら肩をビクンと揺らし、敵陣に体ごと飛び込むようにして△4九馬。これが強烈な一手だった。対して▲4九同銀は△3六歩が厳しい。

 阿久津はサッと▲同飛と取って、後手玉をにらみつけた。これでも△3六歩なら、▲3四桂△同金▲3一銀△同玉▲5二成桂から殺到して勝負だ。行方もその筋に気付いたのだろう。視線を敵玉から自玉に移し、大事なものを抱え込むように△2一金と打ちつけた。

 たとえるなら、こうだ。ロックンローラーがライブ中に興奮して客席に飛び込む(△4九馬)。もみくちゃになりながらステージを振り返れば、何者かが大切なギター(自玉)を持ち去ろうとしている(▲3四桂以下の攻め)。慌ててステージに戻り、「このギターは渡さん」と叫んで抱え込む(△2一金)。△4九馬▲同飛△2一金という非常に振り幅の大きい3手一組の中に、行方の行方らしさが凝縮している。形勢は、はっきりと後手優勢になった。

■行方、決め手逃す

 進んで、△5一銀と打った第5図は後手勝勢になっている。阿久津の駒台には桂と歩しかなく、受けに回っても仕方ない場面。そのまま行方が押し切るかに思われたが、この将棋はそう簡単には終わらなかった。

 第5図から▲5二角成△同銀▲2五桂。行方はこの桂打ちを見て頭を抱えた。▲5二角成に△同銀と応じたのが緩手で、代えて△2五桂(△3七桂成からの詰めろ)と先着すれば明快だったのだ。

 阿久津の▲2五桂は「敵の打ちたいところに打て」の勝負手。形勢はまだ後手に分があるものの、盤上に不穏な空気が漂ってきた。

■阿久津逆転勝ち

 阿久津の勝負手▲2五桂から、△同歩▲2二金△同金▲1一竜と進んだ第6図。行方はここから、坂を転げ落ちるように敗北へと向かってしまう。△2一金▲2二桂成△2四玉▲2一竜。これで逆転した。後日、「とにかく▲2五桂に△同歩と取ったのがおかしかった。▲2五桂には△5八角とすれば、はっきりしていました。受けに回る方針は正しかったのだが……」と行方。その後も△2一金では△3四金と桂を外しておけば良く、また▲2二桂成のときに△同金▲2四香△同玉▲2二竜△2三角でも残していた。

 行方は「本譜の△2四玉は、▲2一竜をうっかりしていた。△同銀は▲2三金△3五玉▲3六香で詰んでしまう」と嘆く。

 その後も懸命に上部脱出を試みたが、わずかに及ばず。終了図から△3三同金は▲同成桂△同玉▲3四金△4二玉▲3三角△5三玉▲4四角成以下、追っていけば詰む。

 「悲しい」。感想戦の最後に、行方はそう言い残して去っていった。

(後藤元気)

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介