現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 将棋
  4. 朝日杯将棋オープン戦観戦記
  5. 記事

<  第4回朝日杯オープン戦第13局  >
本戦1回戦 ▲羽生善治名人―△三浦弘行八段

羽生、2連覇に向け好発進

対局日:2010年12月20日

第1図拡大  

第2図拡大  

第3図拡大  

第4図拡大  

第5図拡大  

第6図拡大  

終了図拡大  

■空中戦に

 朝日杯連覇を目指す羽生が登場した。対戦相手は三浦。二人の対戦では、4月から5月にかけて行われた第68期名人戦が記憶に新しい。

 対局室に羽生、三浦の順に入る。羽生の表情は硬く、疲れているように見えた。第23期竜王戦七番勝負の終了直後に行われた本局。渡辺竜王に挑戦して敗れた激闘の跡が生々しく残っているようだった。

 対局は羽生の先手で始まり、横歩取りに進んだ。二人の対戦では横歩取りが多く、多くの定跡が生み出されている。ただし本局の△8四飛から△5二玉(第1図)は珍しい。いわゆる「空中戦」。内藤国雄九段が得意にしていたことで知られ、十数年前まで流行していた。現在では△8五飛から△4一玉と進める指し方が主流だ。

 羽生も中住まいに構え、定跡通りに速いペースで進む。

■三浦用意の作戦

 横歩取りの中でも「空中戦」は方針の立て方が難しい。羽生は飛車や桂の機動力を重視し、三浦は相手の手を殺すように指し進める。

 第2図は三浦が3四にいた銀を2三に引いた局面。2手損だが、これが三浦の用意してきた作戦だった。▲3七桂と跳ねさせたことで、△2四飛に▲3七銀と受けられないようにしている。「詳しく研究したわけではないが、前例は千日手になった」と話す。その前例(第53期B級2組順位戦▲井上慶太六段―△浦野真彦六段戦)では、第2図以下▲6六飛△2四飛▲7五歩△2六歩と進んで、後手の主張が通った。

 近年の羽生語録に「将棋の手はほとんどが悪手」というものがある。羽生は▲3七桂を悪手にしてはいけない。持ち時間の少ない中で、難しい課題が出された。前傾姿勢になって盤上を見据える。

■羽生ペースに

 羽生は第2図で10分ほど熟考して▲7五歩を決断した。△同飛▲8六飛に△8三歩なら▲5六角△6四角(△3五歩▲同歩△3六歩や7五飛が動いたときに8六飛に当たる含み)▲8三角成△8五歩▲同飛△同飛▲7二馬△8四飛▲8五金が変化の一例で、飛車を取り返して先手良し。三浦は△8二歩と低く受けたが、やはり▲5六角(第3図)が好点の角打ちとなった。

 ぼんやりした手だが、次に▲9五歩△同歩▲9二歩の端攻めが利けば先手良し。これを防いで△7四歩や△7四角と角の利きを止めようとすれば、▲2三角成△同金▲6六銀で、後手は飛車を取られてしまう。また、△3五歩▲同歩△同飛も▲3六歩△同飛▲2三角成がある。

 ▲5六角を打たれて三浦は忙しくなった。△6四角と打ったが、▲8五飛△7六飛▲6六歩△同飛▲6七銀△5六飛▲同歩と飛角交換になって先手十分だ。後手陣に▲2一飛と打ち込まれるキズがあるのが大きい。三浦は「先手の打開は成功している。こちらは自信がない」と言う。

■最善を尽くした頑張り

 局面は羽生ペース。だが三浦も最善を尽くす。第4図で△3一歩は▲1一飛成△7三桂▲3五飛で後手自信なし。三浦が指した△7三桂がギリギリの一手だ。▲3五飛なら△3四歩があるし、▲8四飛も△8三金▲8六飛△3一歩で、後手からは次に△8六角▲同歩△2六歩▲同歩△2九飛(あるいは△8九飛)があって難しい。羽生は飛車取りに構わず▲6五歩。以下△8五桂▲6四歩△7七桂成▲6一角と直線的に攻め合った。王者らしい踏み込みと感じた。

 第5図の△3一飛は▲4一金以下の詰めろを受けた頑強な一手だ。だが、ここでは▲5二金△同玉▲6三歩成△4一玉(△同銀は▲3一飛成〜▲6二飛)▲2三飛成△同金▲4四桂△同歩▲4三銀△4二金▲6一馬△6三銀▲4二銀成△同玉▲4三金△4一玉▲6二馬という手順で後手玉は寄っていた。感想戦後、三浦が見つけたものだ。

 羽生は▲3一同飛成△同玉▲6二馬(第6図)と進めた。これは駒得して自然だが、後手玉を安全にしてしまった意味もある。

■目指す場所

 感想戦では、第6図で△8八飛▲4九玉△5八角▲3九玉△6七角成と駒を補充しておけば、後手が勝っていたという結論だった。

 本譜の△7五桂は金を狙ったものだが、詰めろになっていない。▲5三馬に△4二銀だと、▲7一飛が厳しい。三浦は△2二玉と逃げたが、羽生が詰めろを続けて正確に寄せ切った。終了図以下は△3二同銀▲同金△同玉▲4一銀△2三玉に▲3二銀打△1二玉▲2三金で詰み。また△1二玉と逃げても▲2二金打△1三玉▲2三金△同玉▲2四銀△同玉▲3五馬以下の詰みだ。

 三浦は感想戦終了後、記者に対してあらためて2時間以上解説をしてくれた。終盤の変化を考えるときには、腕を組んで天を見上げる、対局中に見せるポーズが出た。最後に三浦が「終盤、難しかったですか?」と記者に尋ねた。その口調に、これくらいは実戦で読み切らなければ、という思いがにじみ出ていた。三浦が目指している場所は、もっと上にあるのだろう。

 さらに後日、三浦から「(第6図から)△8八飛以下の変化で△6七角成に▲5三馬△4二銀▲1三桂とすれば先手勝ちではないかと金井恒太五段から指摘があった」と連絡を受けた。▲1三桂に(1)△5三銀は▲2一飛△4二玉▲6三歩成で受けなし。以下△4五桂(▲同桂なら△4九馬からトン死)には▲5一飛成から詰み。(2)△同香は▲6一飛△5一歩▲同飛成△4一金▲2二銀△同玉▲4一竜△3一金▲4二馬△4一金▲3三馬△同玉▲4五桂以下詰み、(3)△1二銀は▲6一飛△5一歩▲2三銀△同銀▲5一飛成△2二玉▲2一桂成△1三玉▲4二竜で受けなし。いずれの変化も先手勝ちが結論だ。先手に最善を尽くされると、後手にチャンスがなかったことになる。

(君島俊介)

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介