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<  第4回朝日杯オープン戦第16局  >
本戦1回戦 ▲佐藤康光九段―△佐藤和俊五段

今年も佐藤和俊が来た

対局日:2010年12月21日

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■棋戦の相性

 不思議なもので、棋士には棋戦ごとの相性の良さがある。すぐに思い浮かぶのは渡辺明竜王の竜王戦、森内俊之九段の名人戦や順位戦、そして佐藤和俊五段の朝日杯将棋オープン戦だ。持ち時間など条件面の影響もあるだろうが、見ている側は「それにしても強い」と、うならされてしまう。

 第4回本戦トーナメントが始まるまでの佐藤和の朝日杯通算成績は12勝3敗。ちなみに第3回覇者の羽生善治名人は7勝2敗、第2回覇者の阿久津主税七段は6勝2敗、初代覇者の行方尚史八段は9勝2敗となっており、優勝経験者と互角もしくはそれ以上の成績を残している。

 過去に打ち負かしてきた相手は、第1回には藤井猛九段、第2回には森内俊之九段と丸山忠久九段、第3回には木村一基八段と深浦康市王位(当時)とビッグネームがズラリと並ぶ。

 この日の相手は「1億と3手読む男」と恐れられる佐藤康光九段。いわずと知れた強豪棋士を向こうにまわし、どのような戦いぶりを見せてくれるだろうか。

■佐藤康の工夫

 後手番となった佐藤和はゴキゲン中飛車を採用し、佐藤康は最近流行の「超速▲3七銀戦法」で対抗した。従来は右銀の早い出足で、後手の駒組みを牽制(けんせい)するこの作戦だが、本局はもう一つ踏み込んだ工夫がなされた。

 第1図を見ていただきたい。先手の4六銀・3七桂は身動きがとれず、非常に窮屈な格好になっている。その代償として佐藤康が得たのは、局面が収まれば▲9八香から穴熊にすることができる陣形だ。後手に手数をかけさせて4六銀の相手をさせ、通常であれば舟囲いに毛のはえた程度までしか固められない玉を8八で安定させる。これが佐藤康の主張だった。

 佐藤和は第1図を前にして「後手番としてはまずまず」と感じていた。その理由はやはり、先手の4六銀・3七桂と後手の5四銀・4四歩の関係性。玉の堅さでいえば、振り飛車側も美濃囲いで安定している。次に△3三桂と跳ねて△4五歩と突ければ駒得確定となるので、先手は動いてくるしかない。したがって▲9八香から穴熊に囲いにいく順番は回ってこないというのが佐藤和の主張だ。

 実戦は第1図から▲2四歩△同歩▲3五歩△同歩▲2六飛△4三金▲3五銀と進み、佐藤康がうまく銀桂の凝り形を解消した。こうなってみると、先手まずまずの分かれといえるだろう。

■佐藤和苦戦

 以下3、4筋から華々しく戦い、飛車交換となった第2図。先手の駒台には飛車と歩だけ。後手は飛銀桂と並んでおり、一見すると後手十分に見える。しかし佐藤和は「次の▲4四金が厳しく、苦戦を意識していました」。▲4四金に△6三銀引と形良く対応できればいいのだが、▲5四歩の垂れ歩がありダメ。仕方なく△4三銀打としたものの、せっかくの持ち駒をここに投入するのでは面白くない。

 佐藤康は△4三銀打に▲2二飛としたが、これは小ミス。△3三角と活用する順を与えてしまった。▲2二飛では▲4一飛△5一金▲5四金△同銀▲2一飛成で、はっきり先手優勢だった。

■揺れ動く形勢

 ▲2二飛成以下△3三角▲同金△同桂▲6四角△5六歩▲5三角成△6三金と進んで第3図。佐藤和は▲4二馬と入られて、次の▲3三馬と▲5五歩の両狙いが残って苦しいと見ていた。ところが佐藤康の指し手は▲5四馬。盤側で見ていた記者は動揺した。

 常識外の蛮勇▲5四馬。この手はさすがに無理筋だった。佐藤和は▲5四馬に△同銀▲5三歩△3一角と的確な対応を見せる。佐藤康は局後に「▲5三歩に期待しましたが、△3一角の受けをうっかりした。急にダメになって、いやになっちゃう。△6三金には▲4二馬と逃げるべきだった」と頭を抱えた。ここで逆転されたと感じたようだ。

 佐藤和は後日、この場面をこう振り返った。「苦しいと思っていた局面で▲5四馬。これには動揺しましたが、きちんと反応できた。△3一角と打ったところで逆転の手応えを感じました」

 実戦は△3一角から▲5二歩成△2二角▲6一と△同銀▲5二歩△同銀▲3四角と進んだ。「指しているときは逆転したと思いましたが、▲3四角と打たれたところは、次の▲2三角成が厳しく互角だったのかもしれません」と佐藤和。

■さらに揺れる

 第4図は佐藤康が▲5六角と攻防の角を打ったところ。この手は▲8三角成からの詰めろでありながら、△8八金以下の自玉の詰みを消している。

 実戦はここから△7四歩▲5五桂(▲7一銀以下の詰めろ)△6二金▲4三桂成と進み、手番が後手に回った。この瞬間、後手玉は詰めろではない。佐藤和は△8九ととしたが、「▲4三桂成には△7八金と打って詰めろをかければよかった。本譜は△8九とで、また難しくなりました」と話した。

■佐藤和、難解な終盤制す

 第5図が最後の勝負どころだった。ここで▲9八玉と逃げれば先手の勝ち筋だったのだ。

 ▲9八玉から、△8九角▲同玉△8八金▲同銀△7八金▲9八玉△8八銀不成(参考図)と進めて先手玉は受けなし。そこで後手玉が詰むかどうかの勝負だが、これが恐ろしい手順で詰んでいるのだ。以下は手順が煩雑になるが、どうかご容赦いただきたい。

 参考図以下▲7一銀△同玉▲7二金△同金▲6三桂と追う。△8二玉は▲7三馬△同桂▲8一金の筋で詰み。▲6三桂に△同金は▲7二金△同玉▲6三馬の筋で詰み。

 したがって▲6三桂には△同銀と取るのだが、そこで▲5三馬が気付きにくい追い方。6二合駒は▲6一飛で、△8二玉は▲7一角で、どの変化もピッタリと詰んでいる。

 第5図から佐藤康は、頭を前後にフルフルと揺らしながら▲8五飛を着手。直後に空気を震わせ、声にならない咆哮(ほうこう)を小さく発する。この手は8五の地点をふさぎながら後手玉に詰めろをかける狙いだが、自玉に即詰みが生じてしまったのだ。もちろん▲9八玉の筋も見えていたのだが、佐藤康の頭脳をもってしても読み切れず、踏み込めなかった。

 実戦は▲8五飛以下△8八金▲同銀△7八金▲9八玉△8九角(終了図)と進んだところで佐藤康が投了。以下は▲9七玉△8八銀不成▲8六玉△7七銀打▲9五玉△9四歩までの詰みだ。

 後日に佐藤康から届いた賀状には「この対局のあと高熱を出しました(笑い)」と書かれていた。本当に文字通りの熱戦だったのだ。

(後藤元気)

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