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<  第4回朝日杯オープン戦第17局  >
本戦1回戦 ▲郷田真隆九段―△森内俊之九段

郷田、ライバル対決制す

対局日:2010年12月21日

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 A級棋士同士の対戦。ともに1970年度に生まれ。ふたりは子どものときから、しのぎをけずってきたライバルだ。82年度に奨励会に入会。87年に四段昇段を果たした森内に対し、郷田は90年昇段と少し遅れたが、初タイトル獲得は郷田の方が10年も早かった。タイトル戦での直接対決は第65期名人戦で、森内が4勝3敗で勝って十八世名人の資格を得ている。

■郷田の工夫

 後手番となった森内が一手損角換わりを選択すると、郷田は棒銀で対抗した。過去の郷田の一手損角換わり対策は腰掛け銀が多かったが、ここ1年ほどは早繰り銀や棒銀を用いている。第1図の△7二金は佐藤康光九段が指し始めた形。本局の隣では、次の対戦相手が決まる朝日杯1回戦の佐藤康光九段―佐藤和俊五段戦が行われているが、佐藤九段は自分の対局に没頭している様子。

 △7二金に対して、▲9八香が郷田用意の作戦だった。▲5八金や▲6六歩を省略し、ぜい肉をそぎ落としたかのようなスマートな駒組み。類例はあるが、最短手数で穴熊を目指すのは珍しい。

 ▲9八香に森内は熟考して△7三桂。以下▲9九玉に△6五桂▲6六銀と先手陣の形を乱してから△6二玉と構えたが、▲5八金から穴熊が無事組めて先手の主張が通った。郷田は△6二玉で△7五歩▲同歩△6九角の強襲を気にしていた。以下▲4八飛に△7八角成▲同飛△7七歩▲同桂△7六金と絡んでいく。穴熊を薄くする実戦的な手順だ。森内はこの強襲には気が付かなかったという。

■棋風通りの展開

 第2図は▲7八金右と先手の穴熊が完成したところ。一方の後手は、左右に金銀が分かれ、局面をまとめるのは大変だ。局後、森内は「序盤は失敗したと思っていた」と振り返る。しかも森内はここで秒読みに入った。厳しい状況だ。

 森内はこれ以上ゆっくりできないため、△7五歩▲同歩△3六角と狭いところに角を打ち込んで局面の打開を図った。先手の右金が中央から遠くなったことで、△3六角が打ちやすくなっている。これは攻めというよりも、相手に十二分な態勢を作らせないための、「責め」の意味合いが強い。

 郷田は▲5八角と受けたが、森内は△4六歩▲同歩△5八角成▲同飛△3六角▲4八飛△2七角成の順で馬を作り、先手の飛車を抑え込んで攻撃力を奪った。

 第3図で△2五桂を見せられた郷田は、▲4五歩△同歩▲6五銀△同歩▲5五角と強攻に出た。しかし、飛車という攻めの主軸が働いていないので決め手とまではいかない。森内も△4四金から手厚く受けて簡単には崩れない。

 妥協のない指し手を繰り出す郷田と「鉄板流」とも称される手厚い受けで知られる森内。ともに剛の印象が強いが、棋風は正反対。本局も郷田の攻め、森内の受けという持ち味の出た展開に進んでいる。

 第4図は90手目の局面だが、まだまだ決着しそうにない。長い中盤戦だ。郷田は▲8三銀と打って際どく攻めをつなげようとする。△7三金なら▲8二銀不成があるし、△6四金も▲5六桂だ。悩ましい応手に森内は58まで読まれてから駒台に手が伸ばし、△6三銀と打った。以前の森内は時間ギリギリまで読まれるまで考えて指すことが多かったが、いまではそういうことはほとんどない。それだけ▲8三銀の対処が悩ましかったのだろう。

■森内、チャンスを逃す

 局面が佳境を迎えるにつれて、郷田からつぶやきともうなりともつかない声が漏れるようになってきた。有利になりそうだし、不利になるかもしれない。そのような難しい局面で無意識に出る癖だ。局面がはっきりしてくれば、有利でも不利でも声が出なくなる。郷田のように声を出す棋士もいれば、せき込む棋士もいる。棋風と同じで人それぞれだ。森内は体を前後に揺らして読みのリズムを取る。

 森内にとって第5図からの数手がチャンスだった。▲7四歩以下△6四銀打▲4五香△同金▲同歩△8五歩▲7三金と進んだのだが、△6四銀打で△8五歩、△4五同金でも△5四金▲4二香成△8五歩▲7五飛△7二歩▲7七飛△6六馬と進める方が良かった。拠点の8六桂を除去してしまえば、7筋攻めを受けやすくなる。本譜はそのタイミングが遅れ、桂の能力を生かされてしまった。

■郷田が激戦制す

 第6図は遅ればせながら△8六歩と桂を取ったところ。後手は入玉を含みにしているが、▲3三歩△3一歩の交換が大きく、後手はと金を作れないのが痛い。▲7四と△5五銀▲7五とと、と金を引きつけたのが好手順で郷田が優位を確立させた。「金は引いて使え」ならぬ「と金は引いて使え」だ。後手は3七銀を取りのけず、左右上下からの攻めが受けにくい。

 終了図は攻防ともに後手の見込みがない。森内は▲6七角と指されると、湯飲みに入ったお茶を飲んで口を潤した。声がかすれないようにした、たしなみである。やがて、森内ははっきりした声で「負けました」と投了を告げた。礼に始まり、礼に終わるのが将棋だ。

 終局後、感想戦が口頭で手短に行われた。朝日杯は1日2局行われる。勝った郷田は午後にも2回戦がある。ライバルに対する森内の気遣いがうかがえた。

 本局からしばらくして、将棋まつりのイベントで両者の対局が行われた。森内が勝ち、本局の借りを返した。さらに2月にはA級順位戦がある。ライバルの対戦はこれからも続く。

(君島俊介)

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