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<  第4回朝日杯オープン戦第18局  >
本戦1回戦 ▲久保利明二冠―△村田顕弘四段

村田顕、二冠を倒す

対局日:2011年1月19日

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■八段から二冠へ

 久保利明棋王・王将は第2回、第3回朝日杯の準優勝者だ。第2回での肩書は「八段」、第3回では「棋王」。そして第4回となる今回は「棋王・王将」の二冠を引っ提げて、本戦から登場した。

 対する村田顕弘四段は、第1回のときにはまだプロ入りしておらず、第2回・第3回は1次予選敗退。1次予選で朝日杯の舞台から去る百数十人のうちのひとりにすぎなかった。それが今回は一気に本戦トーナメントまで勝ちあがってきた。その勢いが、いまや将棋界のトップクラスである久保に通用するのか、楽しみな対局が始まった。

■久保の石田流

 記録係の都成竜馬三段が振り駒を行い、「歩」が3枚出て久保が先手と決まった。久保は得意の石田流三間飛車に構えた。村田も予想していたようで、どんどんと駒組みを進める。両者の手はほとんど止まることなく、第1図のように先手石田流の穴熊と後手居飛車の銀冠という、じっくり固め合う将棋になった。

■ファイター久保

 久保は保持している二つのタイトル「棋王」「王将」は、タイトル争奪戦の番勝負がいずれも冬に行われる。豊島将之六段を挑戦者に迎えた王将戦はすでに開幕しており、この対局の時点で久保の1勝。本局の翌日には第2局の対局場となる静岡県掛川市に久保は向かった(結果は豊島勝ち)。

 棋王戦の挑戦者は渡辺明竜王に決定しており、2月に開幕する。その渡辺竜王は、本局と時を同じくして畠山鎮七段と対局。本局の勝者と渡辺―畠山戦の勝者が午後から準決勝進出をかけて戦うことになっている。

 さて本局は、銀冠に組んだ村田が、さらに穴熊に組み替えた。そして第2図は村田が△4四銀〜△3三銀の4枚穴熊を目指したところ。ここで久保は、間髪入れずに▲4五歩と歩を伸ばした。△4四銀を防いでいる。4枚穴熊に組まれてはいけないという理屈よりも、体が先に反応したような素早さだった。久保は様々な新手を公式戦で披露している研究家で、中終盤の指し回しから「さばきのアーティスト」とも呼ばれるのだが、こういったところはファイターなのである。

■先手が指しやすい局面に

 村田は闘志を前面に出すタイプではなく、淡々と指していく。ポーカーフェースの村田でも、第2図からの▲4五歩には身を乗り出した。このあと、村田は右銀の活用に苦労することになる。

 60手目、村田は40分の持ち時間を使い切り、一手60秒未満で指す「秒読み」に入った。秒読みの中、すっと△9五歩(第3図)と突きだす。久保は落ちついて▲同歩。この小さな突き捨てが、あとで盤上全体に波紋を広げていく。

 続いて△9六歩▲同飛と端に飛車を呼んでから村田はゆったりと、落ちついた手つきで△7五歩と伸ばす。飛車の横利きを通して受けやすくした。ただ、続いて▲5二歩と垂らした局面は、両者ともに先手が指しやすい局面と認識していた。

■後手優勢

 第4図、久保も秒読みとなり、▲5一歩成△同角▲5三歩と垂らした局面。歩を一つバックさせるような手筋で、▲5二歩成が受けにくい。これが好手なのか。盤側で観戦する記者が感心しているそのとき、村田の左手が9五の歩をつまんだ。

 △9五香――。久保の目つきが厳しいものに変わり、頭に手をやった。いつのまにか5一角の利きがあり、飛車の逃げ場がない。△9五香以下、▲同飛△同角▲同香で後手の駒損ではあるが、△6九飛と先着した局面は、ずっと我慢していた後手が攻める展開になっている。局後の久保の第一声は「香車を走られて、ちょっと……」だった。

 だが、実際の形勢はまだ難しかった。第5図は△6九飛以下、▲5五銀△5七歩と進んだ局面。ここで久保は▲7五歩と打ったが、これが疑問手。▲5二歩成がまさった。以下△5八歩成▲5四銀に△同飛▲2二角成△同金▲4二と、の順は「先に守り駒をはがされるので自信がありませんでした」と局後に村田は語った。本譜は▲7五歩に△7二飛と引いた手が受けに利いている。村田は攻めに専念できる状況になった。

■村田、準々決勝進出

 後手優勢と言っても、第5図は80手目。実は本局は170手まで続いた。その間、形勢が先手に傾くことはなかったが、久保はただひたすらに耐えた。村田も先手の穴熊に食いついてはいるものの、いかにもすぐに攻めが切れそうだ。

 後日、村田に聞いてみると不安な局面があったという。112手目△3八金(第6図)の局面がそれで、「思っていたよりも自玉は火がつくと早いことに気づきました」。すなわち、第6図から▲4四角が気になったという。

 以下(1)△2八金▲同玉△3九銀▲1七玉△1五歩は▲2六歩で寄せにくい。いきなり王手をかけて寄らないのであれば(2)△3九金打と詰めろをかけるくらいだが、▲2一飛成がある。以下△同玉▲4一飛△3一飛▲同飛成△同金▲3九銀△同成銀▲2二角成△同玉▲3三金と迫る手がある。この順でもどうやら後手玉は詰まないようだが、一分将棋の中で自玉の危ない筋が見えた村田は、さぞ肝を冷やしたことだろう。

 本譜の久保は第6図から▲3六歩と受けたが、ついに一度も攻める番は回ってこなかった。

 午前10時に始まった対局は12時46分に久保が投了して終局。終了図以下は▲1七玉に△2八銀▲2六玉△2五歩▲同玉△3七金で先手玉は受け無し。後手玉に詰みはない。

 村田はタイトルホルダーに初勝利。苦しい序盤戦を乗り越え、中盤で鋭い切れ味を見せ、そして終盤戦では徹底した粘りに遭いながらも集中力を切らせることなく攻め続けた。このあと、渡辺明竜王―畠山鎮七段戦の勝者と準決勝進出をかけて激突する。

(諏訪景子)

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