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<  第4回朝日杯オープン戦第20局  >
本戦2回戦 ▲阿久津主税七段―△羽生善治名人

羽生、逆転で4強入り

対局日:2010年12月20日

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■チャンピオンフェスティバル

 朝日杯第2回覇者の阿久津七段と、第3回覇者の羽生名人の一戦。阿久津は午前の対局で第1回覇者の行方尚史八段を破っており、チャンピオンフェスティバルともいえる豪華な一日となった。

 両者の過去の対戦は羽生7勝、阿久津1勝。ふたりは2007年に朝日杯の前身の第25回朝日オープン将棋選手権決勝五番勝負を戦い、羽生が3勝1敗でシリーズを制した。阿久津の1勝はこのときもので、他はすべて敗れている。羽生が強いといえばそれまでだが、阿久津も次代を担うと目される逸材。いつまでも上の世代にいいようにやられるわけにもいかない。

 先手番となったのは阿久津。上目遣いに羽生をジロリとにらんでから▲7六歩と突き出した。目標にされるのは強者の宿命。羽生はツンと澄まし、アゴを斜めに傾けて△3四歩。戦型は阿久津の矢倉早囲いに対し、羽生が早めに6、7筋から動いていく力戦模様となった。

■阿久津作戦勝ち

 第1図の阿久津の主張は、上部に手厚く構えた金銀のスクラム。羽生の主張は6筋から反発する形を作っていること。図の△9二香は△6四銀▲6五歩に△同銀と取ろうという意味だが、羽生は局後にこの手を悔いた。

 「決戦の準備で香を上がったのですが、甘かったですね。こちらは囲いの駒組みが遅れているので、ゆっくりとした流れにして△4四歩から△4三金右を間に合わせるほうがよかった」。例えば△9二香でなく△6四角▲6六歩△4四歩といった順。なお先に△4四歩と突くのは、▲7四歩△同銀▲6三歩成△同飛▲9一角成△7三桂▲2四歩で、「この順は先手がやれそうですね」と阿久津。羽生は「本局の分かれとしては、△9二香が甘いので後手不満。繰り返しになりますが、△9二香の将棋ではなかったです」と、序盤を振り返った。

■千日手を打開

 ともに角と銀を手持ちにした第2図。手番を握っているのは後手だが、陣形にまとまりがないため次の手が難しい。先手からは▲4一銀や▲7一角など楽しみも多く、阿久津が指しやすい形勢になっている。

 羽生は「ここで△4三金右とするつもりでしたが、▲5一角△7二飛▲8四角成とされてまずい。その形は先手が手厚すぎます」。自陣に手を入れられないのであれば、方針を変えるしかない。第2図からの△7五銀は千日手を含みにした粘りこみの手だ。▲7五同銀は△3九角の両取りで後手良しになる。阿久津は▲5七銀打△6六銀▲同銀と進め、再度の△7五銀に千日手コースの▲5七銀打ではなく、▲5七角と手を変えた。羽生がためらわず2度目の△7五銀を打ったのを見て、「局面に自信がないから千日手にするんですよね」と心の中でつぶやき、自信を持って打開したのだ。

 ▲5七角からは△6六銀▲同角△6五飛▲4一銀△4二金右▲3二銀成△同金▲7六金打と進んで第3図。羽生はこの金打ちを「非常に手厚い」と評価し、さらに「自信がない」と語った。▲7六金打は△6六飛▲同金△3九角の両取りを防ぎながら、飛車をいじめる順が見込める。

 第3図からは△6三飛▲5二銀△8三飛と進み、飛車をへき地に追いやって阿久津好調だ。先手には▲4四角の切り札があるため、後手は王手飛車のラインに入らないように気をつけなければならない。

■阿久津、打開手段誤る

 形勢は依然として阿久津良しだが、羽生も微差を保ったままぴったりとついてきている。ひとつの判断ミス、少しの弱気を見せれば、すぐに逆転されてしまう程度の差だ。

 第4図は阿久津の▲7二馬に、羽生が8三の飛車を△5三飛と逃げたところ。以下▲6二馬に△8三飛、▲7二馬に△5三飛で再び千日手の可能性が出てきた。2度目の△5三飛に、秒を読まれた阿久津の手が盤上をさまよう。そして指したのは千日手を打開する▲6一馬。この手を境に、徐々に形勢は羽生に傾いていくことになった。

 第4図では▲4一銀不成と活用するべきだった。羽生は△4二金▲8一馬△8六歩▲同歩△6六歩▲同金△8三飛▲5四馬△8六飛(参考図)と大さばきに出る予定だったが、ここから▲2四歩△同歩▲2三歩△1二玉▲3二銀成と迫れば阿久津の勝ち筋だった。以下△6六飛と金を取ってくれば、▲2二歩成△同銀▲同成銀△同玉▲4四馬の王手飛車がある。

 千日手を打開した阿久津の姿勢は正しかったが、惜しくも手段を誤ってしまった。実戦の▲6一馬からは、△8六歩▲同歩△4二金▲3七桂△5二飛と進み、銀を取りきった羽生が優位に立った。

■最後に一刺し

 第5図は後手の5五馬と8三飛の位置がよく、後手勝勢。ここで羽生は△7七馬▲同玉△8七歩から手堅くまとめ、そのまま押し切った。

 終局後、阿久津は「垂らしのほうが早いですよね」と、少し口をとがらせてつぶやいた。垂らしとは、第5図で△8七歩と垂らすこと。放置すれば△8八金から飛車が取れるし、▲同馬や▲同玉なら一発△9五桂と打てる。飛車を逃げようにも、▲2九飛は△8八金▲6九玉△7七馬▲同桂△4七角の王手飛車がある。▲3九飛や▲5九飛は△7七馬から▲4八角の飛車金両取り。また▲4九飛は△5六桂が厳しく、どの変化も本譜よりもスッキリしていた。

 羽生は阿久津の言葉に反応して、文字通り跳び上がった。「え? ああ、あー、そうか。こうか、こうでしたね」。その驚きようと感心っぷりに、阿久津の表情も少しやわらいだ。敗れはしたものの、感想戦での一刺しは次局以降につながっていくかもしれない。

 羽生は第1回、第3回に続いて3回目のベスト4進出。朝日杯では初の連覇を狙う。

(後藤元気)

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