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<  第4回朝日杯オープン戦第21局  >
本戦2回戦 ▲佐藤和俊五段―△郷田真隆九段

郷田、初のベスト4入り

対局日:2010年12月21日

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■朝日杯男

 「朝日杯男」といっても良さそうな佐藤和俊五段。第1回から毎年、本戦に出場。A級棋士以外では佐藤しか達成していない。さらに第2回と第3回ではベスト4入りを果たし、今回は本戦1回戦で佐藤康光九段を破っている。本棋戦と非常に相性がいい。振り飛車党で、デビュー当初は四間飛車藤井システムや三間飛車を多用していたが、第1回朝日杯が開催された4年ほど前からゴキゲン中飛車をよく指している。

 一方、A級棋士の郷田は本格的な居飛車党。長考派として知られ、その裏返しに秒読みに強く、早指し戦の優勝経験も多い。しかし持ち時間40分の本棋戦では苦戦気味で、なかなか上位に行けない。今回は第1回以来2回目の本戦出場だ。

■両者得意の戦型

 先手に決まった佐藤は、得意のゴキゲン中飛車を採用した。郷田は右銀を早めに繰り出す流行の指し方で対抗。先後は違うが1回戦の▲佐藤康光九段―△佐藤和戦でも現れた形だ。

 本局のように右銀を繰り出す指し方自体は以前からあったが、2008年のA級順位戦で指された▲郷田九段―△佐藤康光戦をきっかけに注目されるようになった。居飛車側が玉の囲いを保留したまま銀を4六(6四)に持っていく指し方はその改良型で、前回の朝日杯の▲深浦康市王位―△佐藤和戦で指し始められてから、あっという間にゴキゲン中飛車対策の主流となった。この戦型に精通したもの同士による一戦というわけで、序盤の進行が注目された。

■郷田の主張

 第1図は、先後逆(つまり居飛車の手番)で同じ局面を迎えるケースが多い。第3回朝日杯準決勝の▲谷川浩司九段―△羽生善治名人戦がその代表例だ。郷田は振り飛車の手番でも次の一手が難しいだろうと見ているのだ。例えば、ここで▲6六歩や▲5七銀では5五の歩を取られてしまう。自然な手は▲4六歩だが、△6五銀▲8八角△8六歩▲同歩△7六銀▲7七銀△8七歩と決戦に来られたときに、先手は▲7九角から▲4六角とすぐに活用できない。また何かのときに▲5六飛から▲3六飛(または▲2六飛)ともできないため、▲4六歩は損になる可能性がある。

 佐藤は5分以上考えただろうか、▲5四歩と突いた。以下△4四歩▲5三歩成△同銀上▲6六歩と進んで持久戦模様になった。

 第2図は昔よく指されていた四間飛車対5筋位取りからの変化に似ている。しかし振り飛車側は5筋の歩の交換や左金の動きで従来の形よりも手損した。それがすぐ形勢に結びつくわけではないが、振り飛車に1手多く指させることでその弱点を突こうとする郷田の作戦は、ある程度の成果を上げたといえる。

■危険な駒組み

 第2図の▲3七桂は自然なようだが危険だった。以下△6四歩▲7五歩△8四飛▲7六銀△9五歩▲2六歩(第3図)と進んだが、郷田に△6五歩▲同歩△8六歩と仕掛けのチャンスを与えてしまった。▲8六同角なら△5六歩が香取りになる。佐藤は手の遅れを突かれたのだ。

 第2図では▲2六歩と玉の懐を広げるべきだった。以下△6四歩なら▲9八香と角筋を避けておけば、後手も簡単には動けない。先手側は手損しているため繊細な駒組みが要求されていたのだ。佐藤は「▲3七桂は罪が重かった」と唇をかんだ。

■郷田リード

 第4図は△8六歩に佐藤が▲6六角として、次に▲7四歩△同飛▲7五銀を狙ったところだ。佐藤の顔は紅潮。郷田は「うーん、そうか」とつぶやく。ここから△6七歩と垂らした手が好手だった。▲同銀なら▲7四歩の反撃が緩和される。佐藤は▲5八飛としたが、この手の交換は後手が得をした。

 ▲5八飛以下△8七歩成▲7四歩△8六飛と進んで第5図。ここでは▲7五銀も有力だが、以下△7六飛▲7三歩成△7九飛成▲5九飛△7八竜▲7九歩△8九竜▲5八金△8六との進行は後手良し。こうなると△6七歩と垂らした手が十二分に利いている。本譜は▲6七銀と歩を払ったが、△6五桂が幸便。△6五桂〜△7七とから飛車を成り込んで、やはり後手有利となった。

■最後の勝負手逃す

 第6図は急所の3筋に手が回ったところ。ずっと前から後手が狙っていた展開だ。後手の6五桂が先手の7七角にあたっているが、慌てて取ると▲6二飛成からと金を作られて危険。後手は一番いいタイミングで角を取ればよい。

 ただ苦しいながらも、先手はここで▲3三歩とたたけばまだひと山あっただろう。以下△同銀なら▲3六金△3五歩▲同金△1三角▲3三桂成△同桂▲5二歩成△同金▲3四歩と攻め合って勝負できた。ところが実戦は▲2五桂と逃げたため、△4五銀直▲同歩△3五桂と進んで後手勝勢に。4六歩が動いたために7六竜の利きがさらに強くなってしまった。

 終了図以下は▲2八同玉△3七歩成▲3九玉△3八飛▲同金△同金までの詰み。佐藤は3年連続ベスト4入りならず。局後、肩を落として「人として▲3三歩くらい打たないといけない」と悔やんだ。最後の勝負手を逃したことは、敗れたことと同じくらいに残念だったのだろう。

 郷田は初のベスト4進出で、準決勝では羽生善治名人と対戦する。意外なことに2009年の第67期名人戦以来の顔合わせだが、それだけに楽しみな一局だ。

(君島俊介)

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