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<  第4回朝日杯オープン戦第25局  >
準決勝 ▲羽生善治名人―△郷田真隆九段

羽生快勝で決勝へ

対局日:2011年2月12日

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■注目の対戦

 準決勝2局のうち、羽生と郷田の一局をお届けする。

 残った4人ともA級棋士という重量級。公開対局と大盤解説会には500人を招待したが、1364通もの応募があった。対局当日は早い時間から多くの人が詰め掛けた。対局会場の扉が開かれるとあっという間に観戦席が埋まり、その後ろに人垣ができた。さすがは注目の対戦である。

 過去の対戦成績は羽生40勝、郷田20勝。羽生が4勝3敗で防衛した第67期名人戦以来の顔合わせだ。朝日杯の前身棋戦である朝日オープン選手権では第22回の準決勝で顔を合わせ、羽生が角換わり腰掛け銀の将棋を制した。

■急戦矢倉を誘う

 羽生の先手で始まった本局。ともに矢倉を得意にしていることもあり、スラスラと指し手が進む。しかし郷田は▲7七銀(第1図)を見ると、うつむいて考え込んだ。

 ▲7七銀はやや珍しく、▲6七金右を省略して先手が少しでも得になる駒組みを目指す意味がある。後手がこれをとがめるためには急戦矢倉で行くことになる。逆に言えば、羽生は急戦を誘い、それを迎え撃とうとしているのだ。郷田の反応は、羽生の意図を読み取ったためだろう。しばらくして△5三銀右を着手。急戦策で行くことに腹を決めた。

 羽生はこの形を後手側で数局指しており、そのときの経験を生かそうと考えていた。もともと以前指したことのある形の逆側を持って指すケースが多い。将棋を究めたいという思いがそうさせるのだ。

■珍しい形

 第2図は柔らかく▲6七銀と上がって中央を守ったところだ。矢倉中飛車を雁木(がんぎ)で受ける展開は珍しい。昔は▲6七金右と上がっている形で矢倉中飛車を相手にすることが多かった。

 ここで△6五歩は▲同歩△5六歩▲2二角成△同金の進行が予想されるが、後手は壁形のままでは戦いきれない。郷田は先に△5六歩とし、▲同銀左△6五歩。対する羽生の▲4六歩は柔らかい手で、△3一玉と寄ると▲6七金右△5五歩▲4七銀でじっくりした将棋になる。本譜は▲4六歩に△6六歩▲同銀△6五歩(第3図)と進んだ。

■激しい攻め合いに

 第3図からは▲5五歩△6六歩▲5四歩△7五歩▲4五銀打△7六歩▲3四銀と進み、激しい攻め合いになった。「棋は対話なり」と言われる。ふたりの対局は、剛直な棋風の郷田に柔軟な羽生が呼応するかのように直線的な攻め合いになりやすい。それゆえに短手数局も多く、100手未満で終局したのは60局中22局ある。対局会場の緊張感がさらに高まった。

 第3図では▲5七銀と引く手もあった。以下△8八角成▲同玉△3三角▲9八玉△9四歩▲5五歩△同銀▲同銀△同飛▲5六歩△5一飛▲4五銀は変化の一例。郷田は「手の調子が良くないのでやりにくかった」と言う。羽生は「銀を引くのは△9四歩を突かれて自信がなかった」と言うが、実際は難しかった。途中の▲9八玉に△6六歩もあって、変化は多岐にわたり、感想戦でふたりは楽しそうな表情で調べていた。

■郷田に判断ミス

 第4図は羽生が▲6六角と壁になっていた角をさばいたところだ。郷田は4一に玉がいるため、△5六飛と銀を取れない(▲3二成銀△同玉▲2二金から▲2三角の筋で王手飛車がかかる)。秒読みになっていた郷田はここで静かに△2八飛と打ち下ろした。金桂両取りで一見普通に思える。だが敗着に近い判断ミスとなった。△2八飛以下は▲5九歩△5七歩▲6八金右△3三桂▲3二成銀△同玉▲3九金と、飛車を捕獲されてしまったのがあまりにも痛かった。「何とかなるかと思っていたが、何ともならなかった」と郷田は反省する。

 ▲6六角には単に△3三桂だった。以下▲2三歩なら△2一歩と受けられるし、▲5五銀なら△1四飛▲3二成銀△同玉▲2四歩△同飛▲3五角(参考図)で飛金両取りがかかるものの、どちらの駒を取っても後手玉に響きが薄い。そのため、参考図のタイミングで△2八飛から攻め合えば、まだ難しい将棋が続いていたのだった。

■長い感想戦

 羽生は第5図の「▲6九歩と打った瞬間は勝ちとは思っていなかった」と言っていたが、ここでは先手勝ち筋に入っていたようだ。△8五桂に羽生は▲7五角△5三銀▲2二角と左右から攻めて後手玉を追い詰めた。

 郷田は▲4一銀を見て投了。△5一玉に▲3二銀成△5二玉▲4一竜までの詰みだ。対局を終えたふたりは大盤解説会場でファンの前で感想戦を行った。複雑で高度な話が繰り広げられ、大勢の方にもふたりの底知れない世界が感じられたことだろう。

 その後も両者は控室で仕掛け周辺の局面をジックリと検討していた。将棋がたまらなく好きで、互いに認め合っているからこその濃密な時間が流れていた。もし決勝戦がこのあと行われなかったら、納得がいくまで何時間でも続けられていたことだろう。笑みを見せる場面も多く、直前まで勝負を争っていたとは思えない光景だった。

 その後、羽生は疲れを感じさせず、けろりとした表情で決勝戦に臨んだ。対局の疲れを感想戦を楽しむことで癒やしていたのか……。そう思えるほど、とてもタフだった。

(君島俊介)

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