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2011年8月8日15時53分
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<  第5回朝日杯オープン戦第2局  > 1次予選1回戦 ▲牧野光則四段一△横山大樹アマ

横山アマ、プロを破る

対局日:2011年7月2日

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■関西将棋会館での対局

 朝日杯将棋オープン戦は今年もプロアマ戦で開幕した。関西将棋会館では午前10時からと午後2時から1局ずつ、一般にも公開して行われた。

 5階の対局室にまず姿を見せたのは横山大樹アマ。北海道出身で、立命館大学将棋部に所属している。昨年度は副主将としてチームを引っ張り、エース級の活躍を見せた。

 対するは牧野光則四段。プロ入り直後だった昨年は早咲誠和アマに勝ち、公式戦初勝利を挙げている。

 この二人の対局は、数人のファンが見守る中、静かに始まった。

■一手損角換わり

 牧野も横山アマも居飛車党。横山アマが△8八角成(第1図)として一手損角換わりになった。横山アマは牧野の棋譜を事前に調べた上で、自らが最もよく指している一手損角換わりを選んだ。

 第2図、先手早繰り銀と後手腰掛け銀はプロ公式戦でもよく現れる形だ。▲3五歩△同歩▲同銀△8五歩▲2四歩と進行して開戦した。▲2四歩のところで▲7七銀と上がるのは、△8六歩▲同歩(▲同銀は△5五角)△8五歩▲同歩△同飛の銀桂両取りの筋が生じる。

■指してみたい手

 牧野が▲5五銀と打った第3図。これは過去の公式戦では指されていない手だ。ここで横山アマは考えた。「▲5五銀は指したことも指されたこともない手でした。でもこの局面は△6三銀で後手が指せるんじゃないか、という話を聞いたことはありました」と横山アマ。しかし銀を自陣に手放す△6三銀は指しにくい手だ。少考の末、指してみたい手だったという△6五歩を着手した。

 牧野は△6五歩をとがめるべく、▲7七桂と跳ねた。こうなると後手もゆっくりはしていられない。6筋、8筋を突き捨て、先手の陣形を乱していく。一分将棋に入った横山アマは△3六銀(第4図)と打って、先手玉にプレッシャーをかけた。

■勝負どころ

 第4図まで牧野はほとんど時間を使わずに指し続け、消費時間はわずか10分。持ち時間が40分しかないとは言え、決断よく指していた。その牧野が、第4図を勝負所と見て10分以上考えた。

 ここでは(1)▲3七歩、(2)▲4七銀などが考えられた。(1)▲3七歩以下は△2七銀打▲同金△4七角▲6七玉△2七銀成▲同飛△3八角成、(2)▲4七銀は△2七銀打▲同金△4七銀成▲同玉△6九角▲5六玉△3八歩が考えられる。どちらも難しい。「あとで調べたのですが、いくら検討しても結論が出ませんでした」。後日、横山アマはそう語った。

■身を乗り出す

 本譜、第4図で牧野は▲6五桂と跳ねた。横山アマは苦しげな表情で△2七銀打。以下▲同金△同銀不成▲同飛△3六角(王手飛車取り)▲4七飛△同角成▲同玉△4九飛(第5図)。先手玉が危なくなってきた。

 第5図から▲4八銀△2九飛成▲9六角△6九竜と進む。早指しだった牧野の持ち時間もなくなり、一分将棋になった。そして、牧野が指したのは▲6三銀(第6図)。深い前傾姿勢で盤上をにらんでいた横山アマが、さらに身を乗り出した。

■即詰みがあった

 「最後に横山さんが、人さし指を宙で動かして確認し始めたのがすごかったですね」。対局室で観戦していた筆者の友人が、終局後に興奮気味に話してくれた。全力で戦う者の姿は、見る側も夢中になれる。公開対局のだいご味だ。

 第6図の▲6三銀は、▲5二銀打以下の詰めろ。「▲6三銀と指されて不安になりました」と横山アマ。無理もない。第6図の先手玉には即詰みが生じている、それが横山アマの読みだった。読み抜けがあったのか? 指さし確認で、横山アマは確信した。うん、詰んでいる。

 △3五桂が指されるのが先だったか、牧野の表情が曇っていくのが先だったか。やはり、先手玉は詰んでいた。以下▲3七玉△2七金▲3六玉△2六金▲同玉△2九竜(終了図)。午前11時36分、竜の王手を見て牧野が投了した。終了図から▲3六玉は△2七竜▲3五玉△2五竜まで。牧野はこの詰みを見落としていたが、受けても後手の攻めが続き、大勢に影響はなかったようだ。第4図の局面が勝負の分かれ目だった。

 感想戦が終わったあと、牧野はインタビューに言い訳も愚痴も言わず、ただ一言「ふがいない将棋でした」とだけ答え、あとは無言を通した。今回のプロアマ戦で、プロが唯一負けたのが本局。悔しさを隠そうともしなかった。

 横山アマは2回戦で阿部隆八段と対戦する。「1回戦は全体的にのびのびと楽しく指せました。阿部先生は通っている支部でもお世話になっているので、成長したところを見てほしい」と明るい声で意気込みを語ってくれた。

(諏訪景子)

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