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2011年8月31日18時42分
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<  第5回朝日杯オープン戦第6局  > 1次予選2回戦 ▲阿部 隆八段一△横山大樹アマ

横山アマ、2回戦で敗退

対局日:2011年8月18日

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■唯一のアマ

 すっかりおなじみとなった朝日杯将棋オープン戦のプロアマ戦。第5回の今年はプロの9勝1敗となった。牧野光則四段を破り、アマ唯一の白星を挙げたのが横山大樹アマ。立命館大学将棋部でエースとして活躍する若武者である。2回戦で関西の雄、阿部隆八段に挑むこととなった。

■「師」に挑む

 午前9時46分。横山アマが対局室に姿を見せた。手にしていたお茶のペットボトルを盤側に置くと、ゆったりと下座に着く。記者があいさつをすると柔和な笑みを返してくれた。プロとの対局は今回が3度目だ。

 横山アマは京都・梅津支部の会員。昨年は支部名人に輝いた。梅津支部の師範は福崎文吾九段で、阿部の兄弟子にあたる。阿部には日頃からお世話になっていて、実際に稽古をつけてもらったこともあるそうだ。「プロの公式戦で指せるだけでも光栄」と語っていた横山アマ。「師」の胸を借りて、思い切りぶつかっていくつもりだったようだ。後手番となった横山アマが準備してきたのはプロでも多く指されている8五飛戦法(第1図)だった。

■プロの重圧

 阿部が対局室に入ったのは9時54分。やや険しい表情をしていた。「公式戦でアマと対戦するのは初めてで、正直やりづらさはありました」と局後に語った阿部。ましてや、相手は横山アマである。師弟戦のようなやりにくさも感じていたのかもしれない。

 横山アマの意気込みに、阿部はプロとして最新形で応えた。阿部が用意していたのは▲7七角(第2図)。水面下の研究では指されているが、公式戦での前例は少ない新型だ。

 着々と攻撃態勢を整えていく横山アマに対し、阿部は自陣で駒組みを進め、低く構える。一方的に攻め潰されてしまう可能性もあるだけに、実に堂々とした指し回しである。プロは「やってこい」と言っている。はたして横山アマは先に仕掛けていった。

■攻めるアマ、受けるプロ

 △9五歩(第3図)から後手の攻めが始まった。「先攻する形を指したかったので、この局面は想定していました。私としてはほぼ予定通りの展開で、ここからが勝負だと思っていました」と横山アマ。△9五歩〜△7五歩と軽快に歩を突き捨て、真正面から切り込んでいった。

 横山アマが繰り出す手を、阿部は一つひとつ丁寧に面倒をみていく。△9五歩に▲同歩、△7五歩にも▲同歩。後手の攻めを全て受け止める方針だ。着手も対照的。甲高い駒音を響かせて読みをぶつけてくる横山アマに対し、阿部は終始ゆっくりと、丁寧に駒を置いていた。

 △6五桂が後手狙いの桂跳ねだ。阿部の手が止まる。上半身を前後に揺らし、手にした扇子を広げたり閉じたりしている。時折「いやぁ、そっかぁ」とため息とも取れる声を発しているが、盤上に送る視線は鋭い。半分ほど残っていた持ち時間もわずかとなったところで、阿部は▲6六銀と自然に応対する順を選んだ。後手の攻めが好調なようだが、左右の金銀ががっちりと連結していて先手の陣形は見た目以上にしっかりしている。阿部は読み切っていた。

■格調高い指し回し

 第4図まで進むと後手の攻めは息切れ模様だ。「攻めてもらったほうがやりやすいと考えていました」と阿部。相手のやりたいようにやらせて、その反動で勝つ。本譜は阿部の格調高い指し回しが光った。

 △9五香に▲同香は△7八角の勝負手がある。(1)▲同金は△同歩成▲同玉△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△7七歩▲8八玉(▲同銀は△2六飛で飛車が取れる)△9六飛で攻めが続き、9五の歩を取った手が一歩千金となる。だが、△7八角には(2)▲5八玉と逃げる手があって、以下△8七角成▲同金△同飛成と進んだ局面は先手が残していそう、というのが感想戦での結論だった。

 本譜で阿部はより明快な答えを用意していた。▲6五銀と攻めの根元を取り払い、△9九香成に▲5八玉と早逃げしたのがプロの技だ。右辺に逃げ出す形ができ、先手玉が急に遠くなった。▲7四桂が狙い通りの反撃。ここで攻守が入れ替わった。

■堅実な寄せ

 形勢は先手よし。どう決めるかという局面だが、▲5五香(第5図)が厳しい一着だった。5筋の一点突破を目指した、単純だが的確な攻めだ。香を浮いて打つことにより、▲5六飛と回る余地も作っている。この▲5五香について、阿部は感想戦で「控室の評判はよくなかったでしょう。時間がなくなってよくわからなかったんですよ」と苦笑いしていた。常に本筋を追及する阿部らしい一言だ。

 △2七角(第6図)が敗着。▲3八角△同角成▲同玉と進み、かえって先手玉に怖いところがなくなってしまった。感想戦で検討されたのは△2七角に代えて単に△3一玉。本譜と同様に▲4三成桂△同金▲5一香成と進めると、△2六桂と打った手が△2七角以下の詰めろとなる。これは先手も怖い形だ。「△2六桂には▲1六角で先手が残していそうですが、これは後手もまだもうひと踏ん張りという形ですよね」と阿部。最後は秒に追われる形で横山アマが反撃を試みたが、▲2七歩(終了図)と阿部に丁寧に応接されたところで投了となった。

■プロ、貫禄の勝利

 局後のインタビューで、横山アマは「プロ公式戦で指すということはなかなか経験できないことなので、これを生かしてまたこの場に戻ってきたいです」とすがすがしく語った。敗れはしたが、満足げな表情が印象的だった。

 一方の阿部はさすがにホッとした表情だった。「あまり経験のない形だったのでどうかと思いましたが、終盤以外はうまくやれたのではないでしょうか。横山さんはプロに尊敬の念をもってやってくれるので、若手プロと対局するのとそんなに変わらない気持ちで臨むことができました」(阿部)。

 阿部がプロの貫禄を見せつけ、3回戦へと駒を進めた。

(近本孝司)

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