現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 将棋
  4. 朝日杯将棋オープン戦観戦記
  5. 記事
2011年11月15日17時45分
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

<  第5回朝日杯オープン戦第7局  > 2次予選決勝 ▲阿久津主税七段―△佐藤和俊五段

阿久津、5年連続で本戦へ

対局日:2011年10月28日

拡大  

拡大  

参考図拡大  

拡大  

拡大  

拡大  

終了図拡大  

■デジャブ

 午後の対局に勝ち上がってきたのは、阿久津主税七段と佐藤和俊五段の二人。阿久津は精悍(せいかん)な顔立ちと飄々(ひょうひょう)とした雰囲気を持つ、独特な存在感のある棋士だ。佐藤は優しげで物静かな雰囲気がある。ピアノ演奏をたしなむそうで、イメージにぴったりだ。どちらも毎回本戦に名を連ねる棋士で、第2回では準決勝で対戦している。そのときは阿久津が勝ち、結果的に優勝につながる大きな勝利になった。

 本戦進出を懸けた対局は、佐藤のゴキゲン中飛車に阿久津が「超速3七銀」と呼ばれる作戦で対抗して始まった。超速3七銀は、居飛車の右銀が足早に4六の地点へ進出していく。この銀は中飛車のさばきを抑えつつ、角頭の攻めをにらんで攻防にはたらく。ゴキゲン中飛車対策として注目を集める指し方だ。

 阿久津は2枚の銀を使って5筋の位に圧力をかけつつ、3筋から動いていった。

 佐藤は第1図から△4四角▲3六飛△3三金と逆襲含みで迎え撃つ。すると、阿久津の口から「ひえ」とも「ぎえ」ともつかない奇妙な声が出た。

 それもそのはず、目の前の盤面は午前の阿久津(先)−横山泰明五段戦とまったく同じ局面を迎えていたのだ。佐藤は対戦相手の対局を事前にチェックしていたのか? そのうえで自信のある対策を用意してきたのだろうか? そんな考えが、阿久津の脳裏をかすめたかもしれない。その後も午前の対局と同じ進行をたどり、第2図を迎えた。

■反省が生きる

 第2図は▲4五銀と攻めるか否かの岐路。仕掛けは成立するのか。

 横山との対局時、阿久津は熟考した。次の一手には、持ち時間40分のうち実に半分以上を費やしている。結論は、仕掛けを見送る▲9六歩。以下△3四金▲9五歩△3五歩(参考図)と進み、後手が3筋に位を張って先手の攻撃陣を圧迫した。「ちょっと失敗したね。こう進むと(3七への)桂跳ねがかえって悪い形になってる」。短い感想戦の中で、阿久津はそう振り返った。そしてぽつりと言った。「▲4五銀と踏み込むべきだったかもしれない」

 数時間後、同じ局面を迎えた阿久津の決断は早かった。第2図から▲4五銀△同銀▲同桂△3四金▲5四銀。横山戦の反省を踏まえ、すばやく中央へ桂を活用する。▲5四銀は桂を支えつつ▲4三銀成を狙う攻防手だ。これが思いのほか受けにくい。佐藤は△3五金▲3九飛を利かせてから、△5二銀と堅く受けた。後続の攻めがなければ、3筋を制圧した利が残る。

 しかし先手には切り札があった。それが▲9六歩(第3図)。自陣に眠っている角を端から活用する手だ。次に▲9七角が絶好の一手になる。阿久津には「この時、相手に手がなければ」と、リードできる予感があったようだ。桂交換から▲6四桂の筋もあり、後手が受けきりを目指すのは難しい。ではどうすべきか? 局後、佐藤は「指す手がない」と苦笑いを浮かべた。そして「あとは向こうがどう勝つかという将棋になってしまった」と嘆く。驚いたことに、第3図では既に後手に思わしい手が残されていなかったのだ。

■お手本のような寄せ

 第4図の▲6八金寄がプロらしい手渡し。自玉を固めつつ、相手の動きを誘っている。自分から動くのではなく、相手に指させて対応する。少ないリスクで見返りを得る技術だ。後手が△5六歩からもがいてきたところに、反動をつける形で攻勢をとった。

 寄せの基本は、守りの金銀をはがしていくこと。阿久津はセオリーどおりに後手玉を追い詰めていった。棋譜を追うと簡単に寄せているように見えるが、相手の持ち駒から金をなくすように指しているところに注目したい。後手は必死に食い下がるが、▲5五桂(第5図)が急所をついた。以下△7二銀に▲6二成銀と引けば、金がないと受からない形だ。△8四桂は首を差し出した手。以下数手指し進め、佐藤は投了を告げた。終了図の後手玉は詰めろで、受けても一手一手の寄りだ。先手玉に詰みはない。

■有楽町を目指して

 午前、午後の2局ともまったく同じ仕掛け、まったく同じ対応。こんなことが偶然に起こるものだろうか? 局後、佐藤に聞いてみた。午前の阿久津―横山戦を知っていたか、と。佐藤は「いいえ」と言った。「似たような将棋だというくらいで、詳しくは知りませんでした。指し手が速いので自信があるんだろうな、とは思いましたけど。こちらも研究会でよく指している形でしたし。ただ……」佐藤は最後に一言、付け加えた。「なんとなく、嫌な予感はしました」

 阿久津はどう感じていたのだろう。尋ねてみると、「まあ、なりやすい形ですからね。2局とも同じになるとは思いませんでしたけど」とさらり。いかにも阿久津らしい。

 これで5年連続の本戦出場。目標について尋ねると「まあ、有楽町に行ければ楽しめるかな」と、頼もしい答えが返ってきた。有楽町は準決勝・決勝が行われる決戦の舞台。阿久津の雄姿が見られることを期待しよう。

(松本哲平)

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介