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2011年11月21日20時6分
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<  第5回朝日杯オープン戦第8局  > 2次予選決勝 ▲深浦康市九段―△中川大輔八段

深浦、本戦へ

対局日:2011年10月28日

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■粘りと力強さ

 本戦出場を懸けてぶつかったのは深浦康市九段と中川大輔八段。

 深浦の趣味はサッカーだ。深浦が20代の頃、プレーを見たことがあるが、ボールを持っている相手をひたすら追いかけ回し、根負けしたところをすかさず奪うシーンが印象に残っている。深浦の棋風に通ずるものがあると感じた。対する中川は野球好き。日本将棋連盟野球部の「キングス」にも所属している。ただし「キングス」が属する社会人リーグは、連盟の理事会がある水曜日に試合が組まれる。理事になった中川がプレーする機会は少なくなったが、それでも機会があれば、「球を引っぱたいてやる」と言わんばかりの豪快なスイングで向かっていく。まるで隙あらば、金と銀を盛り上がって攻勢をとろうとする中川将棋を思わせる。

■右玉に

 矢倉の出だしとなった本局。中川が選んだ作戦は右玉だった。元々、右玉は受け身の作戦で、のらりくらりと相手の攻めをかわしていく印象があるが、中川が使うと攻めの作戦に変貌(へんぼう)する。

 第1図の▲5七銀までは過去に2局の前例がある。次の一手はいずれも△7二玉だった。だが、中川は△6五歩。待ち構えているところを攻めるのは、何とも中川らしい。

 第2図は互いに駒組みが完成しつつある局面。6三の金と6四の銀がなんとも中川らしい。日頃も、控室などで検討をしている棋士が「ここは中川調で」と言う時があるが、それは金と銀を前へ前へと繰り出していく手順を指すことが多い。中川が6三に金を上がった瞬間、筆者は思わず「おっ。本家、中川調」と感じ入ってしまった。

 一方の深浦は「位(6五)を早々に取られているのでなんとも……」と言葉を濁したが、そう語る顔は「悪くはないです」と言っているようにも見えた。

 △9二香は、次に△9一飛として先手の玉頭を攻める狙いがある。中川によると「相手を焦らせる狙いだった」という。そこで深浦は▲4五銀。先手から仕掛けるならこのタイミングだ。

■火花散る応酬

 中盤に差し掛かり、白扇を持つ深浦の手が激しく動くようになってきた。その様子を見ているだけでも局面の緊迫の度合いが伝わってくる。

 ▲2三銀(第3図)が「ハッ」とさせる派手な手。この手について、深浦は「勝負にいかざるを得なくなった」と述べた。局後、代わりに▲4六角△8五桂▲8二銀(△同飛は▲2一飛成)△6一飛が検討されたが、どうも先手の攻めが続きそうにない。なお、▲2三銀を△同金と取るのは▲4二角成△2四歩▲4三馬△2二角▲3二馬で先手が指せる。

 ▲2三銀に対し、中川はひときわ高い駒音で△9六歩。気合を重視する中川だが、敵の玉頭を直撃するだけに、さらに力が入ったのかもしれない。ここで▲同歩は△同香▲9七歩に△2七歩▲同飛△2六歩と飛車先を止められ、飛車が逃げると2三の銀を取られてしまう。よって、深浦は手抜いて▲3二銀不成とするよりない。

■勝負どころ

 第4図の▲6八角が、7七の地点を受けながら、▲2二飛成△8三玉▲9二角以下の詰みを狙った詰めろ逃れの詰めろ。この局面が本局のポイントだった。局後すぐ、深浦は「ここで後手に何かあれば(こちらが)悪いのですが……」と筆者の方へ顔を向けた。

 中川にとっては、第4図で「何かある」と考えていたのだが誤算だった。しかし軌道修正するには遅すぎた。

 中川は△9七銀▲7九玉に△7七香(第5図)と迫り、▲6九玉に△2七歩と進んだが、「命の一歩をここに使うのでは負けだと思ったと言う」。

 感想戦では、△7七香に代えて△7七桂打も検討された。以下▲同金△8八銀打▲6九玉△7七桂成▲4六角△6八金▲同角△同成桂(参考図)と進み、▲同飛なら△7七銀不成で「後手玉が詰まなければ勝ち」と中川。深浦も「大変ですね。なるほど負けかもしれません」と同意していた。

 しかしその後、参考図で▲同玉と取れば先手が残していたことがわかる。それを知った中川は「勝ちがなかったか」と自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

■深浦が本戦へ

 手番が回った深浦は▲2二飛成と成り込み、△9三玉に▲9六香と打ったが、これが痛打。歩があれば△9四歩でよいのだが、後手の駒台には金が3枚並んでいる。9四に金を使うのではツライ。中川が「命の一歩」と言ったのは9四に打つ歩がないからなのだ。△5八角に▲3九玉(終了図)で、中川はすかさず「負けました」と声を発した。

 勝った深浦は本戦進出。「なかなか前の4回は結果が出せていない。今日の感じを忘れないよう本戦に臨みたい」と表情を引き締めた。第1回から本戦で戦っている深浦だが、これまではベスト8進出が最高成績。今年こそはベスト4へ進出し、決勝の舞台となる「有楽町マリオン」で深浦の雄姿が見られそうな気がする。

(滝澤修司)

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