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2011年12月5日14時49分
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<  第5回朝日杯オープン戦観戦記第10局  > 2次予選決勝 ▲大石直嗣四段―△高橋道雄九段

高橋、初の本戦へ

対局日:2011年11月10日

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■新鋭対ベテラン

 二次予選Fブロック決勝は新鋭がベテランに挑む構図となった。

 大石は関西所属で森信雄七段門下。故・村山聖九段をはじめ、独創的な棋風の山崎隆之七段、東大出身の片上大輔六段、早指しの糸谷哲郎五段といった個性的な棋士が多い森門下の中ではおとなしい棋士といえるかもしれない。しかし、盤上はしっかり自己主張している。後手番のときは出だしで端歩を突く力戦を得意にしている。1回戦はこの戦型で中田宏樹八段に快勝している。

 花の55年組としてデビューした高橋も棋士生活が30年を越え、ベテランの域に達している。研究熱心さはいまも変わらず、将棋会館で研究会を指しているところを見かけることもある。

■横歩取りから縦歩取りへ

 本局は横歩取りの出だしとなった(第1図)。高橋は10年以上この戦法を得意にしている。一手損角換わりの影響で一時期下火だったが、再び大流行しているのは高橋の影響が大きい。2009年にB級1組からA級へ復帰したときに用いたのも横歩取りだった。

 重厚な矢倉のイメージが強い高橋だが、昔から対振り飛車では玉を金銀4枚でガッチリ囲い、飛角桂を軽快にさばく将棋を得意にしていることを考えれば、横歩取りを指す姿も納得できるだろう。高橋の堅い玉形を築く技術は棋界でもトップレベルで、その技術は現代将棋の戦い方に影響を与えている。

 第1図で少し手を止めていた大石は横歩を取らずに▲2六飛と飛車を引いた。横歩取りは後手の戦術に幅が広がってきたこともあり、最近は横歩を取らない将棋も増えている。ただ、もちろん用意の後続手段はある。▲3六飛(第2図)がそれ。横から歩を取ることを諦めた先手が今度は縦から歩を狙う。面白い戦術だ。最近になって数局見られる指し方で△3三金なら▲7七角から▲8六歩の銀冠やひねり飛車を目指す。

 後手は第1図と違い、2三に歩を打って攻撃力が低下したため無条件で歩を取られるわけにはいかない。高橋の△8八角成〜△2二銀から新しい将棋となった。歩を取られる代償に馬を作るのが狙いだ。そのあたりは大石も心得ており、▲1七香とかわす。第2図の前に1筋を突いた効果が表れている。

■難解な手将棋

 第3図の▲2二歩は大石の軽手。△同金に▲3一角と打ち込み、歩得と馬の位置で先手がペースをつかんだ。後手からすると、直前の△1九角成が攻めを与えて危険だった。局後、△1九角成は「ずうずうしかった」と高橋は反省した。

 ただし、手将棋の難しさで構想の取り方が難しい。持ち時間が40分しかないからなおさらだ。△4二銀には▲2六馬の方が勝ったようだが、大駒が狭くなって指しにくい。△2四飛(第4図)が横歩取りを得意とする高橋らしい感覚で、うまく飛車をさばいた。「2四への飛車の転換が見えていなかった」と大石。▲7七玉は早逃げ。右辺が戦場になるので前もって避けたものだ。

 第4図の後、△3三桂から△2五桂はパッと目につく攻めだが、実際はかなり勇気がいる。先手の飛車と馬が素通しのままだからだ。双方このあたりは自信を持てずにいた。なお、△3三桂で△5八歩と垂らすのは手筋だが、1歩少なくなるのも痛い。高橋は短い持ち時間では打ち切れなかったそうだ。

■踏み込みが功を奏す

 40分の持ち時間のうち9分使って打った△3三香(第5図)が好手だった。この瞬間に先手からうまい反撃がなければ、△1七馬と桂を取って後手が良くなる。しかし、先手は攻めが細い。歩が利かないため、パンチに重みがないのだ。「香を打たれてちょっと…」と大石。結果的に第4図からの攻めは成功しているようだ。

 △3三香に▲5六飛と逃げるのは△1七馬▲5三桂△同銀▲同飛成△6四桂で次がない。大石は1分将棋になるまで考えて▲3三同飛成から強襲したが、△5四馬(第6図)が決め手となった。馬が使えたのはあまりにも大きい。これまで重々しい手つきで指していた高橋もこの手は軽やかに着手した。先手は▲3三同飛成△同金に▲3六香と打つ手も考えられたが、△1七馬▲3三香成△同銀▲4五桂△4二銀で耐えている。

 △5五馬から△6九飛が、△6六馬と金取りを見た痛打で受けがなくなった。終了図からは▲5六玉△4七竜▲6五玉△6四金までの詰みだ。

■研鑽(けんさん)怠らないベテラン棋士

 数年前に高橋は「自分は才能がない」と話していたことがある。その口調からは冗談ではなく、本心でそう思っているようだった。五段のときに王位を獲得するなど若いころから目覚ましい活躍をしているので才能がないとは信じられないが、奨励会入りが15歳と遅かったことや55年組で活躍してした棋士が高橋よりも若いことがそう思わせているのかもしれない。将棋界では若い棋士が注目されやすいからだ。

 しかし、コンプレックスをバネにしてきたことで、今の実力や地位を築き一流棋士であり続けているのだ。意外にも初の本戦進出の高橋。研鑽を怠らないベテラン棋士の活躍が楽しみだ。

(君島俊介)

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