現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 将棋
  4. 朝日杯将棋オープン戦観戦記
  5. 記事
2011年12月5日14時52分
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

<  第5回朝日杯オープン戦観戦記第11局  > 2次予選決勝 ▲藤井猛九段―△行方尚史八段

初代覇者が本戦へ

対局日:2011年11月18日

第1図拡大  

第2図拡大  

第3図拡大  

第4図拡大  

第5図拡大  

第6図拡大  

終了図拡大  

■再戦

 「藤井と行方」、「朝日杯二次予選決勝」。このキーワードでピンと来たなら、なかなか鋭い。藤井と行方は、昨年も朝日杯二次予選決勝でぶつかっているのだ。その時は、177手の大激戦を制して行方が本戦へ進出。「あの将棋か」と思いだすファンの方も多いだろう。

 今年は藤井が中村太地五段を、行方が野月浩貴七段をそれぞれ下し、二次予選決勝で再び相まみえることとなった。

 第1図の△5五銀が堂々たる一手であるが、少しずうずうしかった。▲7五歩に△8八角が問題視された構想。すかさず▲5六歩と反発され△4四銀に▲2八角と据えられてしまった。「△5五銀〜△8八角はどうなの。それはないんじゃないの」と藤井。「いや、昔の形はすっかり忘れちゃって」と苦笑する行方。「△5三銀と引けば△8八角はあるの?」(行方)。「うん。それは難しい。課題の局面だね」(藤井)。仲のよい両対局者、局後にポンポンと言葉が飛び交う。

 ▲4五歩の突き出しを狙った▲2八角を前に、行方の動きが大きくなった。「いやいやいや」という行方の声が聞こえ、後手の苦しさが伝わってくる。「▲2八角に△9二飛は完全にゴメンナサイの手ですからね」と局後の行方。やはり後手の失敗は明らかだった。

■「行方君だけ」

 悠然として外を眺めるような凜(りん)とした藤井の姿勢は、盤側で見ていてもほれぼれする。しかし、第2図の△8一香を見た藤井は、前のめりに盤をのぞきこむようなしぐさを何度か繰り返し始めた。

 「変な手です。ここに香を使うようでは」と非勢を認めた行方。一方の藤井は「そこに打つのは行方君だけだよ。ただ……」と言葉に詰まった。後手は苦しいながらも、良い粘りだったようだ。

 後日、行方に藤井の対局姿が変わったことを尋ねると「ええ、変わりましたね。またおかしな手をやってきたなと思ったんじゃないですか」と人懐っこい笑顔で話した。

 △8一香に藤井がしばし考えて「あっ切れてる」と声を上げる。藤井は1分将棋となり▲4八角と自陣へ引き上げた。

 第3図の▲2六角が疑問手。▲2六角は7一へ成って8一の香を拾いにいく狙いだが、▲3七角左と活用すべきだった。▲9一角成と、同じ香でも9一の香を取りにいくのが勝った。藤井の頭には、打たれた8一の香を掃除してやろうという思いがチラついていたのかもしれない。

 第4図の▲6八金打では▲9二馬△同香▲6二飛△4二銀▲6六飛成と桂を抜く順も考えたと言う藤井。「この順がいいかどうか、確認する時間がなかった」と声を漏らした。感想戦で▲6六飛成の局面も調べられ、先手にとって有力だったことが分かった。

■悩ましい応手

 第5図の△7五角が悩ましい一手。応手は(1)▲4八歩(2)▲4八香(3)▲2八玉の3択だ。

 藤井は▲4八香を選択。しかし△7五角には▲2八玉が最善だった。

 「▲2八玉は△3九金がイヤだった」と藤井。「△3九金は▲7四馬と引かれてまずいので、▲2八玉にも本譜と同じように△6六金とするつもりだった」と行方。「そうか▲7四馬で大丈夫なら、何も駒を使う必要はないよな……。3択で1番ひどい手を選んでしまった」と藤井は訥々(とつとつ)と話す。ちなみに▲4八歩は、4三へ歩が打てなくなると思い、断念したようだ。

 香を手放してしまったために、2筋に攻めの香を据える順もなくなった。▲4八香から形勢の針は後手に傾くこととなった。

■先手の攻め、届かず

 その後、藤井は3筋から攻め続けた。第6図の▲4五桂△4三金に▲3三銀△同銀▲同桂成△同金▲3五竜も考えたという。しかし△2四銀打▲3四歩△3五銀▲3三歩成△同玉▲3四金は、△2二玉で▲3五金と銀を取っても△7九飛の2枚飛車が厳しく先手が負けの変化だ。

 藤井は▲4五桂以下△4三金に▲3四銀でゴリゴリと攻めを続けるが、どうも細くなってしまっている。もう一歩あれば攻めがつながりそうだが、どこにもうまく拾える歩がなかったのが先手にとっては痛い。

 行方は丁寧に藤井の攻めを面倒を見て反撃に転じた。終了図の△3七金に藤井は黙って駒台に手を置き頭を下げた。

 終局後、藤井は「昨年の方がいい将棋だった。もうちょっと成長しないとね」と笑顔で行方に視線を送る。行方は行方で「定跡に貢献しない序盤で、ひどかったです」と苦笑いをして本局を振り返った。

 12月3日に華燭(かしょく)の典を挙げる行方。公私ともに充実している初代覇者が本戦の舞台へ帰ってきた。

(滝澤修司)

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介