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2011年12月8日17時33分
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<  第5回朝日杯オープン戦観戦記第13局  > 2次予選1回戦 ▲山崎隆之七段―△豊島将之六段

山崎が快勝

対局日:2011年11月21日

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■戦形は横歩取りに

 関西の未来を担う二人が、2次予選で激突した。

 本局が行われたのは11月21日。午前9時43分、豊島が先に対局室に入った。さっぱりと髪を短くしている。2分後に、厚手のジャケットを着た山崎が入室。前日からぐっと気温が下がり、冬の訪れを感じさせた。

 山崎は眼鏡を対局用のものに取り換えると、一礼を交わしてから駒箱を開けた。両者は大橋流で駒をマス目に運ぶ。記録係の星野良生三段(23歳、西村一義九段門下)の振り駒は歩が3枚出て、山崎の先手番となった。定刻の午前10時に対局が開始された。

対局が始まると、両者は申し合わせたように指し手を進め、戦形は横歩取りとなった。

後手は第1図から△8四飛と引き、▲8七歩に△2四飛と転回した。

■20代での挫折

 2月に30歳を迎えた山崎。14歳で三段になり、17歳で四段に昇段。将棋界の勢力図が東高西低だった当時、関西の将来を担う若手として期待された。実際、新人王戦で優勝するなど、期待通りの活躍を見せていたが、22歳のときに谷川浩司王位(当時)と戦った第16期竜王戦決勝トーナメントで挫折を味わう。優勢のまま迎えた最終盤で、簡単な勝ちを逃してしまったのだ。「楽観していたのならともかく、集中していたのに……」

 ひどい逆転負けで自分自身に失望し、自暴自棄になってしまった山崎は、この後対局で早指しが目立つようになる。次第に勝率も落ちていった。「昔に勉強した貯金を崩していただけ」と山崎は振り返る。そして、20代後半に差し掛かった山崎を救ったのが、豊島を始めとする関西の若手棋士だったのである。

 第2図の▲6八銀に豊島は△4二角と引いたあと、右銀を繰り出して先手の7五歩を狙っていく。第3図は先手が▲4六銀と引いた局面。次の一手が疑問だった。

■若い世代の刺激

 豊島は4月に21歳を迎えた。13歳で三段リーグに入り、17歳になる1か月前に四段へ昇段した。豊島の同世代には、糸谷哲郎五段、稲葉陽五段、船江恒平四段など多くの関西棋士が名を連ねる。

 彼らが奨励会の有段者だった頃、いち早く声をかけて稽古をつけたのが山崎である。これが山崎に新たな刺激をもたらした。「彼らと触れあうことで、昔の自分に戻れた気がした」(山崎)。豊島の世代は、谷川浩司九段や久保利明二冠を始めとする上位棋士とも研究会を行っていたが、そこには中間世代の山崎がパイプ役となっていた。

 豊島は山崎のことを「奨励会の時は実力差が大きいのに、沢山練習将棋を指してもらって、非常に勉強になりました。山崎さんは魅せる将棋でうらやましいですが、自分がまねすると空中分解してしまうので、あまりまねしないようにしています」と話す。

 第3図から豊島は△6四銀と出たが、△8六歩▲同歩と突き捨ててから△6四銀とするべきだった。以下▲5五銀△7五銀▲7七銀△3一玉が感想戦で示された進行。「これでも自信があるわけではないが、断然こっちでした」と豊島は語る。

 なぜ△6四銀が疑問だったのか。遅れて突いた△8六歩(第4図)の次の手で、その理由がはっきりわかる。

■山崎優勢

 これまで両者の対戦は2度あり、山崎が連勝している。3年前の1月に行われた初対戦では、山崎の気合の入った表情が印象的だった。今年の3月の対戦では、山崎が力強い指し回しで豊島を圧倒した。

 第4図から▲8六同飛が強手で、形勢の針が山崎に大きく傾いた。以下△同飛▲同歩△5五銀に▲同角は△2五飛が角桂両取りだが、▲8二飛が厳しい打ち込みだった。豊島は終局するとすぐ、第4図の周辺について話し始め、苦笑いした。何か錯覚があったのだろう。

 △8六歩で単に△7五銀と出ると、▲6六銀とぶつけられ△同銀▲同角で先手ペースだ。△8六歩の突き捨てが入っていると、▲6六銀には△8六銀と出て後手良しとなるのだ。

 第5図は後手が△2九飛成とした局面。3八の金取りだが、山崎は攻め合いに出た。

■先手、決めに出る

 山崎は第5図から、金取りを放置して▲8一飛成と桂を取った。一瞬、豊島が体を後ろにそらしたが、淡々とした表情のまま△3八竜。

 すると先手は駒音高く▲5五角と飛び出した。次の▲6二銀からの寄せが厳しい。後手は2二の歩が壁になっているのが泣きどころだ。本譜は▲5五角に△3一金と引いて逃げ道を作ったが、やはり▲6二銀からの寄せが厳しかった。

■山崎、二次予選決勝へ

 第6図は▲7三角成に後手が△4二銀と引いた局面。数手前から1分将棋に入っている山崎は、何度か駒台に手をやる。50秒を過ぎると利き腕である左袖をまくり、58秒の声で鋭く▲2四桂と3二への逃げ道をふさいだ。

 豊島も1分将棋に入り△2三歩としたが、手つきには力がない。山崎は▲5三銀と打ち、勝利を確実なものにした。

 終局は午前11時33分。▲2三歩を見た豊島は投了を告げた。以下は△2三同玉▲3四銀△同玉▲3二竜△3三桂打▲2三角△3五玉▲3六金△4四玉▲5五銀以下の詰みになる。勝った山崎は午後2時から本戦進出をかけ、菅井竜也五段と対戦することとなった。

 勝負所のミスが響いた豊島は「途中までは難しい将棋でしたが、一気に必敗形になりました。中継もありましたし、あそこ(第4図)でしっかり指していれば面白い将棋になっていたと思うので残念です」と本局を振り返った。

(池田将之)

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